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衝突直前の秩序と秩序、そして……

 新規の評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。

 お読みくださっている方々に感謝します。


 今回始めは、ギフト・ソルジャーNo.1視点です。



 『早急にNo.67-Jを確保せよ。捕獲する際に多少の外傷は許容するが、生け捕りが絶対条件である』




 以上が、アクエリアスの『監督官』から下された命令だ。

 これまでも研究対象あるいは戦力増強の手段として、脱走したNo.67-Jを捕獲する方針でいた。

 しかし、監督官からの勅命が改めて出された際に、その重要度がこれまでよりも遥かに高まった。



「たかだか小娘一人にギフト・ソルジャー全員で対応しろって、どう考えても過剰戦力だろ……」


「バカ、万が一スコーピオスとやり合うことになったりしたら、これでも足りないくらいだ。」



 現在ギフト・ソルジャーの総員数は19名。

 二名ほど不在で、新たに一名No.21として加入した元三等員を加えた結果だ。


 不在のNo.4とNo.77は現在『パイシーズ』を支配している『スコーピオス』に囚われている可能性が高い。

 そして、その囚人の中にNo.67-Jもいることだろう。


 我々の任務は、迅速にスコーピオスに囚われているこの三名を確保することだ。

 そのためにパイシーズへ向かっている道中で、明日には到着することだろう。

 俺の『空間転移』のギフトを使えば、さほど難しくもなくパイシーズの内部へ侵入できるだろう。



「というか、ツヴォルフ元一等員はどうするんだ?」


「指示が出てないから、放置でいいんじゃないか」


「まあ、あいつは半端にギフトに目覚めただけの雑魚だしな。階級はそこそこ高いが、重要度はさほどでもないんだろう」


「そのほうが楽に済んで、こっちとしちゃありがたいがな、はははっ」



 同僚たちが嘲笑を交えた談笑をしているのが聞こえる。

 当初はついでにツヴォルフ元一等員も捕えて裁きを下す、という話だったが、今回はツヴォルフに対してはなにも告げられなかった。

 単にツヴォルフの存在を忘れているのか、それともそんなものにかまう余地がないほどNo.67-Jの捕獲が重要な意味を持っているのか。






 ……考えていても仕方がない。

 俺がすることは、いつもと変わらない。

 ただ上層部の指示に従い、するべきことを達成するだけだ。


 ただ、自分のするべきことを……。





『ちがう、それは、アンタの、やりたいこと、じゃない……!』




 ……。


 うるさい。


 俺の存在理由は、このコミュニティに利益をもたらすために働くことだ。

 それ以外の生きかたなどない。

 それ以外の生きかたなど、知らない。


 全てが管理されている生きかたは全てが正しい。

 摂取する食事の量も内容も睡眠時間も労働の内容も時間も余剰の時間も、全て全てすべて。

 誤りなど、何一つない。




『わた、し、……私は、自分の生きたいように生きようと思ってる。美味しいモノを食べたいし、睡眠時間もいっぱいほしいし、毎日、誰の命令を聞くでもなく、生きたい』




 うるさい。


 うるさい、うるさい。



 ルールに従えない異常者は、正されるべきである。

 脱走など以ての外。早急に確保し、上層部の指示に従わせるべきだ。

 この施設にいるものは、この施設のルールに従うべきであり、間違っているのは奴らのほうだ。





『だから! それこそ、アイツらが勝手に決めたルールだろ! 私も! アンタも! あのクソどもの道具なんかじゃないでしょうがっ!!』





 うるさい。


 うるさい、うるさい、うるさい……!!






