表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/87

戦いではなく、ただの蹂躙 後編

新規の評価、ブックマークありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。



『グォォォッ!! ……ッ!?』


「遅い遅い、やっぱ亀なだけあって遅いわー。ほらほらこっちだぞー」



 黒髪の少女と、それを遥かに上回るサイズの大亀が檻の中で争って、いや戯れている。

 大亀は少女を押し潰そうとその巨体で突進をしているが、まるで少女の、ロナの動きを捉えられない。

 亀が空振りするたびに、バカにするように手を叩きながら煽っている。



『な、なにが起きているのでしょうか! 少女の髪が銀から黒へと変わったかと思いきや突如として折れた手足が治り、さらに驚異的な動きで異獣を翻弄し始めましたぁ!』


「う、動きが全然見えない……!?」


「あのとてつもなく速いはずの大亀が、追いついてねぇ……!」



 実況も観客も、唖然とした声を漏らしている。

 ついさっき来たばかりのオレも、目の前の光景をただただ眺めることしかできないでいる。

 というか、多分なにもする必要がない。



『グラァッ!!』


「おっと!」



 大亀が地面を叩きつけると、その衝撃でロナの身体が宙に舞い上がった。 

 まずい、空中じゃ亀の攻撃を避ける術がねぇ。あのままじゃモロに攻撃を喰らっちまう!



『グゥゥッ!!』


「へぇ、やるなぁ」


『ガッ……!?』


「でも、それでも遅いわ」



 空中で回避できない状態のロナに大亀が腕を振るって攻撃したが、当たらない。

 どういうわけか、空中にいるのに自由自在に横方向へ移動して、回避してやがる。

 なんだありゃ、いったいどうなってるんだ……?



『グ、ググゥゥゥウウゥッ……!!』


「だから遅いって。何度言わせる気?」


『グゥォォオオッ!!』



 焦れた大亀が、滅茶苦茶に手足を振り回してロナに殴りかかっているが、それも当たる気配が無い。

 大亀のステータスを確認すると、『速度強化』を使用しているようでただでさえ速い動きがさらに俊敏になっている。

 膂力が2000を超えているうえにギフトで強化されているコイツの動きに、ロナが追いつけるはずがない。

 にもかかわらず、それを余裕綽々でいなしている。涼しい顔で、掠ることすら許さず回避し続けている。


 ……髪の色が黒くなっているのと、なにか関係があるのか?

 なんらかの状態異常かと思ってロナのステータスを確認してみると、思わず呆然としてしまった。








 ロナ


 ランク■


 状態:■■(逶エ謗・謫堺ス)


 【スペック】

 H(ヘルス)  :501/501

 M(マジカ)  :412/521

 S(スタミナ) :319/475


 PHY(膂力)  :3421(逶エ謗・謫堺ス)

 SPE(特殊能力):3676(逶エ謗・謫堺ス)

 FIT(適合率) :■■■%


 【ギフト】

 摂食吸収Lv2 逶エ謗・謫堺スLv■ 膂力強化Lv3 火炎放射Lv2 磁力付与Lv2 索敵Lv1 速度強化Lv1 衝撃波Lv1








「ぶっ……!!?」



 


 なんだこりゃ、なんだぁ、こりゃあ!?

 状態表示が読めねぇ。明らかに例の文字化けギフトの影響を受けているのは分かるが、そこはまだいい。


 目に見える大きな変化として、膂力と特殊能力の数値が桁違いに上がってやがる。

 この大亀を、さらに凌ぐバケモノみてぇな数値。膂力強化もなにも使ってねぇのにこの値はいくらなんでもおかしいだろ……!?

