粛清
あとがきにリベルタのキャラグライメージ載っけてます。
胃が痛ぇ。
ロナの収容室までNo.1に案内してもらっているが、気まずいなんてもんじゃねぇ。
「……まあ、なんだ、思ったよりも元気そうでよかったぜ。指を食い千切ったらしいが、痛くねぇのか?」
「いえ、もう治したので大丈夫。私のことよりもお姉さん……ロナさんが心配です」
「ナナさんも知らなかったということは、近くの収容室ではなかったのですか?」
「あなたは話しかけないでください」
「……」
「……何か言いたいことがあるのなら言えばいいだろう」
「別に」
……クッソ空気が重い。控えめに言って最悪だ。
ナナはロナをアクエリアスへ売ったシャドウに敵意丸出しだし、坊主もNo.1を冷ややかな目で睨み続けている。
ホントこのチビッ子どもは。早くロナと合流しねぇと胃に穴が空いちまう。
「にしても、どういう風の吹き回しだ? お前さんなら今すぐオレらを皆殺しにして処分することなんざ容易いだろうに、侵入者と一緒に仲良く面会なんざするたぁな」
「別に仲が良いわけじゃない」
「ツッコむトコそこかよ……」
悪い空気の流れを少しでも改善しようと話題を振ってみたが、どうにもズレた返しをされて思わず苦笑いしちまった。
コイツ、微妙にボケてるとこあるかもしれねぇな。
「あの監督官の言いなりになるのが馬鹿馬鹿しくなっただけだ。お前たちのことも、心底どうでもいい」
「それで、好き勝手やってやろうと思った結果がロナの面会か。へー」
「……何が言いたい」
「べーつーにー」
モテてんな、ロナ。オレにしてみりゃこいつらにモテたところで嬉しくもなんともねぇが。
「ま、あの監督官のブタ野郎に逆らおうって判断は正解だぜ。いずれこのコミュニティはあのブタ以外、全員死んじまうだろうしな」
「何……? それは、どういうことだ」
「施設内を覗き見して分かったが、先日からギフト覚醒用の注射を一斉に摂取させる準備をしてるらしいな。それで、ギフトに目覚めた奴らはどうなると思う?」
「ギフト・ソルジャーとして登用されるか、あるいは新たな軍でも組織するつもりだと考えるのが自然だが……」
珍しく狼狽えた様子で問いに答えるNo.1。
コイツにすら監督官から何も言ってねぇあたり、シャドウの発見した『資料』の情報は正しかったと見るべきか。
「その後のことは何も聞かされてねぇだろ? そりゃそうさ、あの監督官はここの住民全員を売り渡すつもりなんだからな」
「住民たちを売り渡す、だと……? 誰に、なんのために?」
「……詳しく話せば長くなる。これ以上はできればロナを連れて逃げてからにさせてくれ」
「……ロクでもない事情がありそうなのは分かった。あの監督官ならばどんなゲスなことを企んでいても納得できるだろう」
「お前、そんなに話の分かるヤツだったか? ちょっと前までは監督官の犬みてぇにハイハイ言いながら任務にあたってただろうに」
「言っただろう。あのクズに仕えていることがどれだけくだらないことなのか、客観的に自分を見つめなおしてようやく理解しただけのことだ」
「そーっすか」
……人ってのは案外ちょっとしたきっかけで変わるもんなんだな。
このNo.1のように、奴隷根性が染みついてたオレが未来を見て行動を起こしたように、そして例の腕を食って激変したロナのように。
……最後のはちょっと違うか。
「ロナのいる部屋はまだ遠い?」
「この先の交差路を右に曲がって進んだ突き当りだ」
「つまり最奥じゃねぇか。随分と厳重に閉じ込めてやがるな、やっぱ収容しようにも大暴れしてかなわねぇからか?」
「いや……暴れるどころか、座り込んだままで身動き一つしていない」
は? アイツが? 捕まってから座り込んだまま大人しくしてるってか?
いやいやいや、そりゃありえねぇだろ。
「それ、おかしい。こんな狭いところに閉じ込められて、ロナが大人しくしてるはずがない。いつもならこの施設ごと破壊して逃げだそうとしても不思議じゃないはずなのに」
「り、リベルタ君……お姉さんのことどんなふうに思ってるの……?」
あんまりな言い草に思わずジト目で疑問を投げかけるナナに少し笑いそうになっちまった。言い分には同意するが、ロナに対してかなり酷いイメージ持ってんな坊主。
そして、ナナの言葉を聞いてわずかに眉を顰めながらNo.1が呟いた。
「……そうか、お前が『リベルタ』か」
「? 僕がどうかした?」
「縮こまりながら、時折お前の名前を呟いているのが聞こえてくることがあった。何かに憑りつかれたように、ただひたすら自分を責めて、何度も何度も延々と謝りながらな」
「ロナが、僕に謝ってる? なんで……?」
「お前に心当たりがないのに、俺が知るわけないだろう」
アイツが大人しくしてる理由は、坊主が原因だってのか?
