やりたいこと
一年以上放置しといてどのツラ更新。本当に申し訳ない(;;;´Д`)
しかも今後も不定期更新の模様。ごめんなさい。
アクエリアスの内部にゃどうにか入れたが、異獣研究所内部への侵入経路をどうするべきか。
……ワンパターンだが、また坊主を頼ってみるか。
「任せて。『幻惑操作』で姿を隠して、スタッフが出入りする時に一緒に入ればいい。他人の目はもちろん監視カメラなんかも誤魔化せるから問題なく行動できると思う」
「マジカは大丈夫か?」
「人間3人分なら数時間は余裕」
「そうか。腕っぷしはともかく、こういった状況でサポートに回すとホントに心強いなぁ坊主はよ」
「ツヴォルフはもう少し頑張ってほしい。戦闘でも隠密行動でもあんまり役に立ってない」
……ごもっともで。
現状、一番役に立たねぇのがオレだっていうのがやるせねぇ。
オレぁガキ以下ですかそうですか。……さっさと先進むか。
研究員が施設から外へ出る時を見計らって、速やかに侵入できた。
D区画を目指して足を進めながら、今後の行動や注意点を確認し合う。
「この施設で脅威になりそうなのは、あのNo.1っていう人だけ?」
「基本的にはな。あとは飼ってる異獣と、監督官お付きの『粛清官』が二人いるくらいか」
「『粛清官』?」
「このコミュニティの監督官はな、とんでもねぇ独裁者で他人なんざ道具かゴミぐれぇにしか思っちゃいねぇ超利己主義のクソ野郎なんだ。そのクソが長い年月手塩にかけて育て上げた処刑人が『粛清官』でな、こいつらは監督官の意に沿わない奴らを指示さえあれば問答無用で殺す許可を与えられてる」
「……言わば、監督官の切り札というわけですか」
「オレもそいつらの姿を見たこたぁねぇがな」
素行の悪かったギフト・ソルジャーが『粛清官』に処刑されたって話を聞いたことがあるが、実際に見たことはない。
だがその存在は確かにこの施設において、監督官による独裁の象徴として恐れられている。
……ただのハッタリであってほしいんだが、どう考えてもこいつらがいないとできないような仕事が片付いていたのも事実。
ギフト・ソルジャーがまだ実戦運用できるような実力に達していない時期に侵入してきた異獣を、『粛清官』が処理していたっていう記録が残ってるしな。
そんな絶対に鉢合わせたくねぇ連中のことを話しながら異獣研究所へ侵入し、ロナが捕らえられているであろうD区画へ向かって足を進めていく。
その途中で職員たちの姿を見かけたが、相変わらず自分の仕事や同僚の監視で手いっぱいのようで、オレたちには気付く素振りもない。
いや、むしろオレがいた時よりも忙しそうで、どいつもこいつも目元がクマだらけで死にそうなツラしてやがる。
何か急ぎの案件でも回してるのかねぇ、ごくろーさん。
「ロナがいるかもしれない、D区画っていうのはまだ遠い?」
「施設の中に入っちまえばさほど距離は遠くねぇが、入るのにはカードキーが必要だ。オレのカードはもう使えねぇし、どこからかくすねてこなきゃならねぇ」
「カードキーはどこにあるのですか?」
「研究員かその上の管理職、あとはギフト・ソルジャーが所有してるがどいつも肌身離さず持ってるはずだから奪うのは難しい」
「ソルジャーは無理として、研究員から無理やり奪うのは?」
「現実的じゃねぇ。オレが脱走してから同僚研究者同士の監視体制が厳しくなったのか、互いに睨みを利かせ合ってるように見える」
もっとも、そのおかげで侵入者であるオレたちの存在にまで気が回らなくなっているのは幸いだがな。
坊主のギフトで姿を隠しているとはいえ、勘がいい奴には気付かれる危険性があるかもしれねぇし、悪いことばかりじゃねぇのは確かだ。
しかし、どうしたもんかね。D区画の扉は目の前だってのに、入るためのカギの当てが…………っ!
