起動、そして、起動
あとがきにナナのキャラグライメージを(ry
『ザンゲキ』
『ショウゲキハ』
「っ!! 全員、横に飛べっ!!」
粛清官たちのギフト攻撃を察知し、No.1が叫ぶ。
反射的に避けると、さっきまでいた場所に大きな切り傷とクレーターができていた。
おいおい、膂力だけじゃなくてギフトの出力も高いのかよ!
「冗談じゃねぇぞ、こんなのとまともにやり合ってたらすぐにミンチになっちまう!」
「下がってろ! 足手まといだ!」
No.1が檄を飛ばしながら粛清官たちの横っ面をぶん殴ったが、すぐさま液状化、あるいは粉体化して受け流されてしまう。
『流動化』と『粉体化』のギフト。これが全ての物理攻撃を無効化しちまう。
「No.1! こいつらに効きそうなギフトは使えねぇのかよ!」
「ない! No.77とお前! お前たちは何か使えないのか!?」
「ね、『念動力』なら使えますけど、ダメージは与えられないと思います」
「『温度操作』と『幻惑操作』が使えるけど、温度操作は直接触れないと効果が弱いし、幻惑操作は物理的には攻撃できない」
「くっ……! シャドウ、お前は……シャドウ?」
「あ、アイツ、どこ行きやがった……!?」
No.1がチビッ子どもの返答を苦虫を潰したような顔で聞いた後、今度はシャドウへ問いかけてみたところでいつの間にか姿が消えていることに気付いた。
……まさか。
「……あ、あんの野郎ぉぉお!! 逃げやがったなクソが!!」
「シャドウ……」
「……やっぱり、あの人は信用できません」
「放っておけ! それより目の前の敵に集中しろ!」
おっしゃる通りで! でもシャドウは後でぶん殴ってやる!
……ってかそれどころじゃねぇ! やべぇ未来が視えやがった!
「伏せろぉおお!!」
『フンタイカ・サクレツダン』
『リュウドウカ・カンツウダン』
オレの叫びの直後、粛清官たちが機械的な声を発し、その体が弾け飛んだ。
「うぉおおおっ!?」
「ぐぁああっ!!」
「うぐっ……!」
「きゃぁああ!!」
粉体と流動体の散弾。命中したものを貫通あるいは着弾したところで炸裂する効果があるようだ。
ボサッと突っ立って直撃でも受けようもんなら、そのままミンチになっちまうところだった。
咄嗟に伏せて、辛うじて最小限の被害で済んだがそれでも結構な深手を負っちまった。
特に一番間近で受けたNo.1の傷が酷い。ある程度は『転移』で防いだようだが、散弾全てを転移させることはできなかったようで、全身傷だらけになっちまってる。
今コイツに倒れられたらまずい、オレたちだけじゃこんなバケモンどもに太刀打ちなんかできやしねぇ!
「ナナ! No.1を治してやってくれ!」
「は、はい……っ!? り、リベルタ君っ!!」
「え、う、うわぁっ!?」
「坊主!?」
ナナとNo.1のほうへばかり目がいってて気づかなかった。
いつの間にかリベルタの背後に粛清官の男が立っていて、リベルタの首を掴んで持ち上げていた。
『ハイジョ』
「あ……あ……!!」
「テメェ! 坊主を放しやがれ!!」
『リュウドウカ』
「く、クソッタレが!」
拳銃で粛清官の体を何発も撃ったが、流動化のギフトで受け流されるばかりでなんの効果もねぇ。
首を絞められて、坊主の顔色がみるみると青白くなっていく。
『シネ』
「ぎぃい……!!」
『ハイジョ、ハイジョ、は、い……っ!』
「あ、あああっぁああああっっ!!」
「っ! さ、寒っ……!?」
坊主が叫ぶと同時に、フロアの温度が急激に下がったのが分かった。
体感20℃程度だったのが、瞬間的に氷点下よりも寒く冷たくなった。
『がが、ガ、が……っ!』
リベルタを拘束していた粛清官が、カチコチに固まったまま動きを止めた。
『温度操作』のギフトで、粛清官の流動化した体を凍結して固めたのか……!
余波だけでこの冷気なんだ、間近で温度を操作された粛清官はひとたまりもなかっただろうな。
「げほっ……! ぜぇ、ぜぇ……うっ……!」
首を絞めていた腕を砕いてどうにか拘束を解いたが、息が上手くできないようで苦しそうにしている。
『アルファ、トウケツニヨリコウドウフノウ。タダチニセッショク、キュウジョ』
「させないっ……!」
カチコチに凍り付いた男のほうを見て、女のほうの粛清官が駆け寄ろうとしてきたところをナナが立ちふさがった。
が、やはり粉になって飛び散ってしまい、すり抜けられてしまう。
「『念動力』!」
それを、念動力のギフトで包み込むようにかき集め、どうにか拘束しようと押さえ込んでいる。
……しかし、念動力のわずかな隙間から徐々に粉が漏れ出して、拘束から逃れようとしているのか見える。
くっそ! 拳銃で撃とうが素手で殴ろうが、粉が相手じゃ意味がねぇ!
