開けろ
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今回始めはナナ視点です。
「うぅ……」
身体に力が入らない。筋弛緩剤でも投与されたのかな。
ギフトを使おうとしても、繋がれている鎖が光るばかりで発動できない。きっと、これがマジカを吸収してるんだ。
まるでギフトに目覚める前の、弱かった自分に戻ったようにすら思える。
ここは、多分アクエリアスの収容房だと思う。
懐かしくもなんともない、無機質で薬臭い嫌な匂いが充満している。
あの赤い髪の人が、お姉さんに倒された後に、アリエスからの援軍が私たちを囲ったところまでは覚えている。
お姉さんを渡すか否かの状況で、不意にお腹に強い衝撃を受けて意識が遠のいていった。
最後に見えたのは、私とお姉さんを抱えている金髪の男の人。
No.1さんが、私を当て身で気絶させてからお姉さんと一緒にアクエリアスへ連れ帰ったんだ。
こんなところに戻りたくなかった。
スコーピオスの下で働いていた時は、まだ働いた分の見返りはあったし、鞭係の人たちも話せば分かってくれる人たちばかりだった。
それを裏切ってお姉さんに、アリエスに協力した私が言えた義理じゃないのかもしれないけれど。
……そんなことを考えてる場合じゃない。
今はどうやって脱出するか、そしてどこにお姉さんが囚われているか探さなければならない。
外部からの助けには期待できない。
ツヴォルフさんもリベルタ君も膂力が弱い。
一般人に比べれば強いほうだけど、それでも並のギフト持ち相手だと見劣りする。
少なくとも、No.1さんと争うことになればすぐ殺されちゃう。
私がなんとかしないといけないのに、この手錠がどうしても外れてくれない。
「くっ……!」
思わず歯噛みする。
口の中に鉄の味が広がっていく。
筋弛緩剤で全身の力が出ないけれど、血が滲むほど歯を食いしばることくらいはできるみたいだ。
手錠のサイズは大きい。私に合う大きさの手錠が無かったのかな?
ガリガリだったころの私なら容易く引き抜くことができると思う。
でも、今の私じゃギリギリ外せない。
本当にあと少しだけ細ければ外せるのに、なんてもどかしい。
……?
っ……!!
気付いた。気付いてしまった。
この手錠を外す方法に。
手錠を外せれば『治癒』のギフトが使えるようになるし、身体の自由が利かなくとも『念動力』で運べば移動できる。
でも、それを思いついてしまったことを後悔するほど、ひどい方法だ。
それがどうした。
お姉さんは命を懸けて、命を捨ててまで私を庇ってくれたじゃないか。
治癒が使えれば、どうせ治るんだ。繋げるのは初めてじゃない。
覚悟を決めて、口を開き、ソレに噛み付いた。
「~~~~~~~~~~~ぃぎぃぃぃぃっっ!!」
声にならないほどの痛みと叫びとともに、ソレを食い千切った。
~~~~~
アクエリアスに侵入するには、当たり前だがまず外壁から内部へ入る必要がある。
正式な手続きで入ることなんてまず無理。オレはお尋ね者だし、坊主やシャドウがここの連中に見つかろうもんならギフト持ちのサンプルとしてすぐ捕まえられちまうだろう
かといって、非合法な手段で入るのも楽じゃない。
他のコミュニティと交流がほとんどないため、外壁が開いたところでドサクサ紛れに侵入することはできねぇ。
シャドウがコッソリ作っていた抜け穴は塞がれていた。バレてしまっていたか。
かなり見つけにくい地味なところにあったんだが、どうにも例の脱走騒ぎ後に細かいところまで総チェックされたみてぇだな。
「……あ、あんなに頑張って掘ったのに……」
シャドウが絶望した様子で泣き言を漏らしている。
……膝から地面に崩れ落ちるほど抜け道を塞がれたのがショックだったのか。涙拭けよ。
