第101話 解体
「今回の討伐の成功ですが、要因となったのはやはり新しい武器の製造体制が確立したことが良かったということでしょうか?」
「ええ、国連の発表では怪物に有効な“火薬”の製造に成功したとのことです。今までは榴弾のように特殊金属を利用した爆弾が主流でしたが、火薬その物が製造できたとなれば武器としての威力は跳ね上がるでしょうね」
「今後は異能者の方が直接戦わなくても問題ないと?」
「そうですね。欧州や国連はこの武器の製造方法を各国に公開することを考えているようです。世界で知識や経験が共有できれば各国の軍隊だけで化物の脅威に対抗できるでしょう」
「ありがとうございます。今回は軍事学者のモーリス先生にお話を窺いました。ニュースビジョン、今夜はこの辺でお別れです」
夜、ジュネーブのホテルの一室に集まりレオやアレクサンダーと共に”プロメテウス”の討伐成功を伝えるニュースを見ていた。
「だ、そうだよ。僕らはお払い箱ってことかな?」
「拗ねてるのか、カルロ」
アレクサンダーが少し呆れた顔で言ってきた。
「まさか、ただ気分は良くないよね。リビアの“統率者”の情報はあまり無かったけど強くはなかったのかな? どう思う、レオ」
「さあな、各国の“統率者”の強さは実際に戦ってみないと把握するのは難しいだろう」
レオは何かを考え込むように、番組が終わったテレビを見つめている。
「なんにせよ。この戦力と俺たちが共闘する形にはならないだろう。聖域の騎士団はそもそも民間の私設部隊だ。有事だったから活動が国際的に認められていたが、魔物との戦いが収束してきたなら不要論が出てもおかしくはない」
「国家組織の“朱雀”とは違うからね」
俺たちは三人とも沈黙し、それぞれが考え込む。そんな中、アレクサンダーが口をひらく。
「仮に俺たち聖域の騎士団が無くなったとしても、世界が平和になっていくならそれはそれでいいと思うが‥‥‥」
「確かにな‥‥‥本当に平和が訪れるならそれでもいい」
レオはアレクサンダーの意見を肯定したが、厳しい表情に変わった。
「だが、このまま平和になる保証はどこにもない。そもそも何故、世界がこんな状態になったのか理由もまったく分かってないんだ」
レオは部屋の隅に置いてあったデュランダルに目を移す。
「この武器もサルマンがどうやって手に入れたか分からないが‥‥‥大量の武器があることにも何か意味があるような気がするんだ。まるで大きな意思が異能に目覚めた人間に戦えと言ってるような‥‥‥」
レオの言ってることは、もっともだけど政治は合理的に動いてくれるとは限らないからね。この心配が杞憂ならいいんだけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「えっ!? 先生、今なんて言ったの」
「みんなで中国に行く」
「「中国!?」」
子供たちが驚きの目で見ているが以前から考えていたことだ。日本でのアンデッドにもなれてきた頃なので、次は中国の魔獣と戦わせようと思う。
いい経験になるだろうし、それに――
「中国には知り合いがいるんだ」
【中国・吉林省 白山】
大型の狼が走って向かってくる。王は目を閉じ、意識を集中していた。狼が間近に迫った時、目を見開いて左足でおもいっきり狼を蹴り上げる。
王の全身にはハッキリと“気功”を纏っているのが確認できた。
高々と舞い上がった狼は、そのまま地面に落ちて動かなくなる。
「これでいいか、五条?」
「ああ、ありがとう」
子供たち、特に職業がモンクのルイスに王の戦い方を見せたくて連れてきた。王には事前に頼んでおいたが、快く引き受けてくれた。
「ルイス、王が使う世界一の“気功術”だ。参考になるだろ?」
「は、はい! 僕は王さんの大ファンなんです。握手してもらっていいですか?」
ルイスと握手している王は、どこか照れ臭そうだ。
「私より五条の方が、よほど“気功武術”はうまいがな」
王は謙遜してそう言ったが、ルイスは興奮して話を聞いていないようだった。“朱雀”の他のメンバーも自分たちの経験や戦い方、力の使い方などを子供たちに教えてくれている。
なかなか外に出られなかったからな、多くの人に教えてもらえる事を子供たちも喜んでいるようだ。
「五条、テレビでやってた新しい軍隊のニュースは見たか?」
「ああ、プロメテウスだったか」
「正直、驚きだな‥‥‥異能者の力を借りず純粋に軍隊だけで“統率者”を倒したケースは今までジョージアしか無かった。本当に新しい兵器が開発できたのかな」
