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ソフィアへの断罪が下され、観客席にはざわめきが満ちていた。それを断ち切るかのように、国王陛下は静かに口を開いた。
「さて……次は、レオナードの処分についてだな」
その言葉が落ちた瞬間、レオナード様の喉がひゅっと鳴り、反射的に背筋が伸びる。顔色は紙のように白くて、震える唇が恐怖を隠しきれていなかった。
「ひっ……へ、陛下! ぼ、僕は……」
目には涙をにじませ、鼻をずるずるとすすりながら、顔をくしゃくしゃに歪めて、震える声で必死に言葉を絞り出す。
「ぼ、僕は、何の罪も犯していません! 全ては妻のせいなんです! マリアに会いに行こうと言ったのもソフィアで……ドレスのデザイン画を盗んだのも彼女です! この女は嘘つきで、自分勝手で、欲深で……どうしようもないクズなんです! 僕は騙されただけで、むしろ被害者なんです!」
一般の客席から、嘲り交じりのどよめきが起きた。
「うわ、女房を見捨てるのかよ……」
「最低だな」
「情けなさすぎるだろ」
自己保身のために平然と妻を切り捨てるその姿は、見る者すべてに軽蔑を抱かせた。
私も胸の奥でため息を漏らす。
(あまりにも見苦しい。自分は少しも悪くないと言い張るなんて、さすがに無理があると思うのだけれど……)
国王陛下も、やはりそう思われたようだ。まるで、ゴミを見るかのような眼差しでレオナード様を見ている。
「……妻をかばうどころか、全ての罪をソフィアひとりに押し付けるか……。見苦しいにもほどがあるぞ」
「ち、違います! 僕は……ただ……本当のことを申し上げただけです」
「黙れ!」
威厳に満ちた一言だった。その声には一切の情けも、許しも感じられない。レオナード様の肩が大きく跳ねた。
「レオナード! そなたにも威力業務妨害罪および意匠盗用の罪を問う。よって、賠償金完済まで労役場にて働き、罪を償え! 鞭打ちの刑は科さぬ代わりに、これから先死ぬまで服飾工房を営むこと、およびファッション業界に携わることを禁ずる。盗作で名を得ようとする愚か者に、再びこの業界に立つ資格はない!」
「そ……そんな……あんまりだ」
悲壮な声がレオナード様の口から漏れた。レオナード様の未来は、その瞬間、完全に断ち切られてしまった。鞭打ち刑は免れたものの、労役を終えても、一生を支えるはずだった服飾関係の仕事には二度と戻れない。彼はその場で膝から崩れ落ち、目の焦点を失ったまま、呆然とステージの床に座り込んでしまった。
またしても一般席からは、遠慮のない会話が次々と漏れ始めていた。
「終わったな、あいつ……」
「むしろ鞭打ちの方がマシだったかもな」
虚ろな表情のレオナード様には、おそらくその声は聞こえていないかもしれない。
一般席にいた私の両親も、王家の騎士たちによって容赦なくステージ上へと引きずり出された。国王陛下は冷徹な視線を二人に向け、厳かに裁きを下す。
「威力業務妨害、恐喝。そして窃盗については、そなたらもソフィアの共犯とみなす。よって、後日、王都中央広場にて鞭打ち刑に処し、その後は2年間、王国管理下の労役場にて罪を償え!」
そこまで告げてから、陛下はわざと観衆にも聞こえるよう、ゆっくりと言葉を続けられた。
「なお、ソフィアおよびレオナードの労役は、損害賠償の額からすれば10年以上に及ぶであろう。……そこで、ひとつ提案がある」
一拍置き、静かな声音で問いかけた。
「親子である以上、共に罪を背負い、共に償う道もあるだろう。ソフィアたちが請求された賠償金を4人で負担するならば、ソフィアはより早く労役場から解放される。――家族は助け合うものであろう?」
(なるほど……父さんと母さんが、自分たちに科された2年を超えて、さらに長く労役場で働くということね。4人で負担すれば、たしかに賠償金の返済は早まる。……さて、私の両親はなんと答えるのかしら?)




