29 ソフィア視点
※ソフィア視点
ファッションショー当日。もちろん、モデルなんて用意していない。この私がすべてのドレスを着こなすのだから。
(私以上に美しく着こなせる女性は、この世に存在しないわよ。だって、ルクレール女学園にだって、私ほど綺麗な子はいなかったんだから……)
レオナード様とともにオッキーニ男爵邸に到着すると、男爵夫人が用意してくださった控室へと案内された。まず一着目に袖を通し、気持ちを整えて大広間に足を踏み入れる。そこには、ルクレール女学園で顔見知りだった子たちの姿がずらりと並んでいた。最近は一緒に遊んでいなかった友人たちも混ざっていて、私に取り入るような眼差しで近づいてくるのが笑えてしまう。
オッキーニ男爵領の裕福な家の子女たちは、ほとんどがルクレール女学園で学ぶ。だからこの場に顔見知りばかりなのは当然で、彼女たちの羨望の視線は、私に優越感と満足感を与えてくれた。
(今日の主役は、間違いなく私だわ!)
「まあ、なんて素敵なドレスなの!」
「デザインがどこか奇抜なのに上品で、ため息が出ちゃうぐらい繊細なのよね」
「素材も光沢があって美しいわ……いくらで仕立ててくれるのかしら」
早速、今にも売れそうな会話があちらこちらから聞こえてきて、頭の中で「いくら儲かるのかしら」とワクワクと想像してしまう。ニコニコと皆の反応を楽しそうに眺めているレオナード様も、目を細めて満足そうな笑みを浮かべていた。
二着目、三着目と次々に衣装を着替えるたび、私は招待客たちの前でスカートの裾を優雅に翻し、軽く首を傾げてにっこりと微笑む。自分が最高に綺麗で可愛らしく見えるように。
「このデザインはソフィア様が考えたんでしょう? すごい才能だわね」
「サンテリオ服飾工房に、わざわざ行くこともないかもね。 あそこはとても高いから特別な時にしか仕立てられないけど、ブロック服飾工房ならそんなに高くないですよね?」
「あー、そうですね。 そうは言っても普通のドレスよりはかなり値が張りますよ。ただサンテリオ服飾工房で作るよりも、金額はかなり抑えられます。だいたい、あそこはぼったくりすぎなのですよ。ブランド名が強すぎて、あそこで仕立てたドレスというだけで箔がつきますから」
もっともらしく説明するのはレオナード様で、まるで自分の手柄のように鼻高々だ。
地元の新聞や雑誌の記者たちも集まり、私の姿を何枚も魔導カメラで撮影していく。
「こっち向いてください! そう、にっこり笑って」
「すみません、歩くところをお願いします!」
「ポーズをつけてください! 目線は斜め横、少し上向き加減で……手は腰に当ててくださいねー」
(まるで、売れっ子モデルになったみたい!)
胸が高鳴る。カメラの前で裾を翻し、微笑むたびに、全ての視線が私に向けられているのが手に取るようにわかった。
(ふふっ、気分がいいわ……!)
「記事にする時は、私が考えたデザインだということを絶対に書いてくださいね。私はこのドレスを綺麗に着こなせるだけでなく、デザインした本人ですから」
「僕も一緒に考えたということを、ぜひ加えてほしいなぁ。僕はブロック服飾工房の経営者で、ソフィアの夫です。このドレスは、僕たち夫婦が考えたデザインなんですよ。いやー、このデザインがひらめいたときは、思わず「天才かも」と自分でつぶやいてしまったほどでしたよ」
レオナード様は、誰も求めていないのに饒舌にまくし立てる。
(ちょっと待ってよ……これじゃ、私の存在が霞んじゃうわよ!)
「違います! ほとんどは私が考えて、レオナード様は少しだけ口を出した程度なのよ」
顔が引きつるのをこらえつつ、私はにっこりと微笑む。
「どちらが考えても同じことではないか! とにかく、我が領にも才能あふれるデザイナーが現れたということだ。大々的に書き上げてくれたまえ。これならサンテリオ服飾工房にも負けないデザインだとな!」
オッキーニ男爵様は豪快に笑い、場の空気をさらに盛り上げる。オッキーニ男爵夫人はすぐに、用意された5着全てを購入したいと申し出、自分の体に合わせて仕立ててほしいと言ってきた。その場にいた女性の招待客たちも、次々と「私もぜひ」と口々に希望を告げ、皆それぞれ自分のサイズで同じデザインを注文しようと、楽しそうに話し合っている。
予想以上の反響に、私の胸は踊った。たくさんの注文が舞い込み、同じデザインでも色を少し変えたり、レースや刺繍を加えたりして、自分だけのドレスにしたいという希望まで届いた。もちろん、それには割増料金を取って仕立ててあげることにした。
最新デザインのドレスを、サンテリオ服飾工房より安価に提供しても、これだけ多くの注文が入れば、驚くほどの大金になる。お客様は手軽な価格で価値あるドレスを手に入れ、私はお姉ちゃんの才能を少しだけ借りて大金を儲けることができた。
(みんなが得をしている――私、なんだかいいことをしている気分だわ。だって、みんな喜んでいるじゃない)
やがて、私とレオナード様がデザインしたことになっているドレスの評判は、オッキーニ男爵領を超えて広まり、他の領地に住む裕福な人々からも、次々に注文が届くようになった。
しばらくして、オッキーニ男爵様から屋敷に呼び出され、思いがけないお話をいただく。
「お前たちの評判が王都にまで届き、国王陛下はサンテリオ服飾工房とブロック服飾工房を招いて、王宮でファッションショーを開きたいと望まれた。これは非常に光栄なことだぞ! こんな喜ばしい日が来るとは……」
私とレオナード様は、信じられない知らせに目を輝かせ、自然と笑みがこぼれたのだった。
※ちょこっとサンテリオ侯爵視点
私は奴らを、配下を使ってずっと監視していた。思った通りにやらかしてくれた彼らには、感謝すら覚える。やっと、マリアの仇を討つ時が来たのだ。
「ただ普通に懲らしめるだけでは芸がない。国王陛下まで巻き込んで、盛大に潰してやろう。誰を敵に回したか、思い知らせてやればいいさ」
私は決してマリアに見せたくない 、策略を楽しむ仄暗い笑みを思い切りにじませていた。