 スタミナの減りがやたら早いみてぇだが、これとなにか関係があるのか? この文字化けギフトは、単に他のギフトの効果を強化するだけのものじゃねぇってことなのか。


 そして、些細な変化だが一番気になったのは、ヘルスの最大値が以前確認した時よりも減っている。

 ヘルスっていうのは、いわば生き物の生命力のことだ。

 怪我や病気で消耗すれば現在値が減っていくし、治れば最大値まで回復するものだ。

 だが、最大値そのものが減っているってのはどういうことだ。まさか、この圧倒的な力を使っている代償だってのか?


 ……だめだ、分からねぇ。

 分かっているのは、今のロナは普通じゃねぇ。

 これだけの力を振るうのには、必ずなんらかの反動あるいは代償があるはずだ。

 これ以上ヘルスは減ってねぇみてぇだが、他にどんな影響があるか分かったもんじゃねぇ。

 あまり長くこの状態が続くのはヤベェかもしれねぇな……。




『ゴォゥッ!!』


「おおっ?」



 大亀が地面に脚を着けると、地面が盛り上がっていく。

 ロナと大亀の間に道を造ったかのように、余計なスペースを無くして回避をできなくしたようだ。……器用なもんだなオイ。



『大亀が『地形操作』のギフトにより、即席のサーキットを造り上げましたぁ! 逃げ場がないこの状況で、少女はどうするのでしょうか!?』


「あーあー、余裕こいて避け続けたりするから大亀も本気になってしまったな。もう終わりだろう」


「アレを見るのも久しぶりだな。さぞ豪快に散らばることだろう」



 観客たちがなにかを察したように、各々呟いている。

 なにをしやがる気だ。逃げ場を封じたうえで突進でもする気か?




『ゴォォオオオオオオルルルルルルルルルッッ!!!』


「うわ、なんだそりゃ?」



 な、なんだとぉ!?

 亀が手足を甲羅の中に引っ込めたかと思ったら、猛烈な勢いで回転し始めた。

 よく見ると、甲羅の側面からエンジンのバックファイアのようになにかが噴き出している。『衝撃波』のギフトか?

 強烈な回転エネルギーを帯びたまま、ロナに向かって突進した。


 まずい、あの状態じゃ姿勢を低くしようが関係なくすり潰されちまう。

 避けるのも無理、防ぐのも無理。どうする気だ……!?





『ゴォォオオオオアアアアアアアッッ!!!』




 これでトドメだ、とでも言っているかのように咆哮を上げる大亀。

 誰もが一秒後にはロナがミンチになって撒き散らされる光景を予想しているだろう。

 ロナの身体に、猛回転している亀の巨体が触れる瞬間に――――







「うるさい」




『ァァァァァア   ガビャァアガバッッ!!!』 






 ロナが殴りつけると、それだけで甲羅が粉々に砕けたのが見えた。

 破片が撒き散らされて、中から甲羅を失った亀の本体が出てきた。



『ゴォ、カハッ、カッ……ァッ……』


「はいお疲れ。死ね」



 苦しみ悶えている亀の首にチョップを入れると、それだけで輪切りになってしまった。

 首の断面から、夥しい量の血が噴き出してくる。


 圧倒的に不利だと思われたロナと大亀の勝負は、ロナの圧勝という結果であっけなく終わった。







『え……あ……ああ……!?』


「な、なんだって……?」


「ぼ、ボクの、ルタメ・スタートが、砕けて、死んだ……?」



 目の前の光景を受け入れられないのか、観客全員が叫ぶでもなく喚くでもなく、ただ呻き声に似た呟きを漏らしながら呆然としている。

 ……さて、こっからどうするかね。



「おーい、勝ったぞー。出してくださいよー」 


『……』


「あ、聞こえてない? じゃあいいや、自分で出るから」




 そう言いながら、檻を両手で握り力み始めた。

 おいおい、まさか力ずくで壊して出るつもりか?

 ここの檻、さっきのデカブツ亀が体当たりしても壊れなかったくらい頑丈なんだぞ。

 いくら強くなったからとはいえ、お前の細腕じゃ……



「よいしょっと」



 まるで引き戸でも開くかのように、あっさりこじ開けやがった!

