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私はもう他人です!  作者: 青空一夏


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 私はデスクに向かい、真新しいスケッチブックを開いた。コロッセウムで開かれるファッションショーに向けて、色々と想像を巡らせる。

「まずはキュロットスカートから……動きやすくて、誰でも着やすいデザインにしなくちゃ」

 手にした細いペンを紙に走らせながら、頭の中で形を思い描く。丈はちょうど膝ぐらいにして、裾はゆったりと、動きやすいイメージ。色は汚れが目立たない落ち着いたトーンで、素材は洗いやすく乾きやすいものを使いたい。


 スケッチを完成させた私は、次の段階に移る。キュロットスカートの場合は、ドレスとは違う。すぐにトルソーに布を当てて作るわけにはいかない。まず型紙を作成して裁断し、マネキンにそれを当て、ピンで止めながらシルエットを確認する。色を変えたり、ポケットの縁にレースをつけたり、細かくアレンジして楽しんだ。あっという間に、キュロットスカートだけで5種類ほどのパターンが完成した。


「よし、動きやすさも問題なし。さぁ、次はワンピースね……ウエストを絞らないシンプルなAラインがいいわよね」

 柔らかめの布を思い浮かべながら、軽やかに流れるラインを描く。シンプルだからこそ、生地によって印象がまったく変わる。フルーツ柄の可愛らしい生地なら愛らしい子供のワンピースになるし、無地のシックな色なら大人が落ち着いて着られる普段着になる。


 ウエストで紐を結ぶカシュクールワンピースも素敵。スケッチの段階から紐の位置や長さを考え、エレガントなシルエットになるようトルソーに布をかける。紐を結ぶと布が自然に落ち、女性らしい柔らかな曲線が生まれた。


 次はスカートがふんわり広がったタイプのワンピース。スカート部分を広げてトルソーに巻き付けると、光と影の中で布が軽やかに揺れる。こちらも洗いやすく乾きやすい素材で作ろうと思う。

 あとは、生地で遊んだり、ポケットをずらしたり、刺繍やレースを効果的に使ったりする。ちょっとした変化を加えるだけで、ぐっと雰囲気が変わり、同じデザインから派生した服が複数できた。


(あー、すごく楽しい! パンツスーツも作っちゃおう。王女様のためには、やっぱりプリンセスラインのデイドレスかしら。バラの花を逆さにしたように、フリルをたくさん重ねたスカートも似合いそう)

 平民の子供だって、お誕生日や習い事の発表会には、華やかなデイドレスのようなものを着るはず。宝石はつけず、庶民でも手が届くビーズや刺繍で可愛らしく飾ろう。


 デザインを考えている時間は、充実していてまさに生きているという感じがした。それに、コロッセウムでファッションショーが開けると思うと、胸が高鳴る。

 キュロットスカートやパンツスーツは、この異世界には存在しない。女性でも乗馬服でパンツスタイルになることはあるけれど、それはあくまで馬に乗るときだけ。そのため、裁縫部にお願いしても、自分のイメージが正確に伝わるかどうか不安になった。


(ピンで留めただけのキュロットスカートは、説明も兼ねて自分で裁縫部に持っていこう!)


 ところが、私はそこで、見知った顔を見つけてしまった。

「え? ミオさん? リナさんとケン君も……それに、他にもブロック工房の人がいるんだけど……」

「えっ? マリアさん! どうしてここに? ……あぁ、わかった。マリアさんもここの裁縫部に勤めているんですね? よかった。私たち、あれからすごく反省して……今ではもう昔の話になるけど、あの時冷たい態度を取ってしまってごめんなさい」

 ミオさんは眉尻を下げて申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。

「え? そんな……謝っていただかなくてもいいんですよ。もう過ぎたことですし、あの状況だったら仕方がなかったことだと思いますから。気にしていませんよ」

「私も本当にごめんなさい」「俺もすみません」

 次々と頭を下げられて、私は思わず苦笑してしまった。何とか場を落ち着けて、裁縫部の主任を探し、キュロットスカートの説明をしようと思っていたところ……ミオさんたちは、私に興味津々な顔で尋ねてきた。


「ところで、 ここのトップデザイナーのマリアさんってどんな人ですか? やっぱりおしゃれで、すごく洗練された、かっこいい女性なんでしょうね?」

「デザイナー部のアトリエに行けば、会えるのかな?」

「あぁ、 会いたい! 握手してもらえたら嬉しいし、サインもいただきたいです!」


  3人はトップ デザイナーのマリアをとても崇拝しているらしく、興奮と期待の熱気がひしひし と伝わってくる。瞳の中にお星様まで見えそう……


 私としてはちょっと気まずい……

 

 今日は顧客対応の予定がなかったので、私は飾りけのないシンプルな服を選んでいた。上質な素材ではあるけれど、ぱっと見では普通の格好に見える。エレガントでも、トップデザイナーらしい華やかさもない。化粧も薄めで、裁縫部にいてもまったく違和感がなかった。


(あぁ、キラキラした眼差しが痛い……困ったな……この状況で、私がそのマリアだなんて……とても言えないわ……)




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