表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はもう他人です!  作者: 青空一夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/55

48

 馬車の揺れがやがて弱まり、速度が落ちていく。もうすぐ侯爵邸に着くのだとわかると、胸の奥がギュッと縮まった。侯爵様が重ねていた手が、そっと私の手の上から離れていく。そのぬくもりを失った瞬間、心の支えをひとつ外されたようで、思わず指先がこわばった。


 馬車が静かに停止した。鼓動の音だけが、自分の中でやけに大きく響いていた。

「……降りようか」

 侯爵様は先に馬車を降りると、振り返り、いつものように私へ手を差し伸べた。何度も繰り返してきた仕草なのだけれど、今夜だけはその意味がまるで違って見える。

(この手を取って、すぐに離れるのか。それとも……握ったまま、共に歩むのか)

 答えはまだ見つからない。ただ差し出されたその手を見つめるばかりで、私は立ち上がることすらできずにいた。


「……自分の思うままに行動していい。私への気遣いは、いらないよ」

 そう告げた声は、いつもの落ち着いた自信に満ちた響きではなく――不安を隠しきれない少年のように震えていた。 思わず顔を上げると、深い海のようなサファイアの瞳が、切なげでどこか悲しげな色を帯びて揺れている。

(侯爵様には、こんな顔は似合わない。だって、彼はいつも自信に満ちていて、朗らかで、優しくて、頼りになって……)

 そこで初めて、はっきりと自覚した。

(あぁ……私、侯爵様が好きなんだ。いつだって、彼には笑っていてほしい。悲しい顔も、不安な顔もさせたくない)


 私はゆっくりと侯爵様の手に自分の手を重ね、馬車から降ろしていただく。一度だけ手を離し、そして今度は自分から彼の腕にそっと手を添えて、微笑んだ。

「侯爵様、私をお部屋までエスコートしてください。……これから先も、ずっとこの腕をお借りしますね」

 その瞬間、侯爵様はぴたりと動きを止めた。まるで、自分が見ているものを信じられない、とでもいうように。その沈黙はほんの数秒だったのに、なぜかとても長く感じられた。

 ややあって――

「……あぁ……マリア……私を、選んでくれてありがとう。……結婚式はいつにしようか? あ、その前に婚約しなければ……早速明日、婚約指輪を――!」

 たちまち朗らかな笑い声を響かせ、私を一日でも早く妻に迎えようとする侯爵様に、自然と胸の奥が温かく満たされていく。彼の深い愛を感じると同時に、頬を伝う嬉し涙はもう止められなかった。


(あぁ……この方と一緒なら、どんな未来もきっと怖くないわ)

 私は侯爵様の腕に寄り添い、溢れてくる幸福を噛みしめながら、お屋敷へと歩を進めた。


 ――今夜、私はひとりではなくなった。

 これからは、隣にいるサンテリオ侯爵様とともに、同じ未来を見つめていく。

 たとえこの先に困難な出来事があったとしても、きっと私たちは、笑顔で乗り越えていけるだろう!



 完



 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

 最後までお読みくださり、本当にありがとうございました!

  少しでも「読んでよかった」「この物語が好きだ」と感じていただけましたら、評価のほうをしていただけると励みになります。

 本編はこれにて完結となりますが、閑話としていくつかお届けする予定です。ソフィアやその両親の“ざまぁ”をチラリと描いていく予定ですので、もし興味があれば引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
身分の差は侯爵夫人が養子にして後ろ盾になってくれそう 甥っ子とくっつかなかったのは残念がるかもしれないけど^^;
ドキドキ(^o^)o どこまでも裏切らない元家族。 いぃ人が見つかってよかったねぇ。 侯爵婦人ナイス仲人。 最後、考える間もなくマリアに選択を迫ったのはしっくり来なかったけど、 さんてりお侯爵さまは、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