悩んでいるところで、ソルジャーたちの宿舎からこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「坊主、シャドウ! 静かにしろ、誰か来る!」
「!」
「いったい、誰が……」
息を殺しながら近付いてくる人物の姿を見た時、凍えるような感覚が全身を襲った。
歩みを進めてきたのは、ギフト・ソルジャーのスーツを着た金髪の若い男。
『No.1』が、オレたちに迫ってきていた。
まずい、まさか気付かれているのか……!?
くそ、どうする! 戦いになったらまず敵わねぇし、坊主のギフトで誤魔化すにしても、建物内の通路じゃ逃げ場が限られる。
……?
「……」
坊主のギフトで姿を消しているのがバレてるのかと思ったが、オレたちには見向きもせずにカードキーを端末にかざしてD区画への扉を開いて中へ入っていく。
……気付かれたわけじゃなかったのか?
「チャンスですね」
「ツヴォルフ、今なら入れるよ」
「あ、ああ」
唖然としていると二人から進むように小声で促され、慌ててD区画の扉の中へ侵入した。
渡りに船といったところだが、侵入がバレたら即終わるかと思うとヒヤヒヤさせられる。
扉が閉まり、No.1が収容施設の奥へ足を進めていく。
つーか、なんでコイツがD区画なんかに来てんだ。清掃の雑用かなんかか? まさかな。
んなことソルジャーにやらせる仕事じゃねぇし、道中の掲示板に書いてあった予定を見る限りじゃ、今はソルジャーたちに待機命令が出ていただろうに。
「ここに何の用があるのでしょうか」
「オレが聞きてぇよ。D区画にゃ元々実験用の動物が収容されているはずだが、ほとんどは死んじまってるはずだし」
「死んでいる? 何かあったのですか?」
「どこからかとんでもねぇバケモンが侵入してきて、施設で飼育してた動物たちを皆殺しにしやがったんだ。……もっとも、あんな無理やり改造されて生かされてるような状態なら、殺されたのはある意味救いだったのかもな」
「人的被害は? 施設内にはまだかなりの数の研究員がいるようでしたが」
「ギフト・ソルジャー全員が死なない程度にボコられた以外は特に……」
「待って。それよりも今はあの人を追ったほうがいい。実験用の動物以外に用があるとすれば、ロナが収容されている部屋に向かってるのかもしれない」
「……だな」
シャドウに当時の状況を説明している途中で坊主に止められた。
思い出話してる場合じゃないのは確かだし、キビキビ尾行しますかね。
……あのバケモンはホントになんなんだったんだろうな。
奥へ奥へと進んでいくNo.1をつかず離れず追いかけていると、急にNo.1が足を止めた。
ロナのいる部屋の前まで来たのか? ……いや、収容用の部屋の前じゃないから違うか。
それとも他に何か―――
「いつまで隠れているつもりだ」
「っ……!!」
No.1の口から発せられた声を聞いた時、心臓が跳ねた気がした。
やべぇ。
やべぇ……!
コイツ、気付いてやがったんだ!
ならなんでこんなトコまでオレたちを連れてきやがったんだ!?
コイツならすぐに捕まえることも殺すことも楽にできるだろうに……!
「クソ……! 坊主、シャドウ、逃げ―――」
せめて坊主たちを逃がす可能性を少しでも上げてやろうと、オレが囮になって前へ出ようとしたところで、No.1が言葉を続けた。
「……No.77。それで隠れているつもりかもしれないが、頭が見えているぞ」
「……!」
「……え?」
そう言うと、No.1の視線の先にある資材箱の影から小さな人影が出てきた。
桃色の髪の矮躯な少女……ナナだ。
アイツもここに収容されていたのか。とりあえず生きてるみてぇでなによりだが……。
……待て、ナナはなんで収容室の外にいるんだ?
まさか、自力で脱出したってのか? すげぇなアイツ。
「実験体用の拘束具を取り付けられていただろうに……。ロクに力も出せず、ギフトも使えない状態でどうやって脱走した」
「……親指を食い千切って手錠を外してから、ギフトで繫ぎ治しました」
指ぃ食い千切った!? すげぇなアイツ!