 いやいや、そんな簡単に開くようなもんじゃねぇだろ!? マジでなんなんだよコイツ!?



『ば、ば、バケモノッ!! み、皆さま、避難! 避難をぉおおお!!!』


「ひ、ひぃいいい!!」


「逃げろぉお!! 殺されるぅぅうううっ!!!」




 ロナが檻から出てきたのを見て、阿鼻叫喚といった様子で観客たちが逃げ惑っている。

 さっきまでこんなガキ一人に命のやりとりなんかさせてた連中が、いざ自分の身が危ないとなると一目散に逃げやがって。



「お、お、お前、お前、なんなんだよぉぉ!! なんで、なんで死なないんだよぉぉ!? ボクの、ボクのルタメ・スタートを、どうしてくれるんだよぉぉ!!」


「よーよーうるさいわ。先にけしかけてきたのはそっちだろデブ」



 腰が抜けたのか、尻もちをつきながらロナに向かって悲鳴混じりに文句を言っているデブがいた。

 ……ひょっとしてアイツが今回の騒ぎの元凶か?



「許さないぃぃ! 許さないからなぁぁあ!! ボクを殴った挙句、なにもかも台無しにしやがっ―――」


「ばんっ」


「ひっ!?」



 文句を言っている最中、デブに向かってロナが指を差し、拳銃を撃つ真似をしながら擬音を口にした。

 すると、デブの足元の地面が砕けた。まるで本当に銃弾が着弾したかのように。



「ばん、ばんばんっ、ばんばんばんっ」


「うわぁ! ヒィィッ!? や、や、やめろぉおおっ!!!」



 気の抜けるような擬音を言うたびに、デブの周りに見えないなにかが着弾して地面を抉っていく。

 これがもしも人体に当たったりすれば、簡単に弾け飛ぶだろう。



「ねえ、怖い? 怖いよね? これから殺されるかと思うと、怖くてたまらないよね?」


「はぁー、はぁー、はぁぁっ……っ!!」



 息を荒らげながら、デブが唾を飲み込んだ。

 デブの額に指を突きつけながら、ロナが言葉を続ける。



「そんな怖い想いを、私はさっきまでずぅっとしてたんだよ? ねぇ、分かる? 今すぐ殺されるかもしれないってことが、どれだけ恐ろしいか分かる?」


「はっ、はっ、はふっ、はひっ、ひっ、ひっ、ひぃっ……!」


「よく分かってもらえたようでなにより。じゃあ、さようならだ。お前の罪を数えろ」


「えっ、ええっ、や、やめっ、やめ、ぇ、て、やめて、やめて、やめてぇえ……!!」



 こめかみに指を押し当てながら、ロナが大きく口を開いた。









「ばぁんっ!!」


「ぎゃあああああああっっ!!!!」





 ロナが叫んだ瞬間に、デブの頭が砕け散っ……らなかった。


 デブにはなんの損傷もなく、ただ粗相をしてズボンを濡らしながら白目を剥いて気を失ったようだ。

 ……あの施設でジヴィナにやったように、脅すだけ脅して殺さなかったようだ。



「なんてね。ビビって気絶してやんの、ばーかばーか。……あー眠いわー。寝よう。おやすみ」



 そう言うと、ロナも地面に倒れこんで寝てしまった。

 髪の色が黒から元の銀髪に戻っていく。それと同時にステータスもヘルス以外は正常の状態に戻っていった。


 ……いったい、なんだったんだ? なにからなにまで訳が分からん。

 今の力があれば、あるいはパイシーズを奪還できるかもしれねぇが、あまり期待はしないほうがよさそうだな……。

 とりあえず、ロナを背負って逃げよう。……宿に戻るのはヤバいかな。どうしようか。



お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ステータス異常・梶川。 おめでとう、主人公は概念になった!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