出だしは好調
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お読みくださっている方々に感謝します。
最近は仕事もプライベートも忙しくてなかなか執筆の時間がとれぬぅ……(;´Д`)
「逃がすなぁぁぁあっ!!」
「ちょこまか逃げてんじゃねぇぞガキがぁっ!!」
はいどうも、夜も更けてまいりました。
現在、監督署から出てきたギフト持ち集団からひたすら逃げているところです。
どいつもこいつも不機嫌そうな顔して追いかけてきてるけど、こいつらに対してそんな怒らせるようなことしたか私?
雑魚を何人か殺したけど、こいつらにとっちゃどうでもいいことだろうに。
あー、いや、よく見ると欠伸をしたり目がショボショボしてるのが何人かいるな。
こんな夜中に叩き起こされた挙句、侵入者を捕らえる仕事なんかをさせられりゃ機嫌悪くもなるか。
私だったらキレて睡眠妨害した奴を叩きのめしてから二度寝するわ。
さてさて、監督署からは随分離れたけれど、そろそろこいつらへの対処を考えないとね。
今はまだ十人全員が私に釘付けになっているけれど、もしも監督署の警備に何人か戻るような判断をされたら厄介だ。
とか思考を巡らせながら走っていると、見晴らしのいい広場に出た。
メインストリートの、さらに中央か。
ここはパイシーズのありとあらゆる場所へ繋がっている場所だ。
監督署はもちろん、異獣の研究施設や食料生産工とか医療施設にも、移動する際には必ずここを通る必要がある。
本来なら、の話だけど。
「!」
「こっちは通行止めだ! 大人しく縄につけぃ!」
メインストリートの向かい側から、挟み撃ちになる形で援軍がやってきた。
ギフト持ちの隊長に武装した部隊が追従している。突破するのは難しそうね。
「さぁて、袋のネズミってやつだな、メスガキ」
「抵抗せずに捕まるってんなら、痛い目見ずに済むぜ?」
袋のネズミ、ね。
ええ、まさにその通りだわ。
「……まさか、ここまでとはね」
「ああ、ここまでだ侵入者めが」
「なんだ、今更自分の見通しの甘さに気付いたってのか? 馬鹿だろお前」
「……ふふっ」
「……? なにを笑って―――」
「ここまで上手くいくとは思わなかったわ」
私がそう呟いた直後、アラーム音が大音量で辺りに鳴り響いた。
その直後、ガシャンッ と大きな音を立てながらメインストリートのあらゆる通りに隔壁がせり上がり、通行を遮断していく。
「な、なんだ!? なにが起きた!」
「非常用の隔壁が、起動したようです!」
「馬鹿な!? 隔壁は監督署にある制御スイッチを切り替えなければ作動しないはずだ!」
「……まさか、このガキの他に侵入者がいたっていうのか!?」
正解。まんまと引っかかってくれたわね。
私は派手に暴れて監督署の警備たち、特にギフト持ちの連中を引きつけて監督署から引き離す役割よ。
私につられて警備の大半が不在の監督署に『シャドウ』の案内で『ゴリアテ』の筋肉ダルマたちが侵入し、監督署内部を手早く制圧した後に隔壁を起動。
アイツらはパイシーズの中でも極一部の人間しか知らない隠し通路を使ってるから、見つかる可能性は低い。
こうやって隔壁が起動したってことは、向こうも手筈通りにやってくれたみたいね。
監督署のギフト持ちたちだけじゃなくて、おまけの部隊の足まで止められるとは思わなかったわ。
出だしは好調、といったところかしら。
「このガキをとっ捕まえてからすぐに監督署へ戻れ!」
「そうしたいが、隔壁を元通りにしなければ思うように身動きがとれない……やってくれたな」
「このアマぁ! ただで済むと思うなぁ!!」
さて、問題はこの数のギフト持ち相手にどう戦えばいいのかってことなんだけど、どうしたもんかしらね。
ぶっちゃけ隔壁が作動した時点で私は御役御免みたいなもんで、後の大まかな流れは他の連中に任せればいいんだよねー。
極端な話、このまま無抵抗で投降して戦争が終わるまでサボっててもいいくらいだ。
でも、戦争を引き起こした立場上そういうわけにもいかない。そんなことは筋が通らない。
