コイツと私はなんのために
新規の評価、ブックマーク、いいね ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回始めは赤髪ことゲブラー視点。
途中で小文字の訳分からん文章が挟み込まれたりしてますが、特に深い意味はないので読み飛ばしていただいて結構です。
なんだコイツは、なんなんだコイツは!
美味そうないい匂いがするから我慢できなくて、抜け駆けしてちょっとつまみ食いしただけなのに。
目の前のコイツは、確かに『蛇』だ。刺青も確認したし、『摂食吸収』のギフトも持っている。
でも、コイツは、本当に私たちの姉妹なのか?
白い髪の姉妹も、黒い髪の姉妹も見たことがない。
後から造られたとしても、なんのために?
コイツは、なんのために、存在しているんだ……?
「さて、ゲロってるところ悪いが死ね」
「あァッ……ぐ、ぁっ……!!」
動け。
逃げろ。
戦うな。
理性も本能も、目の前のコイツに関わることを全力拒否しているのが分かる。
気に喰わない。憎たらしい。殺してやりたい。
バカにしやがって。コケにしやがって。このカスが。
そんな恨み言が渦巻く腹の底からすら、今すぐに逃げるべきだという声がする。
「あ、ァァァァああああああっ!!!」
「お?」
『飛行』のギフトを使い、背中にマジカでできた光る翼を生やす。
不本意だけど、空へと飛び立ち、このまま距離を取って逃げよう。
なんて屈辱だ、なんて無様だ……!!
遥か上空へと高度を上げて地を見下ろし、血の味だらけの口を開いた。
「お、ぼえてろッ……!! テメェは、必ず、私が――――」
「どこ行くのー?」
……え?
おかしい、な?
私は、もうあいつの手が届かないくらい高い場所にいるはずなのに。
なんで目の前にアイツの姿が見える……?
なんで、コイツは翼もないのに空を飛んでいる……!?
「な、なん、で……? 『飛行』のギフトは、もっていなかったはず……!」
「ギフトなんかなくても空くらい飛べるわい。で、どこ行く気だ?」
「な、なんなんだよ!! お前はなんなんだ! 最初は『蛇』のくせに弱っちいかと思ったら、白い髪が黒くなって、なんだその意味不明なステータスは! 考えてることもやってることも、まるで意味が分からない!!」
「俺からすりゃあ、お前のほうが意味分からんわ。ヒトを殺したりムシャったり。お前、ホントに人間? 人の心とかないんか?」
「お前が言うなッ!!」
「ただ、俺やあっちの三人にとってお前が害悪だってことくらいは分かる。……だから」
喋りながら、こちらに手を伸ばす。
まずい、なにをする気だ。
また心を読まないと、でも、あんな思考をまたまともに読んだりしたら、最悪狂い死ぬかもしれない。
……いや、そんなことを言っている場合じゃない。ここで逃げられないと、狂い死ぬ前に普通に殺される。
コイツの動きに対応するには、セフィラ『峻厳』を使うしかない。
対象の思考を読み取るという、一対一での対人戦においては最強の能力。
……現状では諸刃の剣だけど、もうこれしか打つ手がない。
意を決して、セフィラを発動した。
右手で私の心臓を狙っている
横に回避
「うっ、ぐっ……!!」
「チッ、避けたか。随分と苦しそうだけど、また心を読んでるのか?」
喋りながら 今度は頭を『目に見えないマジカの腕』で、握り潰そうとしている
高度を落として回避
雑音がひどい
吐き気がする
「さてさて、いつまで耐えられるかな?」
「な、に考えてんだ、お前は……!!」
「なに考えてるって、見りゃ分かるんだろ?」
「その考えてることの、意味が、分からな―――」
両手足を狙った攻撃
後方に回避
「くっ……!!」
首を狙ってい る
回 避
「う、ぐうぅぅっ……!!」
避けた先 に マジカの 刃が設置 されて いる
回 避 方向を 変更
頭痛がする
頭が割れそうだ
「ほらほらどうした、動きがどんどん鈍くなってんぞー」
「うる、さいぃぃ……!!」
上から いや下からも 否 右も左も前後も 逃げ場などない
迎撃 全ては無理 損傷を最小限に 抑えなければ
いや 反撃 しないと 防御に徹したら もう打つ手が 無くなる
「死ねぇぇぇぇええっ!!」
『火炎操作』で周囲に炎を放出
炎を目眩ましにして『レーザー』のギフトで――――
「お前がな」
「おごっはぁっ!!?」
く 口に 腕を 突っ込まれ
あ、頭が 弾け――――
「はっ……!?」
「はいよっ!」
「アグァッ!!? ……て、めぇ……!」
「ふんっ!」
「ゴヴォァッ!!? ……や、やめ、ろ……!」
「そぉいっ!!」
「アブォアッ!!」
そこからまた、目が覚めては頭を潰されるループが繰り返される状況になった。
正直、コイツの心を読むよりこうして物理的に潰され続けるほうがまだ精神的には楽だが、このままでは、死ぬ。
もう、自己再生のためのマジカもスタミナも尽きた。
次に殺されれば、再生できずに死ぬ。
なんで、こんな状況に、なった。
私は、私は、ただ―――
「や、やめ、て、これ、いじょ、う、は、ほんと、に、しん、じゃう」
「そのつもりだからな。死ね」
私を見降ろすその焦げ茶色の瞳からは、私に対する慈悲なんて微塵も感じられない。
心なんて読まなくても分かる。
あるのは軽蔑 侮蔑 嫌悪感 そして殺意。
まるで、私がコイツを見ている顔そのものだ。
「わ、わたし、は、おいしいものが、たべたかっただけ、なのに、なんで、こんな」
