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「はい? それは……ご遠慮申し上げます。私たちはマリアのデザインを直接盗んだわけではありませんし、それを使って利益を得たわけでもありません。すべてはソフィアとレオナード様の罪ですから……どうか、それだけは勘弁してください」
母さんは身を震わせながら、国王陛下にペコペコと何度も頭を下げた。
「あら、まあ。先ほどの録音内容では、『親子の縁は簡単に切れない』とおっしゃっていたのに。しかも、マリアさんよりもずいぶんかわいがっていたお嬢様を、何の迷いもなく切り捨てるとは……」
ウィルミントン侯爵夫人は、まるで洗面台の排水口に絡まった髪を見るかのような視線を彼らに向け、すぐに扇子で顔を隠した。それ以上、私の両親を視界に入れるのが嫌だったのだろう。
ソフィアは、母さんの言葉が信じられないといった表情を浮かべ、それでも父さんなら何とかしてくれると思ったのか、必死にすがりつきながら声を張り上げた。
「父さんと母さんが手伝ってくれれば、私とレオナード様は早く解放されるのよ! 父さんが母さんを説得して、一緒に働いてよ! 4人で協力すれば、それだけ早く賠償金が支払えるのよ!『家族は助け合うのが当たり前だ』って、いつも言ってたでしょ?」
「あー、ソフィアや。いやいや、父さんには、とてもできないよ。もう少し若ければな、俺もソフィアのために頑張れるんだが……年齢には勝てん。足腰も弱ってきてるし、きっと労役場は炭鉱とか山林での伐採とか――ものすごく体力のいる危険な仕事に違いない。無理だよ」
父さんはまだそれほど歳でもないし、足腰が弱っているようにも見えない。結局はソフィアを助けるよりも、自分の身のほうがかわいいのだろう。
母さんも急に「目眩がする」などと言い出し、父さんの言い訳に乗るように口調を合わせた。
「私も最近、めっきり目が見えなくなってね。 腰や膝が痛くてたまらないのよ。 2年の労役ですらしんどいのに、それ以上働くだなんてとても無理だわ」
サンテリオ侯爵様とウィルミントン侯爵夫人は 苦笑していたし、 ソフィアの友人は呆れたように首を振っていた。その直後、 貴賓席に座っていたヘバーン伯爵夫人が「そのわりにはおふたりとも、お顔の色艶も良くお元気そうに見えますこと」と、扇子を口元に当てながら ぽつりとつぶやいた。それをきっかけとして、貴賓席に囁き声が広がっていく。
「……こういう時に、やはり人の本性というものは露わになりますわね」
「少しでも娘の負担を減らそうとは思わないのかしら。――まぁ、似た者親子ということでしょうけれど」
「まるで喜劇を鑑賞しているかのようですわね。しかも、人間の闇やエゴイズムも垣間見えて……これはこれで見応えがありますわよ」
ソフィアは顔を真っ赤にして叫んだ。
「父さんも母さんも恩知らずよ! ピナベーカリーが潰れた時は当たり前のように図々しく、私とレオナード様の新居に転がり込んできたくせに、私たちが落ちぶれた途端に逃げようとするなんて! 本当にずるくて、最低な人間だわ!」
私から言わせれば、どっちもどっちだと思うけれど――ソフィアはまるで自分だけが悲劇のヒロインであるかのように、悲壮な顔で声が枯れるまで泣きわめいていた。レオナード様は魂が抜けたかのような顔で、ステージの床に呆然と座り込んでいて、場の空気はすでに混沌の渦と化している。
せっかくのファッションショーも、これでは台無しではないかと私が思いかけた――そのとき。宮廷楽師たちが現れ、軽快な音楽がコロッセウム内に弾ける。そのすぐ後、宮廷付きの幻術師たちが舞台に立ち、鳩を光の粒から生み出したり、空中に幻想的な火の鳥や氷の花を舞わせたりと、観客の関心は徐々にソフィアたちから華やかな魔導ショーへと移っていった。
その裏で、ソフィアたちは王家の騎士によって静かに連れ出されていき――こうして喜劇のような断罪劇は、ひとつの幕を下ろしたのだった。
その夜。
ファッションショーと断罪劇を終えた私たちは――




