第26話 信じられない光景
避難所に到着した俺は、すぐにアンデッドの数と位置を確認する。避難所全体に十数体いることが分かった。夜明け直後なので姿は見づらいが、4足歩行で頭は人なのに体は蜘蛛っぽい感じの体長は3メートルはあるアンデッドだ。
「くそっ! 銃弾がほとんど効かないぞ!!」
「向こうにも行ったぞ。住民にも被害が出る!」
銃弾を撃ちながら自衛隊員が後退していた。下位のアンデッドなら銃弾でも倒せるだろうが、上位のアンデッドにはさすがに効かなかったようだ。
アンデッドが自衛隊に襲い掛かり、かぎ爪のような足を振り上げた。
「うわーーーっ!!!」
「轟雷!!」
いくつかの稲光が2体のアンデッドに降り注ぎ、7~8メートルは吹き飛ばした。魔物は痙攣しながら地面に転がっている。
「大丈夫ですか?」
いつもモンスター狩りをしているときは、“隠密”を使ってなるべく周りに気付かれないようにしているが、今はそんなことを言っている場合ではない。“隠密”は自分から攻撃するとその効果が薄くなってしまう欠点がある。
「あっ‥‥‥ああ」
自衛隊員は目が点になったような状態で俺の方を見ていた。
先ほど吹き飛ばしたアンデッドがむくっと起き上がり、こちらに向かってきた。いままで倒していたアンデッド(下位)であれば今の一撃で終わっていただろう。
“複合魔術”の影響で“雷魔法”の扱いやすさも向上していた。雷魔法は他の全ての魔法の中でも最も威力の高い攻撃力を持つ。
その魔法を受けて立ち上がってきた。この魔物は魔防が高く“魔法耐性”もあるせいで魔法が効きにくくなってるようだ。
「ガァーーーーーーッ!!」
大口を開けて迫ってくるアンデッドに向かって静かに唱えた。
「複合魔法“雷炎”!!」
強力な雷に撃たれた後アンデッドは激しく燃え上がり、のたうち回っている。
しばらくして完全に動かなくなった。魔法耐性があろうと、より強力な魔法をぶつければ関係ない。それに‥‥‥
「“重力圧殺”!!」
もう一体の方も簡単に潰れた。重力操作は“スキル”であって“魔法”ではないので魔法耐性があっても影響ない、重力操作はアンデッドに対しては無双状態だ。
かといってあまり頼りすぎると魔法が上達しない感じがするので極力、魔法で倒すようにしよう。
外が騒ぎになっていたので、眠っていた避難者がぞくぞく起きてきた。被害者が増えるかもしれないので早めに決着を付けよう。
空に浮かんで高速で他のアンデッドのもとに向かう。
「おいっ! なんだアレ、人が空を飛んでるぞ!?」
「化物が襲ってきてるのか!?」
騒ぎになってきたようだ。まあアンデッドを倒すのにそんなに時間はかからないと思うが‥‥‥。
その日、避難所にいた人たちは信じられない光景を目撃する。
大型の化物が避難所に襲撃してきたことも本来は大変なことだが、それ以上に信じられなかったのが、人が空を飛びながら“魔法”で化物を薙ぎ払っていたことだ。
何発もの落雷が化物を襲ったかと思えば、幾多の炎の槍が化物に突き刺さる。
化物達は次々と倒れ、動かなくなっていった。
「これ夢じゃなくて現実だよな?」
自衛隊も戦闘をやめ呆然とその光景を眺めていた。
数体の化物に男が囲まれ、その一体に突き飛ばされていた。ヒヤッとしたが男は平然と立ち上がり、手をかざすと化物はメリメリと音をたて、地面に押し潰されたようにペシャンコになって死んでしまった。
その後も、ひときわ大きな雷が落ちて化物が黒焦げになったかと思えば、強い突風が吹いて気付いたら化物がバラバラに切り裂かれていた。
十体以上の化物を倒した男は何も言わず、そのまま飛び去ってしまった。
その光景を見ていた避難民や自衛隊員は今起きた出来事を信じられないまま、男が飛び去った空をただ見つめていた。
「あぶない、あぶない!」
油断していたところ、接近され吹っ飛ばされてしまった。やはり魔法使い系は近接戦闘が苦手だからな気を付けないと‥‥‥‥。
家に帰った後、午後からはいつもどおりアンデッド狩りに精を出し、その日のうちに“大魔導士”がカンストした。アンデッド(上位)を倒したのが大きかったようだ。
ステータスの上昇はこうなった。
大魔導士 Lv99
HP 306/306 → 388/388
MP ∞/∞
筋力 125 → 160
防御 79 → 104
魔防 177 → 238
敏捷 95 → 122
器用 212 → 262
知力 317 → 478
幸運 123 → 173
【職業スキル】
魔術 Rank A
回復術 Rank C
複合魔術 Rank F → Rank D
獲得“魔法” 雷魔法(Ⅰ)×2 風魔法(Ⅰ)
SRの大魔導士のステータスは合計で500近く上がっている。やっぱりステータスの上昇だけを見れば無職が最高に効率がよかったと思う。
だが複合魔術によって雷魔法の使いやすさが上昇し、強力な複合魔法が使えるようになったのは大きい。
これだけステータスが上昇していればモンスターが襲ってきても、後れをとることはないだろうが‥‥‥。
大魔導士をカンストしたら東京に行ってみようと思っていたがアンデッド(上位)のような魔物がわんさかいるなら、もう少しレベリングした方がいいのかもしれないな。
後はなんの職業のレベリングするかだ。接近戦に弱いので“戦士”や“武道家”を極めるのもいいだろう。
色々な職業を試していって、何を集中的に鍛えていくか考えるのもいいかもしれない‥‥‥‥しかし‥‥‥どうしても気になることがある。
それは、職業ランクの限界がどこかということだ。“A”が限界なのか、それともその上に“S”があるのか? “SSS”がある可能性もある。
もし“SSS”まで上がるなら、どれほど強くなるのか想像もできない。
試してみないと何をどこまで極めればいいのか分からない。性格なのか、とことん極めないと気が済まない所があるからな。
そうなれば現在、職業ランクが“A”で最も成長しやすい“魔法使い”を極めるべきだ。魔法使いの職業ボードは、まだ7枚ある。
全部使ってみて、職業ランクがどこまで上がるか調べてみよう。
そう考えて魔法使いの職業ボードを取り出し、Yの文字をタッチした。




