増援
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「いいんだな? 最悪、この蛮族どものように首と胴が泣き別れになる覚悟はできているんだろうな」
「泣き別れにする? 嘘ね。アンタは私を生け捕りにするのが目的でしょ? 殺す気ならとっくにそうしてるはずなのに、まだ私が五体満足なのがいい証拠よ」
「ならば腕や足を切り離して―――」
「それも無理よ。四肢の欠損はすぐに止血しなきゃ失血死する。でも、私が手足の一本や二本失くしたくらいで大人しく捕まると思う? 暴れてるうちに血を流し過ぎて死ぬ危険性がある以上、アンタは私の身体を大きく欠損させることはできないはずよ」
「ちっ……」
抵抗の意志を崩さない私に対して脅し文句を言うNo.1だけど、そんな見え見えの脅迫なんか聞く耳持つかっての。
さっきも空間転移による切断攻撃じゃなくてあのビリビリ棒(仮)で殴りかかってきてたし、殺す気ないのがバレバレである。
「だからといって、ナナを狙うのはやめときなさい。……もしもこの子を殺したら、アンタもシャドウもアクエリアスの連中も全員皆殺しにしてやるから」
「それこそ無理だ。お前は、ここで捕縛される」
「っ! お、お姉さ―――」
『捕縛される』とNo.1が言い放った直後、その姿が消えた。
『空間転移』で私の視界の外へ移動したようで、それを見たナナが警告を出そうと叫ぶ。
……見え見えなのよ、バカが。
「がぁっ!!」
「! くっ……!」
私の背後でビリビリ棒を振りかぶっていたNo.1に向けて、『火炎放射』のギフトをぶっ放した。
直撃すれば即、消し炭になるほどの火炎。No.1がそれに向けて手を翳すと、身体に当たる寸前で炎が消えた。
……今のは、火炎を転移して防いだのか? そんな繊細な使いかたもできるのかよ。
って、防いだ炎をそのままこっちに向かって返してきやがった!
「お姉さん!」
もう少しで丸焦げになるところだったけど、ナナが念動力で私の身体を弾き飛ばして回避させてくれた。
あぶねーあぶねー、自分の炎で死にそうになってたら世話ないわ。
「あっぶな!? アンタ、今の下手したら死んでたわよ! 生け捕りが目的ならもっと手心加えなさいよ!」
「それを放ったのはお前だろうが。……思った以上に厄介だな」
「アンタもね。随分と器用なことするじゃない。おまけに前にやり合った時より素早くなってるし。……ああ、シャドウの依頼で強力な異獣を何体か殺したんだっけ? 強くなってるのはそのせいか」
「お前ほどじゃない。……あの黒髪のバケモノを思わせるその前髪に、その力。放っておけば、第二のバケモノとなりかねん」
互いに褒め合い、しかし慣れ合うことをよしとしない。
つーか誰がバケモンだ。失敬な。
やれやれ、こんなのと敵対するハメになるとはね。味方ならさぞ心強いだろうに。
互いに初撃をいなした後、しばらく睨み合っている。
馬鹿正直に殴りかかっても、今みたいにいなされて無駄に時間と体力を消耗するだけだ。
どうすればコイツをぶちのめせるのか考えながら、かつ相手がどんな手を使ってくるのか予想しなければならない。
私の頭じゃまともな考えなんか出てこねーけどな!
私の戦闘スタイルはその場のノリと思い付きとわずかな実戦経験でできてます。考えながら戦うとか難しいです。
……多分、『腕の人』も頭を使った戦いかたとかできないタイプだと思う。私がこんなんだし。
「……まともにやり合っては埒が明かんな」
「なら帰れ。こっちはアンタと千日手して時間潰せるほど暇じゃないのよ」
嫌味を言いながら、足りない頭を必死に回して対抗策を考える。
ナナの『念動力』で拘束してその間にぶん殴るか? 却下。転移で逃げられる。
謎バッグの中から岩を取り出して投擲、却下。転移で防がれる。
K2から買った香辛料をあたりにぶちまけて目潰し、却下。こっちが自滅するうえに向こうは転移で逃げられる。
クソが! 空間転移が万能すぎて策が全部潰される未来しか想像できねぇ!
なんだその反則ギフトは! そんなんチートや、チーターや! ……『チート』ってなんだ?
とかとりとめのない思考を脳内で繰り広げていると、No.1の持ってる通信機から着信音と思しき音が鳴り響いた。
それに応じてNo.1がボタンを押すと、通信機から誰かの声が聞こえた。
『No.1、全員転移ポイントへ辿り着きました』
「いいタイミングだ。No.67-J及び寝返ったNo.77と交戦中だが、俺一人では手に余る、全員この場に集合させるぞ」
『了解』
は? 集合?
