38 ソフィア視点
※ソフィア視点
※ソフィア視点
(だいたい、あれは自分の思いつきを描いただけのデッサン画だと思っていた。なのに、すでにお客様に届けられた後のドレスのデザイン画だったなんて……納品済みの仕事の資料を、いったい何のために持ち歩いていたの? あっ、もしかしたら――わざと私に盗ませたの?)
私はお姉ちゃんの姿を探す。すると、ステージの奥の方で佇むお姉ちゃんと目が合った。
他人のような瞳で見つめ返してくるその顔に、全身の血が逆流するような気がしたほど、むかついた。
(妹の絶体絶命の危機なのに、なんで庇ってくれないのよ! やっぱり、わざと、あの鞄の中にデザイン画を仕込ませていたんだわ……罠だったのよ)
私は途端に、お姉ちゃんが憎らしくなった。抑えきれない衝動に突き動かされ、気づけば駆け出していた。レオナード様が視線の片隅で、青い顔をして私を見ていたけれど、今はそんなこと気にしてられない。お姉ちゃんの前にたどり着き、勢いよく右手をふるいあげたその瞬間、サンテリオ侯爵様に腕を強くねじ上げられ、痛みに顔を歪めた。
「邪魔しないで……この性悪女を叩かせてよ! お姉ちゃんはレストランで、わざと鞄を置いていったのよ! 化粧室に行くなんて、あのタイミングで言うのはおかしいじゃない! いくら私が『鞄は見てる』って言ったって――盗ってくれって言ってるようなもんじゃない!」
思わず吐いたその言葉は、自分が窃盗を働いたことの、自白になってしまった。ステージに立っていた私の友人は、顔を歪めて私をにらみつけた。
「最低……あなたとは絶交よ」
「まったく……マリアさんはお気の毒ですわ。こんな妹を持って」
ウィルミントン侯爵夫人は、私の方を見ようともせず、扇子の陰で静かにつぶやいた。
(まるで私が汚らわしい存在で、目も合わせたくない、と思っているようだ)
そして、サンテリオ侯爵様はその場で、ためらいもなく私たち家族のことを語り始めた。
「真実を明らかにするためには、経緯を省くわけにはいかない」と前置きをして。
私だけが学園に通わせてもらったこと。
レオナード様を奪ったこと。
両親がお姉ちゃんを金づる扱いしていたこと……
(そんな以前のところから、ずっと遡って話さなくても良くない?)
おかげで、観客たちは一斉にお姉ちゃんへ同情の視線を向けた。
「お気の毒に」
「なんてかわいそう」
「そんな中、ここまでの成功を勝ち取って、なんて立派なんだ!」
賞賛の声に繋がり、ますますその名声は高まりそうだ。
一方、私には「性悪な妹」「恩知らず」
そんな言葉ばかりが飛んできた。とても不公平だ。
「間違った印象操作はやめてください! お姉ちゃんなんだから、妹のために我慢するのは、ちっともおかしくないわ! それに、両親がお姉ちゃんのお金を当てにして何が悪いんですか! 家族なんだから、助け合うのは当たり前でしょう!」
平民も、貴族も、そして王族までが、あきれたように私を冷たいまなざしで見た。
極めつけに、サンテリオ侯爵様はこんなことまで暴露した。
私が結婚式にお姉ちゃんを呼びたくなくて、湖に突き飛ばしたことよ。
しかも、お姉ちゃんが泳げないことまで。
(これじゃあ、まるで私は犯罪者よ……)
すると、国王陛下が すっと席を立ち、 私の罪を次々と上げていく。
「泳げないと知っていて突き飛ばし、 その結果マリアが風邪をひいたのならば、罪としては暴行致傷だな。サンテリオ服飾工房のエントランスホールで騒いだ件は威力業務妨害罪、それから――」




