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マッスル幼女

 新規のブックマークありがとうございます。

 お読みくださっている方々に感謝します。


 今回始めはパイシーズに置いてけぼりにされたNo.77視点です。


「オラオラァッ! さっさと運べ愚図どもがァ!」


「ノルマも達成できないヤツに食わせるエサはないぞ! キビキビ動け! 働け!」



 大きな荷物を運ぶ列に、鞭係の怒号が飛び交っている。

 地面に鞭を打つ音が絶え間なく聞こえてきて、皆それがいつ自分に振るわれるか怯えながら運んでいる。


 荷を運んでいるのは、元々このコミュニティに住んでいた人々。

 極端に痩せている人や病人なんかが少ないところを見ると、私の住んでいたコミュニティと比べて比較的平和に暮らしていたんだと思う。

 それが、今ではこの有様。『スコーピオス』と呼ばれるコミュニティの人たちに、奴隷のように、馬車馬の如く働かされている。


 でも、それに対してあまり憐れみを感じることができない自分がいる。

 だって、どれだけ辛くて大変でも働いた分だけちゃんとご飯が出るんだから。



「うぅ……」


「おい、なにサボってやがる! さっさと立てガキが!」




 私よりも小さい男の子が荷の重さに耐えきれず、一旦地面に置いて休憩しようとしたところを怒鳴る声が聞こえた。

 怒りにまかせて子供に向かって振るった鞭を、掴んで止めた。



「……やめてください」


「ああん? ……なんだ、ギフト持ちの嬢ちゃんじゃねぇか。困るなぁ、こちとら効率よく作業を進めるためにやってるだけなんだぜぇ?」


「こんな小さな子に鞭なんて当てたら、痛みで死んでしまいかねません」


「死んだら死んだで、使役異獣のエサにすりゃいいだろ。なんも問題ねぇから黙って見てなよ。せっかく特等民として選ばれたんだから、楽してりゃいいんだよぉ」



 スコーピオスの支配下におかれたコミュニティの奴隷は、能力や年齢に分けられていくつかの階級に分けられている。

 荷運びや雑用なんかの重労働を強いられる下級民、管理業務や兵士としての役割を与えられる上等民、そして強力で有用なギフトを扱える特等民。


 その中でも特等民はギフトに応じた役割さえ果たしていれば、スコーピオスの人たちと同等かそれ以上の待遇で生活することを許されている。

 私は、『治癒』と『念動力』のギフトを高く評価されて、特等民に選ばれた。

 そのおかげで、今では施設にいた時よりもずっと恵まれた生活をしている。

 ……こういった光景が目に入ることさえなければ、ずっとこんな日々が続けばいいと思えてくる。



「あんまり余計な手出しをすると、人間兵器にされちまうぞぉ。それが嫌ならさっさと下がってなぁ」


「あの涙目髭男爵みてぇにゃなりたくねぇだろぉ?」


「……っ」


「ん? なんだそのヒゲなんとかってのは?」


「いや、なんか顔中にラクガキされてるギフト持ちの野郎がいてよぉ、そいつは態度が悪すぎて今は人間兵器にされてるらしい。……ブフッ、あの顔は見ものだったなぁケケケ」



 強力なギフトを持っていても、スコーピオスの意に沿わない行動や思想を持っている人や、ステータスに異常な項目がある人は実験体や兵器として扱われることもある。

 特殊な装置で意志を奪われ、ただ命令に従うだけの生きた機械として運用される、ある意味下級民の人たちよりもひどい扱いだ。

 No.4さんも捕まった時に激しく抵抗しすぎたせいで、今は……。

 というか、お姉さんがラクガキしたせいであれ以来ずっとあの顔のままなんだけど。誰か消してあげて……。



 ……いや、それよりも、今はこの子のことを考えないと。

 このままじゃ、いずれ本当に鞭で打たれて殺されてしまうかもしれない。


 たとえ偽善だろうとも、見捨てたくない。

 今の私にできることを、考えないと。



「すみません、この子のノルマはあとどれくらいですか?」


「んん? あー、今日中に鉄のインゴットをあと100kgばかし加工場へ運ぶ予定だが」


「私が手伝います。ギフトを使わなければマジカを消費することもなく、私の役割に支障は出ないので、問題は無いはずです」


「あぁん? そりゃお前さんの勝手だが……」


「はっ、お優しいことで。じゃあこいつを運んでもらおうか!」



 鞭係の人が機械のボタンを押すと、ズシン と重々しい音を立てながら、加工機械から鉄の塊がいくつか排出された。

 どう見ても小さな子供が持てるような荷物じゃない。多分、一つだけでも50kgは下らない。



「あと2時間以内にこいつを二つばかし運べば、その坊主のノルマは達成だぜ? まああんまりチンタラやってたもんだから、多分間に合わねぇだろうけどなぁ」


「車輪付きの台車でもありゃ話は別だろうが、そんなもん他で全部使っちまってる。せいぜい手で持って頑張れやハハハ!」



 ……ここから加工場へは、軽く2~3kmはある。

 普通に考えたら、こんな荷物を持ちながら行けるような距離じゃない。



「ね、ねえちゃん、ぼく、自分で頑張るから、ムリしないでいいよ……」



 それでも、この子は私を気遣って迷惑をかけないように気丈に振る舞っている。

 ……強いなぁ。私なんかよりも、ずっと強い。





 それに比べて私は、簡単だと分かりきっていることを手伝うことしかできないんだから。情けなくなってくる。