ギフト・ソルジャーたちを? なに言ってんの? 馬鹿なの? 死ぬの? 死ぬよ? 主に私が。
まずい、No.1以外はさほど強くないはずだけど、コイツと戦ってる間に他のギフト持ちに対応する余裕なんかない。
このまま集合されたら勝ち目はかなり薄くなる。なんとしてもそれは止めなければならない。
「ナナっ! 止めるわよ!!」
「は、はいっ!」
ナナは念動力で、私は謎バッグから岩を取り出しぶん投げてNo.1がギフトを使うのを妨害しようとした。
しかし、転移で防ぐこともせず普通に避けられた。
くそ、素の身体能力もかなりのものね。さっきの隊長以上かも。
「『遠隔・設置範囲・集団転移』」
No.1の口からそんな言葉が発せられた直後、辺りに青白い光が走り、覆う。
気が付くと、私たちの周りを十数人もの人影が囲っていた。
全員がNo.1と同じ妙な隊服を身に着けている。
……ギフト・ソルジャー、全員集合ってか。
「捕らえるぞ、手を貸せ」
「了解。それと報告が。No.21のバイタルサインが消失しました、おそらくは死亡したのかと」
「そうか、まあ元よりアレには期待していなかった。力に溺れ統率を乱す傾向があったうえに、元々殺人嗜好のある問題児だ。むしろ消えてくれて安心した」
「そ、そうですか……」
なんだか一人いなくなってるみたいだけど、そいつのことをボロクソに罵るNo.1。
『No.21』ってことは新入りだったのかな。話を聞く限りじゃろくでもない奴だったみたいね。
「……ナナ、いざとなったら私を囮にして逃げ―――」
「嫌です」
即答。
勝ち目の薄い状況だし、最悪の事態に陥った時のことを伝えようとしたら速攻で拒否された。
「奴らが狙ってるのは私よ。アンタだけなら、もしかしたら見逃してもらえるかもしれないわ」
「絶対嫌です! お姉さんを置いて私一人で逃げるくらいなら、一緒に捕まります!」
……いや、ホントこの子なんでこんなに覚悟決まってるの? 怖いわ。
ああもう、ここまで言われちゃ仕方ないわね。こうなったら一緒に地獄を見てもらいますか。
「じゃあ踏ん張りなさい。私より先にへばるんじゃないわよ」
「はいっ」
「……戦力差は見て分かるはずだが、まだ抵抗する気か?」
呆れたようにNo.1が問いかけてくる。
なんで私にだけこんなにいちいち話しかけてきてるのコイツ。ウザいわ。
「だからなに? どうせアンタのギフトのせいで逃げられないのなら、少しでも可能性のあるほうに賭けるわよ」
「逸るな。言っておくが俺たちはお前たちを殺そうとしているわけじゃないんだぞ、それを理解していないのか?」
「理解してないのはアンタらよ」
「なに?」
「あんなクソみたいな場所に戻るくらいなら、ここで死んだほうがマシだっつってんのよっ!」
啖呵を切りながら、No.1に向かって突進し殴りかかる。
でも、傍にいた大柄なギフト・ソルジャーたちに阻まれてしまう。
「くっ……!」
「いい加減無駄な抵抗はやめろ! お前に自由などない! 実験体ごときが!」
「さっさと大人しくしてろや、廃棄物が!」
「うるさいっ!!」
実験体? 廃棄物? なんとでもおっしゃい。
私を押さえつけながら罵ってくる奴らに、なお食ってかかる。
「アンタたちは、生きてなんかいない! 奴隷として生かされてるだけ、死んでないだけよ!」
「ぐっ……!?」
「こ、このガキ、なんて馬鹿力だっ」
「アンタたちは、なにが楽しくて生きてるの!? 自分たちより弱い人間を罵って見下して優越感に浸れれば満足なの!? そんな人生、私は全然楽しいなんて思えないわよ!」
自分でもなんでこんなこと叫んでるのか分からない。
こいつらの動揺を誘おうとか考えてるわけじゃないのに、怒鳴るのを止められない。
特に『上の命令は絶対だ』って態度のNo.1を見ていると、酷く不快な気分になってくる。
「『なにをしなければいけない』じゃなくて、アンタたちは『なにがしたい』のかって考えたことある!?」
「なに、が……?」
言葉を続けていると、No.1の仏頂面にほんの少し変化があった。
困惑しているのか驚いているのかよく分からないほど微妙な変化だけど、確かに反応があった。
「私の自由を奪う連中の命令なんてクソくらえよ! アンタたちもいつまで奴隷根性引き摺ってるつもりよ!」
「うるさい! 訳の分からないこと言っていないで、寝てろ!」
「あ、危ない!」
私を押さえつけていた奴が、腕を巨大化させて殴りかかってくる。
どっかの湖で無法者が使ってた『体積操作』のギフトか。
「あ、がぁっ……!」
「お、お姉さん!」
突然現れた大質量に対応できず、殴り飛ばされてしまった。
殴られた衝撃で意識が遠のきそうになるのを、辛うじて耐える。
「う、ぐうぅ……!!」
「い、今のを喰らってまだ動けるのかよ……?」
「ボサッとするな、畳みかけろ!」
痛みに悶えているところに、さらに追い打ちをかけてこようとしてくる。
……仕方ない。出し惜しみできる状況じゃないし、ここは奥の手を……あれ?
アイツら、なんか私のほうじゃなくて明後日の方向へ向かってね?
いやいや、どこいくの? 私ここだぞ。蜃気楼でも見えたか? 砂漠じゃあるまいし。
いや、待て。
奴らが向かってる方向に、私と全く同じ姿の人影が見える。
あれは、いったい……?
「ロナ、今のうちに体制を整えよう」
「……え?」
急に後ろのほうから、聞き覚えのある幼い子供のような声がした
「そっちの嬢ちゃんもこっちにこい、早く!」
「え、え?」
その隣から、これまた聞き覚えのある男の声。
困惑した様子のナナを、こちらに誘導するように手招きしているのが見えた。
……ちょっと待て。
「なんでアンタらがこんなトコにいるの? 筋肉ダルマたちと一緒に人質解放しに行ってたんじゃないの?」
「ロナが心配で、助けにきた」
「アクエリアスの連中がお前を狙ってるって聞いてな、急いで合流しようとしてきたがなかなか悪くねぇタイミングだったみてぇだな?」
別行動をとっていたはずのリベルタとツヴォルフが、いつの間にやら私の傍にいた。
なるほど、ギフト・ソルジャーたちが変な方向へ向かっていったのは、リベルタの『幻惑操作』で幻を見ていたからか。
……やれやれ。なんだかんだ言って私は誰かに助けられてばっかりね。
お読みいただきありがとうございます。




