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喰おうとしたら食われた、許さない

 新規の評価、ブックマークありがとうございます。

 お読みくださっている方々に感謝します。


 お待たせいたしました、細々と更新再会します。

 毎日更新は無理ですが、いつも通りの不定期更新に戻ります。



「やれやれ、せっかく身体拭いてスッキリしたところだったのに。無駄に汗かいちゃったからまた身体拭きなおさないと」


「いや、全然汗かいてねぇだろお前。大して汚れてもねぇなら無駄に水を消費するのはやめとけって」


「むー」



 だってなんかベタベタするんだもん。目に見えないくらい薄い汗がジットリ張り付いてるみたいで気持ち悪いのよ。

 でも生活用水が貴重なのも事実だし、ここは我慢しますか。

 はぁ……シャワーを浴び放題だったパイシーズでの日々が懐かしいわー。


 あの快適な日々を取り戻すためにも、五日後の戦争は気合を入れて臨まないとね。

 そして所長にも『なに勝手に自分たちを犠牲にして私たちを逃がそうとしてんだ、ありがとう』って言ってやらなきゃ。……我ながらなんてちぐはぐな文句だ。

 決してシャワーを取り戻すのがメインじゃない。所長たちの救出が主な理由だ。ホントダヨ。



 晩御飯は例によって自炊。

 ちなみに食料も自分たちの分は自分たちで用意しなければならない。

 でなけりゃ調味料やらなんやらのために有り金全部使うような愚行は……ゴメンナサイ多分食料を支給されてたとしてもお金使い切ってたわ。



「済まないな、いくらコミュニティの軍といってもそれほど食料に余裕があるわけではないのだ。今回の遠征も、道中で異獣を仕留めてそれを食肉として確保することを見越した分しか持ってきていない」