しかし、どうしたもんかね。まさかのっけから躓くことになるたぁな。
もっかい人力で抜け穴を作ろうにも時間がかかりすぎる。
目立ちすぎるから爆薬なんざ使うわけにゃいかねぇし、そもそも手持ちの爆発物で人間が通れるだけの大きさの穴が開くかどうかも分からねぇ。
緊急用の通路はカードキーが必要。非常用の出口にカギなんか付けるんじゃねぇよバカが。
こじ開けたりしたらそのまま門番に捕まって御用だ。
……最初っから詰んでねぇか? どうすんだよコレ。
「ツヴォルフ、アクエリアス正面の出入り口はパイシーズのものと同じなの?」
「え? あ、ああ、多分な」
「なら、開けられる。いや、開けさせる」
「は? ……おいちょっと待て坊主、お前なにする気――――」
メインゲートを眺めながら、なにかやらかす気満々の坊主を止めようとしたところで、ズンッと音を立てて地面が揺れた。
いや、揺れたのは地面じゃない。
メインゲートだ。
「な、なんだと……!?」
メインゲートが、動き始めた。
パイシーズの門が開いた時と寸分違わない。外壁の一部が割れてコミュニティ内への入り口が開いていく。
「おいおいおい、どうなってんだよ!? 坊主、お前どうやって開けたんだ!?」
「まだ開けてない。これから開けてもらう」
「は? なに言ってんだ……!?」
すまし顔でそう言う坊主の言葉が理解できずに混乱していると、メインゲートが開く際の振動がより大きくなっていった。
……? 気のせいか? パイシーズの入り口が開くときは、こんな大きな振動はなかったはずだが。
「本当の入り口が開き始めた。『幻惑操作』で姿を消しながら中に入ろう」
「待て待て、どういうことだよ!? なにが起こってんのかさっぱり分かんねぇぞ!?」
なにがなんだか分からねぇ状況に喚いていると、シャドウが口を開いた。
「……なるほど、入り口が開いたように見えているのは『幻惑操作』のギフトによるものですか」
「うん。『メインゲートが開いていく幻覚』を作った」
「え、幻覚? これが? 振動や音まで感じるんだが……」
「僕が誤魔化せるのは視覚だけじゃなくて、五感全部。コミュニティのメインゲートは共通のボタンを押すことで開閉してるから、急に開き始めたゲートを見れば焦ってボタンを押して閉じようとするはず」
「……つまり、ゲートが開いていく幻覚を見せることによって、それを閉じようとするのを利用してボタンを押させて、本当にゲートを開けさせたってことか?
「合ってる」
なんとまあ大胆な作戦を。
ゲートの開閉に共通のボタンが使われてることを知ってなきゃできねぇ作戦だが、一応理に適っちゃいる。。
こんなリアルな幻覚見せられちゃ、ホントに開いたように見えるわな。
「……坊主、そういう作戦は伝えられる状況なら事前に伝えな。急にゲートが開いたように見えて焦ったのはこっちだっての」
「……ごめん。僕も早くロナを助け出したいから、焦ってるみたい」
「まあいい、バレる前にさっさと入ろうぜ」
急に開いたゲートの周辺には、銃武装した門番や兵士たちが集まり始めている。
坊主のギフトですんなり通り抜けられたが、真正面からこの数相手じゃまず突破できなかっただろうな。
さて、ロナやナナが捕らえられてるのはおそらくD区画の収容房だ。
あんな家畜の檻以下のゴミ溜めみてぇな場所からはさっさと出してやらねぇとな。
にしても、アクエリアスの監督官がロナを狙ってたのは、やっぱ『蛇』に献上するためなのかねぇ。
余裕がありゃあの肥えたクソデブ監督官に直接話を聞くのも悪くなさそうだ。そうすればシャドウの言っていたことが本当かどうかも分かるだろう。
……できれば、嘘であってほしいが。
お読みいただきありがとうございます。