「それに関しては、かなりあやしいと思ってるんだ」
「あやしい? どういうことだ」
怪訝な顔をしている王に説明するため、俺は向こうで”朱雀”のメンバーに話を聞いていたノアを呼んだ。
「ノア、魔道図書を見せてくれないか」
「え?」
「王に、あの話をしたいんだ」
「うん、分かった」
ノアは手の上に魔力を集中し、魔道図書を顕現させた。
「それが賢者の能力なのか、何が書いてあるんだ?」
「この魔道図書には、武器や防具、他には魔道具などの作り方が書いてるから剣や槍みたいな古い物が中心に書いてあると思ってたんだ。だけど、ここを見てくれ」
王は俺が示したページを興味深そうに覗き込んだ。
「なんだ? これは」
「より近代的な武器の作り方が書いてある。銃器など現代に通用するような‥‥‥魔道具というより“魔道兵器”と呼べそうな物だ」
「魔道兵器って‥‥‥でも、これとプロメテウスになんの関係があるんだ?」
「ここには火薬の製造方法も示されてる」
「火薬?」
「正確には爆薬の材料になる有機化合物を魔物から造り出す技術だ」
「魔物から? 本当に‥‥‥」
「プロメテウスは研究によって武器の製造に成功したっていってるが、実際は異能者に作らせてる可能性がある。それを隠してるんじゃないか?」
「そんなことあるのか!? 仮にも国民に選ばれた政治家なんだろ」
「民主的に選ばれたからって、みんなが清廉潔白なわけじゃない。異能者を排除したいなら、あらゆる手を使ってくるだろう」
「だとしたら標的にされるのは‥‥‥」
「ああ、レオたちが心配だ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
スイス・ジュネーブ グランドホテル――
「わざわざ足を運んでもらって申し訳ない。日程がなかなか取れなくてね。今日くらいしか時間が作れなかったんだ。感謝するよレオ、そしてカルロ」
俺とカルロは欧州議会議員が数人集まるホテルに呼ばれていた。目の前にいるのは欧州議会議長のハンス・ベレントだ。
「それでハンス議長、私たちに話というのはなんでしょう?」
「聡い君ならもう察しはついていると思うが、我々は議会で民間の私設戦闘行為の禁止を採決しようと考えている。議決されれば国連も同調することになるだろう」
予想通りの話だったので、特に驚くこともないが「ハイ、そうですか」と素直に言うわけにもいかない。
「君たちは世界的な功労者だ。事前に伝えておくのが礼儀だと思ってね」
「お話は分かりました。しかし世界の危機が完全に去ったとは言えない中での判断は早急なんじゃないですか?」
「レオ、我々も世界の危機が去ったなどとは思っていないよ。ただそれに対応できる準備ができたと言ってるんだ。君たちがこれ以上危険を冒す必要はないんだ。そうだろ?」
温厚な笑顔を浮かべているが、その目に悪意しか感じない。
「それで私たちに具体的に何をしろと?」
「まず、聖域の騎士団の活動停止を内外に発表してもらいたい。それは世界が安定してきたと人々に示すことになるからね。功績のある君達は、まさに平和の象徴なんだ」
カルロが鼻で笑った。俺たちを持ち上げる言葉を並べているが、本心でないことは子供でも分かるだろう。
カルロの態度にハンスは眉を寄せる。
「それともう一つ」
俺たちを見るハンスの目が鈍く光ったように見えた。
「君たちが持つ武器を渡してもらいたい」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちは中国から修道院に戻ってきていた。中国での本格的なレベリングは明日からにしようと思っている。
特にエミリーの経験を積ませるのが一番の目標だ。みんなが宿舎に戻ろうとした時、フィリップ先生が慌てた様子で声を掛けてきた。
「大変です。今、ニュースになってるんですが‥‥‥」
俺は子供たちと顔を見合わせ、すぐに談話室のテレビを見に行った。
「では採決はまだですが、この方針で変わらないということでしょうか?」
「そうですね。国連も同意しているそうですから」
「聖域の騎士団は荒廃した世界を牽引してきた存在だっただけに、大きな時代の変わり目と見ることができますね」
「ここまで聖域の騎士団の活動停止に関するニュースをお届けしました」
それは聖域の騎士団の事実上の解体を伝えるニュースであり、子供たちが願っていた唯一の希望が消えていった瞬間だった。