「よいしょ。この二つを持っていけばいいんですよね?」


「……え?」


「は……?」



 片手で鉄のインゴット二つを抱えながら問いかけると、鞭係の人たちが口を開けて呆けたように声を漏らしている。

 隣にいる男の子まで、目を見開いて驚いているのが見える。 



「あの、加工場へ行けばいいんですよね?」


「お、おう……?」


「あの鉄塊を、片手で軽々と持ち上げやがった……!?」


「じゃあ行きましょうか」


「ね、ねえちゃん、大丈夫なの……!?」


「これくらい平気です。この倍くらいは楽に持てますよ」



 嘘じゃない。多分、その気になれば3倍くらいの重さでも持ち運べると思う。

 今の私にとっては100kg近い鉄塊も、ちょっと重くて嵩張る箱でしかない。



 最終試験場でギフトが覚醒したあの日以来、私には大きな変化があった。

 ある意味ギフトよりも大きな変化が、ステータスに表示されていた。


 多分、特等民に選ばれた理由として、下手に私を力ずくで屈服させようとすると大きな被害が出る可能性があるっていうことも含まれているんだと思う。

 覚醒した直後はここまでの膂力は無かったけれど、ちゃんとした食事を摂って身体ができてきた影響か、この細身からは考えられないような怪力を発揮できるようになってしまった。






 No.77


 ランク5


 状態:正常


 【スペック】

 H(ヘルス)  :423/423

 M(マジカ)  :748/748

 S(スタミナ) :344/344


 PHY(膂力)  :1312

 SPE(特殊能力):645

 FIT(適合率) :46%


 【ギフト】

 治癒Lv6 念動力Lv3








 ……ここのところ、施設にいた時よりも食事の質がいいせいもあってか、日に日に力が増している。

 こんな怪物みたいな腕力になっちゃって、お姉さんに引かれないか心配だなあ……。



「すごい力持ちなんだな……まるでロナねえちゃんみたいだ」


「……ロナねえちゃん? 誰のことですか?」



 あれ、私以外にも力持ちの女の人がいるのかな?

 どんな人なんだろう。……筋肉質な女の人のイメージが浮かんできて、ちょっと怖いなぁ……。











 ~~~~~別に筋肉質じゃないけど怪力のお姉さん視点~~~~~










「くしゅんっ……あ゛ー……」



 いつもの宿屋でダラダラと寝そべっていると、不意にくしゃみが出た。

 誰かが変な噂でもしてるのかしら。



「風邪か?」


「いや、ちょっとくしゃみが出ただけよ。それより、まだ返事はこないの?」


「そろそろくるころのはずだがな。……あんまりモタモタしてると、シャドウとの約束を反故にしちまうってのに」



 ツヴォルフが苛ついた様子で煙草をふかしている。煙たいからヤメロ。

 交渉が終わってからずっとこの調子だ。いつも飄々としながら冷静なコイツらしくない。



「そのシャドウってのと、どんな約束したのよ」


「あー……パイシーズの現状と、例の実験データなんかをまとめた資料を渡すから、早急にパイシーズを解放してほしいってよ。正確に言うと、あと十日以内」


「十日以内? 私たち、ここまでくるのに徒歩でそれくらいかかってるんだけど間に合うの?」


「パイシーズ奪還を決行するとなれば、乗り物に乗って行けるだろうが、それでも五日はかかるだろうな。間に合うかどうかは返事次第ってわけだ」


「ちなみに十日を過ぎるとどうなるの?」


「……例の注射を、パイシーズの住民たちに接種するのを開始するそうだ」


「げっ」



 まずい。あんなものを接種されれば住民の2~3割は発狂するか死ぬ。

 生き残った人たちも、ギフトを使う人間兵器かなにかに運用される可能性が高い。

 その人間兵器たちが矛を向けるのはアリエス(このコミュニティ)だろう。



「あと、約束を破った罰として最悪オレがシャドウになんらかのペナルティを与えられるかもしれねぇ」


「ペナルティ?」


「たとえば、実験データを持ち出したのがオレだってことがここの監督官にバレたりしたら、戦犯として吊るし上げられるかもしれねぇ。あるいはもっとシンプルにオレを暗殺することだって考えられる」


「あの所長の部下が、そんなことをするかしら」


「所長はともかく、シャドウはやりかねねぇ。所長も把握してねぇ汚れ仕事をやってることだって十分考えられるだろ」



 どこの組織も一枚岩とは限らないってことねー。

 まあそのほうが色々と柔軟な対応ができるでしょうけれどね。





「……誰か、くる」



 会話が途切れたところで、リベルタが口を開いた。

 その直後、部屋の外からドタドタと複数の人間の足音が聞こえてきた。

 ……なんかデジャヴが。


 バタンッ! と勢いよく扉が開かれると、外からどっかで見たような筋肉ダルマたちが部屋に入ってきた。

 ……相変わらず暑苦しいわー。



「……なにか御用で?」


「監督官がお呼びだ。全員監督署まで同行願いたい」



 さーて、どんな答えが待っているのやら。

 ……苦々しい顔の筋肉ダルマたちの顔を見る限りじゃ、順調に話が進んでいるみたいだけど。


 お読みいただきありがとうございます。

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