遊びは終わり
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今回ツヴォルフ視点。 シリアス退場済み。
「もう許さない……!! お前は生きたまま全身潰して挽き肉にしてやるわ!!」
「うわ、なんか物騒なこと言ってるー怖いわーこの子怖いわー」
「黙ってろエサがぁぁぁああっ!!!」
激高しながら叫ぶ赤髪を、煽っているのかそれとも単に興味がないだけなのか軽口を叩きながらあしらう黒髪。
同じ顔をした少女たちが、今殺し合いを始めようとしている。
「潰れろっ!!」
また赤髪の姿が消えたかと思ったら、ロナの目の前まで移動していた。
No.1のように転移しているわけでもねぇのに、移動する過程が見えねぇ。速すぎる。
目にも留まらない速さで、ロナに殴りかかる。
その風圧だけで吹き飛ばされそうなほど、力強く鋭い連撃を繰り出し続けている。
「シィッ! ハァッ! 死ねぇっ!!」
「おっとっと、速いな」
……見えない。少なくともオレの目じゃ赤髪の動きを追うことすらままならねぇ。
仮にこいつの相手をしたならば、一秒も持たずに粉々だろう。
「こ、このっ!! な、なんで、当たらない、のよっ!!」
「いやー、速いばっかじゃ当たるわけないでしょー」
「なに、余裕ぶってんだテメェはぁっ!!」
掠っただけで致命傷になるような攻撃を紙一重で、かつ髪の毛一本触れることすら許さず避け続けている。
動きの速さ自体は赤髪のほうが速い。だが、今のロナは身のこなしが普段のそれとはまるで違う。
速すぎてなにがどうなってるかよく分からねぇが、無駄がない、いやあえて無駄な動きを織り交ぜながら、避けるのに最適な動きをし続けているってのか。
熟練の戦士を思わせる動きを、今のロナは再現している。
「あっ」
とか感心しそうになったのも束の間、ロナが足を踏み外してバランスを崩した。
あ、あのバカ! 今の状況でちょっとでも隙を見せたら……!!
「あはっ! バカね、死になぁっ!!」
「あうち!」
隙を見せたロナのどてっ腹に、赤髪が思いっきり強く蹴りをぶちかました。
気の抜けるような悲鳴を上げつつ、大砲の弾を思わせる勢いで吹っ飛ばされちまった。
や、やべぇ、あの馬鹿力をモロに喰らっちまいやがった!
下手したら今ので死んじまってんじゃ……!?
「ひゃはははっ!! エサが調子に乗ってるからよ! ……? え……?」
吹っ飛ばされた先に、ロナがいない。
土埃が晴れても、どこにも姿が見えない。
「ちょいちょい、君、その子にコレ穿かせてやってくれない?」
「え、ひえっ!? い、いつの間に……!?」
は? ……は!?
ロナの声がしたほうを向くと、ナナがリベルタを介抱しているところに、いつの間にか移動していた。
ど、どうやって、いつ、あんなところまで……!?
「その子もそんなモロ出しのまんまじゃ風邪ひくだろうと思って、とってきた」
「え、ず、ズボン……? とってきたって、どこからそんなもの……?」
「どこからって、アレだよアレ」
「アレ? ……あ、れ……?」
訝しげな顔で問いかけるナナに対して、どこかを指差しながら答えるロナ。
暢気な口調のまま指差した先には、……え、あ、は? おい、ちょっと、まて。
「……は?」
穿いていた短ズボンがなくなり、下着が丸出しの状態の赤髪が口を開けて呆けていた。
お前なにしてんだ。マジでなにしてんだお前。
「テッッメぇぇぇぇぇえええええええっ!!! なにしてやがんだクソゴミがぁぁっぁあああああああああっ!!!!」
はち切れそうなほど太く血管を全身に浮かべながら、激怒する赤髪。
あんの、大バカ!! 赤髪のズボンを脱がして盗んでやがった!!
今分かった! あいつバカだ!
普段のロナもバカだが今のアイツは度が過ぎたバカだ!
