第120話 五条の教え子
あれが“統率者”か………間近で見るのは初めてだな。大きな狼は警戒して様子を見ているが、他の狼はかまわず僕に攻撃を仕掛けてきた。
「ノア!」
「大丈夫だよ」
僕は二丁の拳銃を狙いを定めずに撃ちまくる。全ての弾丸は狼には当たらない………だが――
弾丸は軌道を変え、狼を追尾し着弾した。
「グガッ!?」
「ギャンッ!」
予想していなかった方向からの攻撃に狼は避けることができず、体の中にめり込んだ弾丸は爆発した。
魔法が付与された特別な弾丸だ。次々と吹っ飛んでいく狼に“統率者”は激昂し、僕に向かって突っ込んでくる。
「エミリー!」
僕の足元に闇が広がる。一瞬で僕の体を飲み込み、別の場所へ瞬時に移動させた。“統率者”は何が起きたか分からず辺りを見回している。
そして――
「グガッ!」
“統率者”の周りに小さな黒い球体が無数に浮かんでいる。エミリーは固有スキルの“黒陽”を分割して空中に配置していた。
この“黒陽”に触れれば体に風穴が開く、これでアイツの動きは封じたぞ。
「みんな、今だ!」
上空に待機していた飛竜は地上近くまで降下して、背中からアーサーたちが飛び降りてくる。
「複合魔法――雷炎!」
サラが放った魔法は狼数体に命中して、そのまま炎上した。
「ビクター頼む!」
「分かった」
ビクターが撃ち出した炎の魔法は、アーサーの剣に燃え移り炎の魔法剣となった。剣身は一瞬で10メートル近い長さの炎となり、狼たちを薙ぎ払う。
地上に降りたルイスは足に“気功”を集中させた。一歩踏み込むと爆発的な加速となって狼との距離を一気に詰める。
銀色の手甲を纏ったルイスの拳は、易々と狼の頭蓋を砕く。
向こうはみんなに任せておけば大丈夫だな。あとは……。
僕は狼の“統率者”に向き直る。
「コイツを倒せば決着だ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
なんだ、この子供たちは? こんなに小さいのに聖域の騎士団の正規メンバー並みに強いぞ。
「いやーまいったね。あの子たちこんなに強かったのか」
「カルロ、知ってるのか?」
「知ってるも何も、俺がイギリスに送り届けた五条の教え子だよ」
この子たちが!? いったい、五条は子供に何を教えてたんだ。
「なんにせよ、すぐに援護に行くぞ!」
「待って、レオ!」
フレイヤが急に声をかけてきた。
「なんだ?」
「アレを見て……」
見ると大きな杖を持つ少女は、何かを唱え自分の影をフェンリルへと伸ばす。影の中から無数の黒い“手”が伸びてきて敵を捕らえようとした。
嫌がったフェンリルは藻掻きながら、その場を飛びのく。
移動する時、周りにある黒い球体に触れたのか体中から血が噴き出している。
少女が杖をかかげると頭上に巨大な黒い球が現れ、ブラックホールのように周囲の物を飲み込もうと拡大してゆく。
球体はゆっくりとフェンリルに迫っていった。フェンリルは吸い込まれないように大地に爪を立て必死に耐えているようだ。
そんな時、突然、銃声が鳴り響く。
視線を向けると、さっきフェンリルから逃れた少年が自分の影に向かって銃を撃ちまくっている。
するとフェンリルの影から弾丸が現れ、着弾すると爆発し炎上した。
踏ん張ることのできなくなったフェンリルは球体に飲み込まれ呆気なく、この世から消滅してしまう。
俺たちがあれほど苦戦した相手を簡単に倒すなんて……。
周りを囲んでいた狼たちも聖域の騎士団や“朱雀”のメンバー、そして子供たちで倒し、残りの狼は逃げていった。
「まさか子供に助けられるとはな……」
俺の言葉にカルロは苦笑いしている。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありがとう、本当に助かった」
「い、いえ……」
憧れのレオさんにお礼を言われるなんて……初めて話すから緊張するな。
「君たちはどうやって、ここまで来たんだ? イギリスにいたはずだろう?」
「はい、僕たちはイギリスで避難していたんですが、避難所がドラゴンに襲われて……なんとか戦って他の人たちを逃がしてたんです」
「いきなりドラゴンと戦ったのか?」
「五条先生に戦い方を教えてもらったのと、僕たちと一緒にイギリスに来た双子の異能者の子が戦うための武器を作ってくれたんです。あれが無かったら、ここまで来られなかったと思います」