「お前が言ってるその『おいしいもの』って人間のことだろ? その人間たちも同じ気持ちだっただろうな。ただ美味いもの食って平穏に暮らせてりゃ大体の人は幸せだっただろうし、それをお前は喰い殺した。分かる?」
「うるさい、なぁ……!! ヒトがメシ食うことに、いちいち口を挟んでくるんじゃねぇよ!! 人間たちも同じ気持ちだった!? それがどうした!! どうせこれから全員くたばってゴミになるんだ!! なら私が喰ったところで、なにも変わらないだろうが!!」
そうだ、私はなにも悪くなんてない。
そもそもコミュニティなんていうものは、そのために作られたものなんだ。
「あっそ。要するに『人間いつかは死ぬんだし、ちょっとくらい早く死んでもいいだろ』ってことか?」
「いつか、どころじゃない。もう、時間がないんだよ……! お前たちにも、私たちにもな……!!」
「じゃあお前もいつかは死ぬんだし、ここで死んでもいいだろ」
「……あ……」
もう飽きるほどに見たこいつの履いている靴の裏が、『死』が私の目の前に迫っていた。
「ま、待ってっ!! 殺すならせめて私を食べ―――」
「やだ。キモいわ」
グシャリ、と頭の内側からなにかが潰れるような音が聞こえた気がした。
私は、なんのため、に―――――
~~~~~ツヴォルフ視点~~~~~
「……た、倒したのか?」
「そう、みたいです。あの赤い髪の人は、もう再生できないみたい……」
最後になにか話してたみたいだが、結局ロナが赤髪の頭を踏み潰して、赤髪の身体が動かなくなった。
その直後、ロナの髪が黒から白へと戻り、倒れたのが見えた。
「お姉さんっ!」
「だ、大丈夫か!?」
倒れたロナに駆け寄って、状態を確認した。
息はしてるし、脈拍も正常。
生きている。頭を貫かれたことなんてなかったかのように。
「……ふぅぅ……なんとか無事みてぇだな」
「あの、さっきの髪が黒くなっていたのは、いったい……」
「分かんねぇ。施設から出る時っつーか、……例の『腕』を喰った直後も黒くなってたし、アリエスの闘技場で異獣に殺されそうになってた時も、今のに近い状態になってた」
「え、何度か今みたいな状態になったことがあるんですか? というか、『腕を食べた』って、え……?」
「ああ。だが今回は今までで一番バケモンじみた状態だったな。あの赤髪も大概絶望的だったが、それを赤子扱いする強さって。……コイツ、マジでなんの腕を喰ったんだろうな」
ただ、分かるのはコイツがあの黒髪の状態にならなかったら、オレたちは全員殺されていたってことくらいだ。
……だが、あの時のコイツの言葉を信じるなら、こいつは傷を治すたびに寿命を削っているらしい。
今回は坊主の下半身と、ロナの頭と右腕を治した。どれだけ寿命を持っていかれたか、見当もつかねぇ。
いや、それよりも早くどっか安全な場所でロナと坊主を休ませてやらねぇと。
ひとまずパイシーズに、いやアリエスの軍用車のほうが近いか。
「そんじゃあ、この物騒なお嬢さんと坊主を運ぶとしますかね」
「……あの、赤い髪の人の遺体は?」
「ん? あー、まあ後でアリエスの連中あたりに回収してもらっとこう。あいつの遺体からもなにか分かるかもしれねぇし。……お?」
アリエスの軍用車から、アリエスの部隊員たちがこっちに向かって駆け寄ってきているのが見えた。
……今更かよ。つーか、これまで赤髪との殺し合いを安全圏から傍観でもしてたのかこいつら。
「動くな」
……おい、なんの冗談だ。
アリエスの、『ゴリアテ』の隊長を含む部隊員たちがオレたちを囲って、銃口を突きつけてきている。
ゴリアテの隊長、ヴァーカスが前へ出てきて口を開いた。
「その少女、『ロナ』をこちらに渡してもらおうか」
「……なんの真似だ? 言っとくが、ロナはさっきまでパイシーズで住民たちを食い荒らしてた奴とは無関係だぞ。むしろ敵対して―――」
「分かっている。ロナは住民たちを助けようとしていたことも、突然現れた赤髪の『蛇』と敵対していたことも、承知のうえで言っているんだ」
「『蛇』? あの赤髪について、なにか知ってるのか?」
「……それについてはどうでもいい。大人しくロナをこちらに引き渡せば、君たちに危害は加えない」
「ひ、引き渡したら、お姉さんはどうなるんですか……!?」
「少なくとも、すぐに処刑されたりすることはないと約束する。だが、これ以上彼女を野放しにすることはできない状況となった。今後はアリエスにて、その身柄を管理することとなるだろう」
……くそ、現状じゃ話を呑む以外に選択肢がねぇ。
明らかに怪しい話だが、ロナの身の安全を保障するって話は嘘じゃねぇはずだ。
ロナを殺すつもりなら、意識のない今が絶好の機会のはずだからな。
だが、このままアリエスにロナを渡したら今後コイツはどんな扱いを受けるんだ?
今回の赤髪との関係性なんかを尋問されたり、アリエスの駒として働かされたりすると考えるのが普通だろう。
その程度ならまだいい。しかし、なにか重要なことを隠しているようにしか思えねぇ。
どうする、どうしたらいい……!
クソ『未来視』! さっきまでなんの仕事もしてなかったんだから、こんな時ぐらい役に立ちやがれ!
……っ!?
怒りに任せて『未来視』を発動させると、セピア色に染まった世界の中で『その未来』が見えた。
……マジ、かよ。
お読みいただきありがとうございます。