「お前らの分なんざ用意してねぇ。自分たちの飯事情くらい自分たちでなんとかしろってこった」



 申し訳なさそうな顔をしている隊長の隣で、ボルドとかいう眼帯ハゲがイヤミったらしく言ってくる。

 いちいち突っかかってこないと死ぬ病気にでもかかってんのかこのハゲは。



「まあ、鹿一頭分もあれば私たちの分は全然大丈夫だけどね。元々ある程度用意はしていたし」


「渡した金を全部使いきるのをある程度とは言わねぇよバカ」



 横でツヴォルフがなんか言ってるけど無視。

 そのおかげでより素晴らしい食生活ができるんだから文句言うな。


 この筋肉ダルマたちも一応一緒に戦う仲間なんだし、ちょっとくらい料理を分けてやることもやぶさかじゃないと思ってたのに、あの眼帯ハゲのせいでその気が失せた。

 もう欲しいって言っても分けてやらないもんね。ばーかばーか。




 コトコトと鍋をかき混ぜながら温めていると、リベルタが鍋を覗き込んできた。

 もうちょっとでできるから我慢しなさい。



「今日の晩御飯はなに?」


「クリームシチューとパンよ」


「クリーム、シチュー? その白いスープのこと?」


「ええ。ちょっと味見してみる?」


「うん。……なんだかドロドロしたスープだね」


「そういう料理なのよ。熱いから気をつけなさい」



 お椀に少しだけシチューを盛って渡すと、すぐに口をつけた。

 そして反射的に口を離しおった。……だから熱いっつってんでしょーが。



「……熱い……」


「大丈夫?」


「……でも、初めて食べる味で美味しい」


「バターとミルクが使ってあるからね。他じゃこんなの食べられないでしょうよ。……あのラーメン屋、こんなもの本当にどこから仕入れてきてるのかしら」



 この時代、乳製品なんかそうそう手に入るようなもんじゃない。

 牛やヤギ型の異獣でも飼育すれば可能かもしれないけれど、ここまで品質の良いものを生産できる場所なんて本当にあるんだろうか。

 No.1たちから奪い取った謎バッグに物品保存機能があってよかった。でなけりゃすぐに腐っちゃうところだったわ。


 だから、乳製品を使ったホワイトソースの作りかたなんかも、知っている人はもうほとんどいないでしょうね。

 こういったものを当たり前に食べられた時代の人たちがまだ生きていたのなら、話は別だったのかもしれないけれど。




 合掌してから三人でシチューを啜ると、ツヴォルフが目を丸くして口を押さえたのが見えた。

 熱かったから悶えているってわけじゃなくて、この濃厚なシチューの美味しさに驚いているようだ。ふふん、ドヤァ。



「うっま……! 見た目はまるで水に小麦粉でもぶちまけたようなドロドロしたスープなのに、なんでこんな美味いんだ……!?」


「実際小麦粉も入ってるわよ。熱して溶かしたバターに小麦粉を混ぜてミルクを加えたソースを、鳥型異獣の肉と野菜が入ってるスープに混ぜてあるの」


「また随分と凝った調理法だな、こんなうめぇもん初めて食ったんだが」


「ちなみに、バター100gとミルク1000mlでそれぞれ銀貨一枚ずつしたわ」


「……え? もしかして、オレたち結構な高級料理を食ってるんじゃねぇか……?」


「ぶっちゃけ、この鍋一杯でアリエスの日雇い仕事一日分くらいの値段になります」


「マジかよ!? たっけぇなオイ!」


「……高い……」



 銅貨一枚でパンが一つか二つ買える。

 で、銀貨は銅貨の十倍の価値がある。

 このシチューにバターとミルクがそれぞれ半分ずつくらい使ってるから、この鍋一杯でパンニ十個相当くらいの値段するということだ。

 どう考えても高級料理です、本当にありがとうございました。



「初日から気が滅入らないように奮発したのよ。明日からはもう少し質素になるからそこは我慢しなさいよ」


「当たり前だ。こんな高級品毎日食ってたら破産しちまうっての」


「……でも、たまにこういった他じゃ食べられないような料理を食べるのも、悪くないと思う」


「そうね。携行食料と水だけでも生きていけなくはないけど、たまにはこうやって贅沢しないと身体より先に心がまいっちゃうからね」


「ま、確かにな。栄養価もよさそうだし、案外無駄な買い物ってわけでもなかったのかもしれねぇな」


「でしょでしょ、すっごく重要な買い物だったでしょ」


「だが次からはちったあ懐に残しとけ。でなけりゃ宿代も払えねぇだろうが」


「うぐっ……悪かったわよ」



 にしても、ホントに美味しいわね。

 鳥肉も今回はしっかり血抜きしたものを使ってるから苦みや臭みもないし、ジューシーでいくらでも食べられそうだ。

 でも楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもので、気が付いたらスプーン一杯分も残らず完食してしまっていた。

 ……『幼い子はパンを食べたらパンが無くなったことに悲しんで泣いてしまうことがある』って話を聞いたことがあるけど、今まさにそんな心境ね。泣きそう。ごちそうさまでした。


 お腹も満たされたし、今日は早く寝よう。

 うぐぐ、なんかお尻の筋肉が痛い。

 悪路に揺られながらずっと座りっぱなしだったからなぁ……。









 ~~~~~










 うふふ、あはは。


 私、空を飛んでるわ。超気持ちいい。


 ……見下ろす景色はどこまでいっても荒野ばかりで、絶景とは言えないけれど。



 その荒野に、なにやら目に付く影がふたつ。

 

 肉だ、肉が二本の足で歩いている。


 丁度いい、お腹空いてるし降りて食べよう。


 こちらに気付いたのか、肉たちがものすごいスピードで逃げているけれど、私はもっと速い。



 炎を吐きながら逃げる先を狭めつつ追い詰めて、炎に気をとられている肉に向かって体当たりした。


 ゴロゴロと転がっていく肉にトドメを刺すべく、クチバシを突き出して肉を串刺しに――――




 ……クチバシ? え、なにこれ。私の口に、なんでこんなものが……?



 唖然としながら、肉をクチバシで突き刺そうとしたけれど、硬い。


 しかもこの肉、私の足を掴んできた。


 あれ、あれ……!?


 なんで、私の足がこんな細く、これじゃあまるで鳥の足みたいじゃないか。


 違う、まるでじゃない。私は、鳥になっている。



 肉が足を掴んで、私の身体を何度も何度も地面に叩きつける。


 その挙句、私の喉に喰らい付いてきて食い千切りやがった。



 いたいいたいいたい、やめて、やめて、死んじゃう……!


 ゆ、許さない。殺してやる、焼き殺してやるぞ、肉如きがっ!!



 肉に向かって炎を思いっきり吐き出して焼き殺そうとした。


 それに合わせて、肉が口を開けたかと思ったら、私よりも大きな炎を吐き出してきた。





 炎に包まれながら、全身が焼け焦げて死んでいく感覚に包まれていく中、最後に見えたのは前髪の一部が黒い、長い銀髪を靡かせている少女(わたし)の姿だった。











 ~~~~~







「……っ!!」



 酷い悪夢を見て、思わず跳び起きた。 

 全身から汗が噴き出ている。酷い動悸が内側から私の身体を叩いている。息が苦しい。

 まるで全力疾走でもした直後のように、とてつもない負荷が襲いかかっていた。



「はぁ、はぁ、はぁっ……! うっ……!」



 思わずえずきそうになるのを、どうにかこらえた。

 口を押さえて、息を整える。


 毛無しゴリラの夢の次は、炎を吐く鳥の夢か。

 ……『摂食吸収』の影響かな。



 何度も異獣の肉を食べて分かったことだけど、摂食吸収のギフトは能力値やギフトの一部を吸収するだけじゃなくて、取り込んだ対象の記憶や戦闘経験なんかもほんの少し吸収できるらしい。

 特に『腕の人』の影響が目立つけれど、毛無しゴリラや炎を吐く鳥の経験値もしっかりと入っている。


 それが時折こうして夢という形で出てきて、私を苛んでいるようだ。

 ……未練がましいわね。まあ、気持ちは分からなくはないけれど。



「ロナ、大丈夫……?」



 っ! 

 ……声がしたほうを向くと、リベルタが心配そうな顔で私を見つめているのが見えた。



「……ごめん、起こしちゃった?」


「ううん、たまたま目が覚めたらロナが苦しそうにしていたから」


「ちょっと夢見が悪かっただけよ、気にしないで」


「それならいいけど、でも、体調が悪かったりしたら、すぐに言ってね」


「……分かってるわよ」



 ……はぁ。

 ちょっと怖い夢見ただけでこの有様とか、ツヴォルフが言うようにまるで小さな子供だ。我ながら情けない。

 でもあそこまでリアルな夢を見たら、やっぱ精神的にくるものがあるわね‥…。



「ロナ、よかったら手を繋いで寝る? そうすると安心して眠れるって、所長が言ってた」


「……結構よ」



 リベルタにまで子供扱いされる始末。もうやだ。

 あと、所長の言うことはショタコン疑惑のせいでもうなにを言っても怪しい意味にしか聞こえないから、あてにするのはやめときなさい。


 お読みいただきありがとうございます。

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