つーか、このクソどもに対して大人しく降参するなんていうのは癪に障る。というかありえない。
なにより、もうこいつらはこっちの言い分なんか聞き入れる態勢なんかとってないし。
「くたばれ! このクソッタレがぁっ!!」
「死ねっ!!」
現に今も殺意満々で襲いかかってきてるわ。物騒だわー怖いわー。
こりゃ降参しても無駄っぽいわね、するつもりなんか微塵もないけど。
ま、そもそも殺す気満々なのはお互い様なんだけどね。
「せいっ!」
逃げてる途中に拾っておいた、工業用の鉄のインゴットを襲いかかってくる連中の頭上に向かって投げつけた。
私の膂力で投げた鉄の塊。当たれば人体くらいなら簡単に貫通するだろう。
「どこ投げてんだ、ノーコンが!」
「当たるかよ!」
明後日のほうへ鉄塊を投げた私をバカにしながら、片方のオバハンが遠距離から、もう片方のモヒカン野郎が近距離から攻撃を仕掛けてきた。
まあ当たるはずのない軌道で投げたから当然だよね。でもノーコンとか言われるのは普通にムカつくわ。
「!」
「とったぁ! やれぇっ!!」
近接戦を仕掛けてきたモヒカンに手を掴まれた直後、身体の動きが急激に鈍くなっていった。
ステータスのギフト欄を確認すると、『活動鈍化』というギフトが見えた。
どうやら触れた対象の動きを鈍くする効果があるみたいね。
「串刺しになりな! 身体に風穴開けてやるよぉ!!」
オバハンが遠距離から槍状に固めた土を生成して、身動きが取れなくなった私に向けている。
それをそのままこっちに向けて射出する気みたいね。
風穴ねぇ。痛そうだから遠慮しとくわ。
代わりにアンタを風通しよくしてあげるわ。
「くたば――――がっ……!!?」
土の槍を射出する直前、オバハンの胴体に大穴が開き、口と腹から盛大に血を噴き出して倒れた。
「なっ!? なにが……ぐほぁっ!!」
私の手を掴んだまま固まってるモヒカンの顔面に、先ほど私が投げた鉄塊がめり込み、そのまま息絶えた。
なにが起こったのかは至極単純。投げたインゴットとこのモヒカンの身体を『磁力付与』で引き寄せただけ。
文字化けギフトで強化された磁力によって、急激に引き寄せられた鉄塊とモヒカンの直線上にいたオバハンの胴体に大穴を開けて、そのままモヒカンに着弾したというわけだ。
磁力付与による投擲術、名付けて鉄塊ブーメラン。なお今後使うかどうかは気分次第な模様。
「れ、レビ! ブルルっ!!」
「き、貴様、よくも……!!」
後ろで見ていた連中が、仲間を殺されたことに怒りが爆発寸前といった様子でこちらを睨みつけてくる。
ギフト持ちは残り8人、いや援軍を入れると9人か。はぁ、めんどくさ。
でも放っておいたら後々もっと面倒になりそうだし、ここで皆殺しにしとくか。
「次に死にたいヤツからかかってきなさい、クズども」
「……やれやれ、思ったよりずっと酷い仕事になりそうだねコレは」
「……あ、味見……」
リーダーっぽい『ガルス』とかいう銀髪キザ男が苦笑いしながら、しかし冷静にこちらを見据えて呟いているのが聞こえた。
他の連中がカッカしてる中で、コイツだけ余裕綽々なのが不気味だ。
……そして隣でなんか不穏な呟きを漏らしてる陰気な男はさらに不気味だ、てかキモい。
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「パイシーズの監督官は?」
「監督官室に軟禁されているようです。ロックの解除は既に完了」
「そうか、お前たちは接種が終わった住民たちを収容している施設へ急げ。シャドウの情報によると、まだ洗脳処置はされていないはずだ」
「隊長はどうするんですか?」
「監督官を保護し、安全な場所まで案内する。それが済んだら合流するから、それまではボルドに従い作戦を続行せよ」
「了解」
「……パイシーズの監督官は、気付いているのか? ……あの子供の、正体を」
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