第100話 プロメテウス
「プロメテウス‥‥‥また面白いものを考えたねえ」
カルロがテレビを見ながら呆れたように言う。今はカルロと共に国連の委員会に来ていた。魔物の数が減ってきたとはいえ、まだ油断できる状況にない。
「世界中の国が軍隊の強化を打ち出してるけど異能者の手を借りずにうまくいったケースなんて、ほとんど無いからね」
「そうだな‥‥‥ジョージアがなぜ成功したのかは分からないが、稀なケースだ」
俺はカルロの意見に同意した。
「だが欧州議会が異能者に対して否定的な考えを持つなら、国連や他の国も影響を受けるのは間違いない」
「今は欧州が世界をリードしてるからね」
「新設の軍隊を作るのはいいが、問題なのは我々の活動に支障があるかどうかだ」
人間同士が対立してる場合じゃないんだが、どうしても避けられないか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい! 出かけるぞ」
五条先生が教室に入ってくるなりそう言った。出かけるも何も、この国では外出制限が出ているのに何を言ってるんだろう?
「ノア、エミリーを呼んできてくれ」
「え!? でも‥‥‥」
先生に言われてしょうがなくエミリーの部屋にいく。エミリーは頑なに行きたくないと断ってきたが‥‥‥。
「おいエミリー! いつまで引きこもってんだ。行くぞ!」
五条先生が後ろからやってきて怒っている。エミリーは扉を閉めようとするが、気づいたら僕とエミリーは二人とも教室にいた。
「え!?」
「なに?」
突然のことに僕たち二人もそうだが、他の生徒も驚いている。
「何が起きたんだ!?」
混乱しているとエミリーが教室から出ていこうと走り出した。教室から出たと思ったらエミリーは僕の目の前にいた。
「え?」
「そうかエミリー、授業を受ける気になったんだな」
五条先生は呆気らかんと言ったが、エミリーは何がなんだか分からない様子だ。再び教室から出ようと走り出したが、またここに戻ってきた。
エミリーは呆然としているけど、これは五条先生の能力なのか?
「よし、全員そろったな。今から外に出かける」
五条先生はそう言うと目の前の空間に亀裂のようなものが入り、向こう側に別の世界が現れる。
「みんな、この中に入れ」
僕らは全員、呆気に取られた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「五条さん! 待ってましたよ」
「ああ、坂木さんお世話になります」
「先生‥‥‥ここって?」
「俺が生まれた国、日本だよ」
修道院の中から出られないと息が詰まるかと思って日本に連れてくることにした。EUのルールは日本では関係ないからな。
来るにあたっては日本政府、自衛隊それに修道院の許可も取ってきた。少し時間はかかったが、これでいろんな所に連れていってやれる。
「ここは自衛隊の岐阜基地だ。今日は授業は休みにするから市内に買い物なんか行ってもいいぞ」
子供たちは戸惑っている様子だが、桜木さんが来てくれてとりあえず岐阜基地の中を案内してくれることになった。
「大変ですね五条さんも、我々にできることがあればなんでも言ってください」
「ありがとうございます」
坂木さんは、そう労ってくれたが大変なのは俺じゃなく子供たちの方だ。これから先もいろんな制約を受けて暮らしていかなきゃいけないからな。
他の国が政治で決めることを俺が口を出すわけにもいかないし‥‥‥。
結局その日はお昼を自衛隊の基地で食べ、そのあと岐阜市内にある観光施設や店を回る。子供たちは楽しそうにしていたので少しでも息抜きになったのなら良かった。
ただエミリーだけは終始うつむいたままだ。夜には瞬間移動で修道院に帰って、明日また出かけることを生徒に伝え宿舎に戻らせた。
「エミリー、話があるんだ。いいか?」
エミリーは黙って頷き、俺の方に来てくれる。ノアが心配そうにこちらを見ていたが、俺が促すと黙って宿舎に戻っていった。
「エミリー‥‥‥分かってると思うが君の能力はこの修道院の中で一番危険だ。だからこそ誰よりもうまく使いこなす必要がある」
目の前の少女は、ただ黙って俺の話を聞いていた。
「俺がこの修道院に来た意味は色々あると思うけど一番はエミリー、君の力になることが重要な役割だと感じるんだ。俺じゃなきゃできないことも、教えられないこともあるはずだ」
初めて顔を上げ、エミリーは俺の顔を見る。
「一緒にがんばろう。君が危険だと思われないようにするから」
声を出さずに泣いている子供を見て、その思いをより強くした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
国際連合ジュネーブ事務局――
各国の報道陣が集まり、国連の発表を今や遅しと待っていた。そして広報担当事務次長がプレスセンターに姿を現しマスコミが注目する中、会見が始まる。
「欧州議会の正式な決定を受けて国連でも協議した結果、欧州と連携することで合意しました。欧州議会で組織されたプロメテウスと国連軍でリビアの“統率者”の討伐を行うことを、ここに発表します」
そのニュースは世界を駆け巡る。今まで魔物の“討伐”は、ほとんどが異能者によるものだった。
だが、この“プロメテウス”が討伐に成功すれば欧州議会のハンスが言ったように異能者に頼らない新しい時代が来たことを意味する。
世界はこの討伐の結果を固唾を飲んで見守った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわーーーっ!!」
「下がれ! 俺がやる」
ビクターが突然襲い掛かってきたアンデッドに慌てていると、アーサーが横から剣で薙ぎ払った。
「ああ、ごめん助かったよ」
「油断するなよ」
俺たちは東京にある“不死の王”がいたダンジョンに来ていた。日本の統率者を倒したといってもアンデッドの出現はまだ続いている。
特にこのダンジョンの中は出現率も比較的高いので子供たちに経験を積ませるのに丁度良かった。
「先生、もうちょっと下に降りる?」
「いや今日はそろそろ切り上げようか、最後にエミリーやってくれるか?」
ノアの横にいたエミリーは少しオドオドしているものの一歩前に出て頷く、洞窟の奥から二体のアンデッドが這い出してきた。
以前に比べればアンデッド自体も弱体化しているし、エミリーも固有スキルの“黒陽”こそ使いこなせないが、それ以外の闇魔法は扱うことができるので危険は無いと思っているが‥‥‥。
「侵食!」
エミリーが魔法を放つとアンデッドの足元に影が広がる。アンデッドは沼にはまったように影に沈んでゆき、そのまま消えて行った。
「よし! よくやった。これぐらいで戻ろう」
瞬間移動の亜空間を開き、フランスの修道院まで移動する。全員怪我などがないことを確認してから“鑑定”でレベルを測った。
一日で結構な数を倒しただけあって、子供たちのレベルは2~3は上がっている。エミリーは無理をさせないようにしていたが、それでもレベルは“1”上がったので安心した。
やはり実戦させた方が成長は早いな。力を使いこなせるようにするにはレベルを上げるのが一番早い、特にエミリーには必要だろう。
最後にノアのレベルを測ると‥‥‥。
魔道図書の職業ランクが“B”まで上がっている。「凄いな」と言って何が書かれているのか、ノアに中身を見せてもらう。
そこには予想していなかった物が書かれていた。
「これは‥‥‥‥」
そしてその夜、世界に大きなニュースが流れる。国連軍とリビアの“統率者”の討伐に出ていた対・変異生物迎撃部隊<プロメテウス>の続報である。
テレビのニュースではリビアから帰ってくる兵士たちが映し出されていた。
「今、部隊が無事に戻ってきました。リビアの“統率者”の討伐、成功です!」
なんとか100話まで到達できました。(設定解説を入れると101話になりますが)読んで頂いてありがとうございます。