「そうか……すまなかった。君たちをイギリスに行かせたのは俺の判断ミスだ。許してくれ」
「そんな…………でも、そのおかげで自分たちの力がドラゴンにも通用することが分かったんです」
アーサーやサラなど、みんなも集まってくる。これからどうするかは、すでに話し合って決めていた。
「レオさん、僕たちも一緒に戦わせてください。みなさんの力になりたいんです!」
これは他の子も同じ気持ちだ。僕たちは聖域の騎士団の役に立つために一生懸命がんばってきたし、先生もそのために色々教えてくれたんだから……。
「いや……いくらなんでも、それは……」
「レオ、ちょっと」
レオさんとカルロさんが向こうに行って、何かを話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「レオ、今は猫の手も借りたい時だ。彼らに協力してもらおう、実力は見ただろ? 闇魔法を使う子も凄いけど、使い手が少ない“複合魔法”や“気功武術”を使う子までいる」
「それは分かっているが……」
「それに彼らは飛竜に乗ってここまで来た。ドラゴンは気性が荒いからフレイヤのように竜騎乗のスキルがないと本来、騎乗なんてできない。それをあんなに手なずけてるってことは“魔物使い”技量が高いってことだ」
「だが、危険すぎる。何かあったらどうするんだ?」
「このままじゃ遅かれ早かれ、人類は絶滅する。止められるのは今だけだと思うよ。それに……」
「なんだ?」
「あの子たちは聖域の騎士団に入るのが夢なんだって」
「………そうか、分かった」
俺は子供たちのもとへ向かう。この子たちは五条が残してくれた希望なのかもしれない。
「君たちにお願いがある。聖域の騎士団に正式に入ってほしい。俺たちと一緒に戦ってくれないか?」
子供たちの表情がパッと明るくなる。
「もちろんです! よろしくお願いします」
俺たちの仲間に小さな子供たちが加わった。だが、これから行こうとしてる場所は世界で最も危険な地獄だ。
「ノア……もう知っていると思うが、五条は――」
「先生は死んでませんよ」
なんの疑いも持っていない返答に、少し驚いた。
「あの先生が死ぬはずありません。僕たちは先生が戻ってくると信じてますから、それまでみんなで頑張るだけです」
他の子たちも笑顔で頷いている。そうか……そうだな。希望が無ければ前には進めない。俺も信じることにするか。
「分かった。これからバンコクへ向かおうと思ってるが、その飛竜には俺たちも乗ることができるのか?」
「はい、クロエが近くにいれば一体につき、2~3人は乗れると思います」
だとしたら、主要な戦力は連れていけるな。
「みんな疲れているところ悪いが、すぐにバンコクに行こうと思う。時間が経てば経つほど世界中の被害が広がるからな、一緒に行ってくれるか?」
「当然、行くに決まってるだろ!」
カルロを始め、他のメンバーも当たり前といった表情で俺を見る。
「王、君はどうだ?」
できれば王にも来てもらいたいが………。
「当然、私も――」
「待ってくれ、王!」
声をかけたのは“朱雀”の副団長、劉だった。
「中国の“統率者”を倒したとしても、まだ危険が去ったわけじゃない。王が国外に出ることは中国政府が認めないだろう」
「だが今戦わないで、いつ戦うんだ!」
「以前、王がイギリスの討伐にいった時、インドから魔物が雪崩込んできた。今回も同じような状況になるかもしれない……我々には王が必要なんだ」
「しかし……」
「王、君はここにいてくれ」
「レオ!」
「君じゃなきゃできないことがある。後は俺たちに任せてほしい」
王は最後まで渋ったが、世話になった“朱雀”にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。なんとか説得して王には残ってもらうことにした。
全員が飛竜に乗り準備をする。もう日が暮れ始めている……今からバンコクに行けば夜明けが近くなってしまう。
万全を期すために日中は身を潜め、情報収集をしながら魔力や体力を回復させて夜になってから行動を開始するのがベストだろう。
「王、行ってくる。黒騎士が持つ黒い宝石を破壊できれば、世界に魔物が溢れる状況は改善されると思う。良い報告ができるように最善を尽くすよ」
「気を付けてな。レオ」
「ああ、行くぞ!」
それぞれの飛竜が羽ばたき、日の沈んだ空へ飛び立った。




