閑話-3
※鞭で叩かれる描写あり。
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一方ソフィアは、父親と母親が鞭で打たれている光景を、絶望した面持ちで見つめていた。
「父さんや母さんはもうあの年齢だし、背中に傷が残ったって、どうってことないでしょうけど……私はまだ若いのよ。絶対に嫌。醜い傷跡なんて残されたら、たまったものじゃないわ……」
自らの美貌に絶対的な自信を持つソフィアにとって、何より恐ろしいのはその美しさが損なわれることだった。当然、鞭打ちそのものの痛みも怖くてたまらないし、その後どんな労役場に送られるのかも想像するだけで胃がねじれるような不安が押し寄せる。
(どうして、ここまで重い罰を受けなきゃいけないの? お姉ちゃんは酷い……少しくらいかばってくれたってよかったのに、あっさり私を見捨てた……。それどころか、お姉ちゃんは先に生まれただけで、ありったけの才能を横取りした――がめつい女よ!)
怒りに震えながらブツブツと独り言を呟いていると、やがてソフィアの番がやってきた。
ヒュンッ――!
バシィッ――!
(つっ……な、何よこの痛さっ……! こんな……こんなのって――)
再び鞭が振り下ろされる。
ヒュンッ――!
バシィッ――!
(ぐ、はっ……やっ、焼ける……背中が焼けつくみたいに痛い……こんなの……ありえない……!)
想像をはるかに超える激痛に、ソフィアは顔を歪めた。額には脂汗が滲み、唇は見る間に血の気を失ってゆく。痛みの余り、頭の奥がずきずきとうずき、吐き気までもが込み上げてきた。
ヒュンッ――!
バシィッ――!
終わりの見えない地獄が、永遠に続くかのようだった。
(な……んでよ?……こんなの、耐えられるわけがない……私が悪いっていうの? 違う、違うわ。悪いのは、お姉ちゃんよ。あんなに成功して、お金も影響力も持っているはずなのに、私を守ろうともしなかった。ずるい……ずるいっ……! どうして私ばかり、こんな目に遭うの……!)
次の鞭が背中を裂くたび、意識が揺らいだ。
(こんな罰、いっそ首を落とされたほうがまだ楽かもしれない……痛みなんて一瞬で終わるでしょうに。もし――もし、もう一度やり直せるのなら……今度はお姉ちゃんになりたい。私が入れ替わって、あの癪に障るけれど、ずば抜けて麗しいサンテリオ侯爵様を手に入れて、贅沢に暮らしてやるのよッ! お姉ちゃんのものは全部、私のものにしてやるんだから)
掠れた、乾いた笑いが喉から漏れた。
「あまりの痛みに現実逃避を始めたか……まさか、この場で気を違えたのではあるまいな」
刑の執行補助人が小さくつぶやき、淡々とした声でソフィアに告げる。
「賠償金完済までの就労義務を終えた後、マリアに近づく行為が確認された場合は、本日科した罰の何倍もの苦痛を受けることになろう!――これは国王陛下の勅旨である!」
「……ふ、ふふ……」
痛みに晒され続けたソフィアは、一時的な錯乱状態に陥り、虚ろな笑いを漏らすだけだった。
しかし、やがて時間の経過とともに意識は次第に正気を取り戻し、背中の傷を抱えながら、労役場での苛烈な作業に従事する日々が始まる。
その仕事内容とは――。