こうして眺めてる間にも、どんどん粉が漏れ出していってやがる! 粉に攻撃しようって言っても、どうすれば……!
いや、待てよ。もしかしたら……!
「も、もうダメ……!」
「ナナ、下がってろ!」
「え……!?」
「燃えやがれぇぇぇえっ!!」
近くの部屋にあったラッカースプレーを噴き出しながら、煙草用のライターで引火させ、小型の即席火炎放射器として噴射してやった。
粉状とはいえ、物質には変わりねぇ。だったら、炎で燃やしちまえば効くかもしれねぇ!
実際、粉へ引火させるのは有効らしく、どんどん体積が減っていってるのが見て分かる。
『がが、ぐ、ホノオ、に、ヨリ、ボディ、ソンショウ。ニクタイ、の、30%、を、ソンモウ』
「効いてるみてぇだな、ざまぁねぇぜ! ナナ、今のうちにNo.1の治療を……っ!?」
状況が好転したと思ったその瞬間、ありえないものが視えた
『ジョウキョウに、タイオウ、スル、タメ、『ユウゴウ』を、ココロミル』
「は……?」
そう聞こえた直後、凍結していた男と今にも燃え尽きそうな女の粛清官の体が瞬時にドロドロに溶けて混ざり合っていった。
流動化のギフトかと思ったが違う。粉体化しか使えないはずの女の粛清官まで溶けて、一人分の人型を模っていく。
『『融合』完了。粛清官『オメガ』、起動』
そう告げた人型は、これまでの子供のサイズではなく筋骨隆々とした成人男性を思わせる体格へと変貌した。
二人の粛清官が溶け合って、融合しやがったってのか!? んなバカな……!
『排除する。速やかに死ね』
「つ、ツヴォルフさんっ!!」
オレを殴り飛ばそうと腕を振りかぶったのが見えた時、間にナナが割り込んできた。
ナナの膂力は半端じゃねぇ。力自慢の異獣だろうが楽に捻り上げるくらいのバカ力だ。
『消えろ』
「うっ!? がはっ……!!?」
「ごふっ……!!」
「あがっ……あっ……!!」
それを、いとも容易く殴り飛ばし、それに掠っただけでオレも吹き飛ばされちまった。
口と鼻からボタボタと血を流しながら、苦しそうにナナが悶えているのを見て戦慄した。
頑丈なナナですらこの有様だ。もしもオレがあのまま直接殴られていたら、それで死んでた。
冗談だろ、さっきまでのガキ二人の粛清官ですらまだ本気の状態じゃなかったのかよ!?
このオメガとかいう融合状態が、粛清官の真の姿ってわけかい……!
「く……『空間、転移』……!」
『効かん。……『衝撃波』』
「ぐぁあっ!!」
No.1がオメガの頭を転移で切断したが、融合前のギフトをそのまま扱えるようですぐに頭が液状化して元通りになっちまった。
そのまま衝撃波のギフトをNo.1へ叩き込んで、廊下の突き当りまで弾き飛ばしやがった、
膂力もギフトも桁違い。オレらが束になっても敵わねぇ。
冗談じゃねぇぞ、こんなバケモンにどう勝てってんだよ……!
「くっ……!」
まだ辛うじて動けるのは、坊主ただ一人。
だが、またギフトで凍らせようとしても、その前に殴り殺されるだけだ。
「ぼ、坊主! 逃げろ! 『幻惑操作』を使って、お前だけでも……!」
『逃がさん、死ね』
オメガが坊主のほうへ突進した。
ダメだ、幻惑操作で誤魔化そうにももう遅い。
あのままじゃ、坊主は、死ぬ……!!
「坊主っ!!」
「あきらめ、ない……!!」
突進してくるオメガに対して、坊主は避けるでも逃げるでもなく、真正面から立ち向かった。
『温度操作』で再び凍結させようとしているようだが、どう考えても間に合わない。その前に、先に殴り殺される。
もう……もう、ダメだ。
『!』
「っ! ……?」
坊主にオメガの拳が触れる直前、急にオメガの動きが止まった。
凍結が間に合ったわけじゃない。あんな速度で突っ込んでくるのを瞬間的に凍らせることなんか不可能だ。
オメガは、坊主を見ていない。
坊主の後ろ、通路の奥を警戒した様子で眺めている。
その通路の先から、人影がこちらに近付いているのが見えた。
「……てる……」
ブツブツと、呪詛でも唱えているかのように何かを呟きながら、ソレは歩み寄ってきた。
「なにしてるなにしてるおまえなにしてるリベルタになにしてるおまえおまえおまえころすころしてやるころすころすころすおまえしねしねしね」
虚ろな目で、しかし確かな殺意を携えて、一部が黒い長い銀髪の少女が、オメガを睨みつけていた。
……お、おう……思ったより元気そう……いや、元気と言っていいのかアレは……?




