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その夜。
ファッションショーと断罪劇を終えた私たちは、王宮に招かれ、そのまま今宵はこちらに宿泊することになった。
王宮の晩餐の間では、国王陛下と王妃陛下、王女殿下をはじめ、サンテリオ侯爵様、ウィルミントン侯爵夫人、ヘバーン伯爵夫人が席に着かれ、私もその一員としてディナーを共にしていた。煌びやかなテーブルを囲む食事の席には和やかな空気が満ち、国王陛下を中心にたびたび笑い声がこぼれた。
「初めから、今回のファッションショーはソフィアたちの断罪につなげるつもりだった、というわけだな?……よくもまあ、王家主導の催しを利用し、余らをその気にさせたものだ。だが、民の反応は上々だった。下手な芝居より、よほど見応えのある“断罪劇”だったぞ。ファッションショー自体も大成功し、王都の景気にも良い影響が出るだろう――ならば良しとするか」
国王陛下は終始ご機嫌で、咎める様子はない。むしろ、公の場で正しい裁きが示されたことは犯罪の抑止にもなる、と豪快にお笑いになった。
王妃陛下も、ワイングラスをゆるやかに揺らしながら頷かれる。
「本当にその通りですわ。“正しい裁きが、公の場で示された”という点で、多くの者の胸をすっきりさせたようです。王女も、モデルを務められたことをたいそう喜んでおりましたし……」
それを受け、サンテリオ侯爵様が静かに一礼した。
「賢政を敷かれる国王陛下の大いなるお心に感謝いたします。マリアとサンテリオ服飾工房の名誉を守ることができ本望です」
ウィルミントン侯爵夫人が、扇子を傾けて柔らかく言葉を継いだ。
「マリアさんは努力を重ね、誇りを持って生きようとしている方です。あのような家族に再び縛られ、利用される未来は、どうしても避けさせたくて……マリアさん、 あの者たちは当分、自由の身になることはありませんし、 二度とあなたにつきまとうことはないでしょう」
ヘバーン伯爵夫人も落ち着いた声音で相槌を打った。
「そうですわね。ソフィアさんたちは10年以上は拘束されるはず。ご両親も2年の労役を終えた後には、接近禁止が命じられるでしょうし、破ればより重い罰になります。もう付きまとうことはありませんわ」
――私は、これでようやく縁が切れるのだと、静かに息を吐いた。あの人たちの不幸を望んでいるわけではない。ただ、もう二度と私の人生に踏み込んでほしくない。それだけだった。
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そうして私は、サンテリオ服飾工房で思い切りデザインに没頭する日々へ戻った。あのショーを機に、紳士向け――とりわけ夜会服の注文も増えはじめた。
ある日のこと。ウィルミントン侯爵夫人が、柔らかな微笑みを湛える若い紳士を伴い、サンテリオ服飾工房を訪れた。
「 マリアさん、こちらは私の甥のアリューゼ・ガルソンですわ。ガルソン伯爵家の次男で、いまは王立騎士団で次期小隊長候補として修練を積んでおりますの」
アリューゼ卿はまず手袋を外し、胸に当てて会釈した。立ち位置は半歩だけ私より引き、言葉を急がない。仕立て台の脇に置かれた布の端が落ちかけているのを見ると、さりげなく拾って整えてくれる――そんな人だった。
「マリア嬢、初めまして。 俺はアリューゼ・ガルソンと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ウィルミントン侯爵夫人、アリューゼ卿、ようこそいらっしゃいました。本日は、ウィルミントン侯爵夫人の新しいドレスの件でお見えになったのですよね?」
「いいえ、実はね」とウィルミントン侯爵夫人が扇子をたたむ。視線が、ほんの一拍だけ誰もいない扉の方へ流れ、すぐ私に戻ってきた。
(いったい、何を気にしたのかしら?)