ロナが坊主に、リベルタに謝る理由ってなんだ? ……ダメだ、分からねぇ。
とりあえず、さっさとロナに坊主を再会させてやりゃ分かることだろ。
そろそろロナの収容室も近いだろうし、そっからゆっくりと話でもすれば――――
『随分とお喋りなネズミが入り込んでいるようだな、煩わしい』
「っ!!」
会話の最中、前触れもなく目の前に人影が現れたのが見えた。
その人影は全体的に青白い色彩をしていて、よく見ると半透明で向こう側の景色が透けて見える。
これは、立体映像か。しかも、この男は……!!
「監督官……!!」
『気安く呼ぶな、元実験体ごときの下郎が。本来ならばホログラムごしですらこの姿を拝謁するなど恐れ多いのだぞ』
高慢にして傲慢な物言い、欲望と脂肪がでっぷりと詰まっている体型。
アクエリアスの最高責任者、テック監督官の姿が目の前に投影されていた。
『No.1、今すぐそいつらを排除しろ。貴様が今、勝手な行動をとっていたことはこれまでの働きを考慮し不問としてやる。寛大な処置に感謝するがいい』
「断る。もう、お前の指示に従うことになんの意味も見い出せない。排除したければ、自分の手でやればいいだろう」
『ふん、よかろう。やはりギフト・ソルジャーなど一匹残らず無能の集まりだったか。ならば侵入者もろとも、そこで死に果てるがいい!』
監督官のホログラムが大袈裟に手を振り回しながらそう喚くと、D区画の出入り口のほうから何かが走ってこちらに向かってくる音が聞こえてきた。
速い……! この移動速度は、下手すりゃNo.1より速いかもしれねぇ!
しかも一人じゃねぇ、二人分くらいの足音が聞こえてくる。
この速さは……まさか『粛清官』か!?
『ターゲット、カクニン』
『マスター、シジヲ』
「……子供……?」
ついに姿を見せた、二人分の人影。
フルフェイスのマスクを装着し、裸のボディラインをそのまま出したようなラテックススーツを着込んだ男女だ。
マスクのせいで顔が見えないが、体格と声からしてまだ十代前半程度の子供のように見える。
こいつらが、粛清官……?
『粛清官『アルファ』、『ガンマ』へ告げる。侵入者および反逆者を排除せよ!』
『リョウカイ』
『リョウカイ』
監督官からの指示に従い、オレたちに向き直り臨戦態勢へ入った。
こいつら、見た目はガキだが、見ているだけで嫌な汗が滲み出てきやがる。
強い。おそらく、No.1と同等かそれ以上に……!
「邪魔だ」
「っ!? お、おい!?」
かと思ったら、速攻でNo.1が粛清官たちの首から上だけを手元に『転移』させて、胴体と泣き別れにしやがった!
こ、こいつ、ガキ相手でも躊躇なく殺しやがった!
「No.1! 相手はガキだぞ! いきなり殺すのは……!」
「こいつらは脅威だ。まだ未成年とはいえ、手加減できる相手では……っ!?」
『ハイジョ』
『ハイジョ』
「ぐっ!?」
思わずNo.1を咎めようとしたところで、首を切り離されたはずの胴体がNo.1に向かって殴りかかってきた。
し、死んでねぇのか!? まるで問題なさげに動いて襲い掛かってきやがる!
「くそっ!」
『『リュウドウカ』』
『『フンタイカ』』
「!?」
しかもNo.1が反撃に拳を当てても、男のほうは液状化して、もう片方は砂のように粉々のようになったかと思ったら、すぐに元通りになりやがった!
まさか、物理攻撃が効かねぇってのか!?
「……ギフトか。『流動化』と『粉体化』と言っていたが、厄介だな」
「殴っても液体か粉になって受け流されちまう。首が取れても生きてるのもそのギフトのおかげってわけか」
「膂力も俺と互角、いやわずかに奴らが上か……!」
No.1が粛清官の攻撃を受け止めた腕を押さえながら、顔をしかめている。
外見はガキでも、中身はしっかりバケモンってわけかよ。
くそ、オレたちが使える攻撃系ギフトもほとんど物理的に破壊する攻撃手段ばかりで、全部無効化されちまう。
坊主の『温度操作』ならあるいは効くかもしれねぇが、その前に殴り殺されちまう!
『未来視』で対抗策を練ろうにも、ほとんど何も見えねぇ。相変わらずいざという時に役に立たねぇなこのギフトは。
……落ち着け、今一度自分たちの持ってる手札を見直して、戦い方を組み立てねぇと……!