「え、だって君がこの子の足をズボンごとムシャムシャしたせいでこの子ケツ丸出しになってるわけじゃん? だから君のズボンを代わりにあげればいいんじゃないかなって思ったんだけど……」
「うるせぇっ!! 黙って死ね!! くたばれぇこのクズぁぁああっ!!!」
「うわ、めっちゃ怒ってる。そんなにこのズボン大事なの? 返そうか?」
「あああぁぁぁぁあああっ!!!」
怒りのあまり絶叫しながら、ロナに殴りかかる赤髪。
さっきまで以上に荒々しく素早い動きで、地面を抉りながら突進していく。
「はい、そこでボケて!」
「う、がうぅあっ!!?」
突進している最中、ロナが訳の分からない言葉を発した直後、なにをしたのか赤髪がバランスを崩して躓き、盛大にこけた。
とんでもない勢いで突進していたもんだから、ゴロゴロと何十回も地面を転がっていく。
「く、クソ、が……!! ど、どこ、いきやがっ―――」
ようやく転がるのが止まり、なんとか立ち上がろうとしつつロナの姿を探しているところで――――
「はい、返却ね」
「……!?」
「「ぶふぅっっ!!?」」
それを見たオレとナナが、同時に噴き出した。
……………ロナが、赤髪の頭に、盗んだズボンを被せやがった。
ダメだ。こいつダメだ。真面目に戦う気が微塵もねぇ。
ただひたすら相手をおちょくることだけしか考えてねぇぞアイツ。
「あぐぉああぁぁぁあああああ!!! もおぉぉおおおな゛んなんだよテメぇはよおぉおおおっ!!! さっきからバカにしやがってクソカスがぁぁああっ!!!」
「えー。ちゃんと返してあげたやん。わがままだなーもー」
「もうお前なんかいらない!! いらないいらないいらないぃっ!! 消えろ燃えて消えろ焼けて消えて無くなれクズがぁっ!!!」
そう叫びながら空に向かって手を翳す赤髪。
翳した手から、炎が吹き上がっていく。
あれは、『火炎操作』のギフトか……!?
噴き出した炎がみるみるうちに球状に固まり、太陽を思わせる巨大な炎の球を形作っていく。
こんだけ離れてるのになんて熱気だ……!
あんなもんがこっちに放たれたら、下手すりゃ灰すら残らねぇぞ!
「おいおい、そんなもんブッパしたらあっちの三人も巻き込んじまうぞー」
「知るか!! 全部燃えろ!! さっさと消えろぉっ!!!」
直径何十メートルあるかも測れねぇほど巨大な超高熱の火球。
あれが着弾すれば、間違いなく全員助からない。
あの赤髪自身もただじゃ済まねぇはずだ。自分自身が焼け焦げることもお構いなしかよ……!
「はぁぁ……。俺だけにちょっかいかけてくるんなら、まだおちょくるだけで済ませてやってもよかったんだけどなぁ」
「 死 ね 」
死刑宣告の後に空に翳した手を降ろすと、炎の球がオレたちに向かって落ちてきた。
回避も防御もできねぇ。
オレたちがどう足掻こうが、意味がない。
こいつは、今までオレたちを嬲って遊んでいただけ。
殺そうと思えばいつでも殺せたんだ。
それを、ロナがおちょくるもんだから、怒りのあまりタガが外れて、喰うことすら忘れて本気で殺しにかかってきちまったんだ。
あんなもの、どうしようもない。
今度こそ、おしまい、か――――
「じゃま」
「……あ、あぁ……あ?」
その、迫ってくる『死』そのものとも言うべき火球が、軽く手を振っただけで明後日の方向へ弾き飛ばされた。
軽く手を叩いたような音の後にどこかへ飛んでいく火球を、オレもナナも、赤髪も間抜け面を晒しながらただただ眺めていた。
「まあ、なんだ。俺だけじゃなくて周りも巻き込むって言うのなら、こっちもそろそろ遊ぶのはやめとくわ」
「え」
さっきまでのおちゃらけた声から、急に低く冷たいものへと声色が変わった。
声が聞こえたかと思った時には、ロナが赤髪の手を掴み、足を払って投げた。
「どおりゃぁあっ!!!」
「あがっはぁぁあっ!!?」
受け身すら許さず、思いっきり地面に向かって叩きつけた。
叩かれた地面にクレーターができて、土埃があたりに舞っていく。
「はい、一本」
「て、め、ぇっ……!!」
「でりゃぁあっ!!」
「あごふぁっ!!?」
すかさず二投目。今度は足を掴んで頭から地面にブチ当てた。
「はい二ほーん。まだまだいくぞー十本くらいいくぞー」
「や、やめっ……!!」
「三! 四! 五! 六! 七! 八! 九! 十本!」
「がはっ! ぼぐぇっ!? げはぁっ! がはぁあっ!!」
何度も何度も地面に打ち付けて地面を穴だらけにしていく。
一発一発の威力が、まるでミサイル。こんな力を、人体で出せるのかよ……?
「さぁて、次はどうしようか?」
「く、そがっ……!!」
何度も叩きつけられてボロボロになっていたが、すぐに赤髪の傷や痣が治っていくのが見える。
『自己再生』のギフトか。……アレがある限り、どれだけ傷つけてもすぐに回復しちまう。
「へぇ、君も傷が治せるのか」
「はぁ、はぁ、どれ、だけ、攻撃しても、無駄なんだよ、クソ野郎がっ……!!」
「なるほど、つまり……」
ロナが、ここにきて顔に笑みを浮かべた。
「殴り放題ってわけか」
「ひっ……!!?」
それは、見ているだけで底冷えするような冷笑だった。
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