いてぇ、想像しただけで指がいてぇ! 覚悟決まりすぎだろ……!
「それでそのまま拘束を解き、扉を破ったのか。……警報装置が鳴っていないようだが、故障していたのか」
「警報を鳴らさないように、扉じゃなくて壁を壊して脱走しましたから」
「なるほど。手段は荒々しいが、それなりに考えて行動しているようだ。感心すら覚えるぞ」
すまし顔で応対するNo.1の声は、はたから聞いているだけだと無機質に思えるだろう。
だが、コイツ、No.1はこんなにお喋りだったか?
こんなふうにわざわざ相手を称賛するような、無駄なことを言うような奴じゃなかった気がするんだが……。
「お姉さんの、ロナさんの収容室はどこですか」
「……聞いてどうするつもりだ」
「一緒に出ていきます。ここは私たちがいるべき場所じゃない。私も、お姉さんも、自由になりたいんです」
「お前はともかく、なぜNo.67-Jの目的まで同じだと言える」
「一緒にいたんだから分かりますよ」
「どうして断言できる? お前は他人の思考を読むギフトなど持っていないだろう」
「……あなたは、分からなかったんですか? お姉さんと少しでもお話をした時に、何も感じなかったんですか?」
「なに?」
……やはり変だ。
以前までのNo.1なら無駄な会話はさっさと切り上げて、すぐに捕縛あるいは排除しようとするはずなのに、こうしてナナと長々と会話を続けている。
「ここの人たちはみんな、死んでないだけです。生きているっていうのは、働いて食べて眠るだけのことを言うんじゃないと思います」
「……」
「『スコーピオス』に支配された『パイシーズ』の人たちも奴隷のような扱いを受けていましたが、それでも自分らしく生きようと頑張っていました、生きがいを見つけようとしていました。でも、ここの人たちにはそれすらないじゃないですか!」
No.1を睨みながら、強い声でナナが吠える。
施設で泣きじゃくっていたころの脆弱さは微塵も感じられない。
その眼差しは、まるでロナを思わせるほどに強さを感じさせた。
「あなたもですよ、No.1さん。あなたは何のために、こんな地獄で働いているんですか。あなたには、やりたいことがないんですか!?」
「……俺の……やりたい、こと?」
「……私から言えることはこれくらいです。上からの指示で、脱走した私を捕まえに来たのなら、そうすればいい。でも、できる限りの抵抗はさせてもらいます」
そう告げて会話を切り上げた後に、ナナがNo.1に向かって構えた。
バカヤロウ、真正面からNo.1に挑む奴があるか! 下手すりゃ転移のギフトで即首チョンパだぞ!?
クソッタレ! こうなりゃ不意打ちでNo.1に―――
「違う」
「……え?」
「俺は、誰の指示も受けていない。俺は、俺の意志でこの区画まで来た」
……は?
「アイツが……No.67-Jが、また立ち上がっているんじゃないかと思って、様子を見に来ただけだ」
「え、え?」
No.1の言葉に困惑した様子で疑問符を浮かべまくるナナ。
オレも同感で、ただNo.1がそんなことを言う意味が分からなかった。
「お前のことはどうでもいい。逃げるなりついてくるなり好きにしろ」
「……No.1さん、あなた……」
ナナを素通りして歩みを進めながらNo.1が言葉を続けた。
「アイツの収容室に用があるならこっちだ。後ろからコソコソついてきている奴らもくるならこい」
「げっ……!」
「……バレてた」
うわ、やっぱ気付いてたのかよ!
こちとら神経削りながら尾行してたってのに、人の気も知らねぇで放置しやがってたのかよ!
……つーか、侵入者を捕まえるでもなく、それどころか案内までするとか、コイツホントにNo.1か?
職務を放棄して自由行動に耽るなんざ、以前までじゃ考えられねぇ異常事態だ。マジで何があったんだよ。
考えられるとしたら、ロナの影響か?
……まさかマジで惚れてたりしてねぇだろうなコイツ……?