「しっかし、前回No.1まで捕獲に駆り出していたってのに失敗するかね普通」


「なあNo.1、そんなにあの小娘は強かったのか? お前がしくじるなんて、そうそうあることじゃないだろうに――――」





「うるさいっ!!!」




「ひっ……!?」





 頭の中で幾度も響く声に耐えきれずに、意味もなく喚き叫んでしまった。

 周りにいる同僚たちが、目を丸くしてこちらを見ている。



「あ……」


「な、No.1……?」


「……ああ、なんの、話だっただろうか」


「い、いや、た、大したことじゃ……な、なにか気に障るような言いかたをしたのなら、悪かった、許してくれ……!」



 どうやら先ほどまで俺に話しかけていたらしいNo.3が、怯えた様子で俺を見ている。



「……違う、お前に言ったわけでは……」


「じゃ、じゃあ、誰に……?」



 ……言えるわけがない。

 あの任務に失敗した日以来、頭の中でNo.67-Jの声が常に聞こえてくるなどと。



「……すまない。少々疲れているようなので、今日は先に休ませてもらう」


「あ、ああ……?」


「……どうしたんだ、あいつ?」


「さあ……?」



 言えるわけがない。

 言えるわけがない。


 ……なぜ、言えない。


 これは明らかな異常だ。早急に精神鑑定を受けて、正すべき精神不良である。



 なのに、なぜ、俺はそれを隠そうとしているんだ。






『お前、実はアイツの胸に顔を押し付けられて以来、ホの字なんじゃねぇのか?』






 先ほどまでとは違った低い男性の、ツヴォルフ元一等員の声まで聞こえてきた。

 思わず壁を殴りつけるが、苛立ちが収まらない。


 ……うるさいと、言っているだろうが……!!










 ~~~~~











「監督官、ゴリアテ、イガリマ、デイダラ、そして遊撃隊員3名がパイシーズ近辺に到着したとの連絡がありました」


「よし、ひとまず道中は無事に進むことができたみたいだね。精鋭の部隊三つに加えて彼女たちがいるなら心配いらなかっただろうけど、不測の事態というものは往々として起きるものだからねぇ」


「……しかし、今回の戦争は本当に必要なことなのでしょうか。こちらから攻める攻城戦よりも、守りに徹する防衛戦のほうが安定して戦えると思うのですが」


「本来ならね。スコーピオスたちがギフト持ちの軍隊を率いてきたとしても、そうそう簡単にこの『アリエス』を攻め落とせるとは思えない。無難な選択がどちらか、と言われれば、君の案のほうなんだろうけどね」


「ならば、なぜ?」


「……『彼女』の姿を見た時に、背筋が凍り付く思いだったよ。いや、我ながらよく平静を装うことができたと自分を褒めてやりたいね、はははっ」


「は……?」


「アレは、放置できないよ。強さやギフトがどうとかそういう問題じゃないんだ。でもまともにやり合おうとしても、おそらく無理だね。どれだけの被害が出るか分かったもんじゃない」


「あの……」


「だからこそ、スコーピオスを利用するんだ。『蛇』を捕らえるには、搦め手を使わなければね。……エリィウェルは、彼女の正体に気が付いているんだろうか。いや、おそらく知らないだろう。『監督官』が、アレについて誰かに話すとは考えにくいし」


「か、監督官、先ほどからなにを……?」


「おっと、ついつい考え込んでしまったね、すまない。今聞いたことは全部忘れてくれ。でないと、君の身の安全を保障できなくなる」


「えっ……!?」


「早急にここ数分間の記憶消去処理を受けるように。……分かったかい?」


「ひっ、は、はいっ」





「待ち遠しいねぇ、『蛇』たちへの対抗手段を確保できるのが。……あと、例のサツマイモとかいう芋が生産できるようになるのもね」












 ~~~~~














「ルールル、ルルル、ルールル、ルルル、ルールールールールールルー♪」



 どこかで聞いた歌を、ハミングで口遊みながら荒野を歩く。

 意味は無いけど、気分は上がる。



「ラー、ラーラーラー♪」



 大分食べた、随分食べた。

 この数年で食べられるだけ食べたけど、最近はステータスに大きな変化がない。そろそろ頭打ちなんだろう。

 姉様たちも、多分似たようなものなんだろうね。


 姉様たちは、どんな味に仕上がっているんだろう。

 想像しただけで、今から涎が出てきそうだ。



「えへ、えへへ……ん? 良い匂いがする……」



 にやけ面のまま忘我の境地に達しそうになったところで、食欲をそそる匂いに気付いた。

 強い匂い。いや、匂い自体は微かなんだけれど、その匂いの元が強い。

 これは、久しぶりにごちそうにありつけるかもしれない。


 よくよく嗅いでみると、大勢のヒトの匂いを感じる。

 ……近くにコミュニティがあるのかな?



 んー、これまで異獣ばっかり食べてきたけど、たまにはギフト持ちのヒトを試してみるのも悪くないかな。

 いい具合に熟成してるのがいるといいなぁ。

 少なくとも、この『良い匂い』には期待できそうだ。



「姉様のうちの一人かもしれないし、もしもそうなら挨拶がてらごちそうになろうかなぁ」



 んふふ、どんな味なんだろう。

 どんな顔を見せてくれるんだろう。

 どんなギフトを、持っているんだろう。 

 楽しみで仕方がない。






『ガガガヴォォォォオオオオオッッ!!』





「うるさっ。なにコイツ」




 上機嫌で匂いに向かって歩いていたら、後ろのほうから喧しい鳴き声を上げながらこっちに突き進んでくるデカブツの姿が。

 デッカい牛、確か『バッファロー』とかいう動物によく似た異獣みたいだ。


 アナライズで見てみると、膂力が2500くらいで特殊能力は2000ちょっと。

 速度強化のギフトでさらに速度を上げて、その質量をブチ当てて攻撃する脳筋タイプっぽい。


 私に狙いを定めて、轢き殺すつもりみたいだ。




『ゴロブァァァアアアッ!! ……ガッ、アッ……?』




 こちらに向かって走っている途中で、鳴き声が止んだ。

 なにが起きたのかも分からない間抜け面を晒している。


 その身体の下半分が、とうに無くなっていることにも気付かずに。

 多分、自分が今死んだことにも気付かなかったんだろうね。バカだね。バカバカバーカ。




「クッチャ、クッチャ、あー、やっぱ今更こんなザコ食べたところで、大して変化ないか」




 これでも異獣の中じゃそこそこ強いほうなんだろうけど、今の私にとってはエサとしてすら心許ない。

 ……やっぱり『摂食』するなら、もう同類くらいでしか満足できないみたいだ。




「はやく、はやく、会いたいなあ、愛しのお姉(ごちそう)様。ルルルルー♪」




 首の後ろに彫られている蛇を撫でながら、再びごちそうに向かって歩き始めた。

 ああ、お腹が空いたなぁ。



 お読みいただきありがとうございます。


 ※注 作中の曲は適当なハミングです。適当です。お好きなメロディを当てて脳内再生しましょう。

 『あの曲じゃねーか』とか断じて言わないように。思っても心の中に留めておきましょう(;´Д`)

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