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アナライズ

新規の評価、ブックマークありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。



 私には、仲間と言えるような人はいなかった。


 ……いや、ほんの少しの間だけ仲間だと認識していた人がいるにはいた。

 今はもう、どこにもいないけど。




 あれは、いつのことだったか。

 私と同じように、身寄りもなく飢えてひもじい人間が何人か集まって、食べ物を手に入れるためにある作戦を実行したことがあった。

 といっても子供の浅知恵程度の計画だったし、上手くいく可能性は低かった。


 いつも漁っているゴミ山の中から燃料タンクをかき集めて、わずかに残った爆発性の燃料をつぎ足していった。

 最終的に手持ちのボトル一本分くらいの量が集まり、作戦の準備が整った。


 作戦の内容は、まず食料を売っている店の近くでそのボトルの中身に火を点けて、爆発させる。

 人や建物に被害が及ばないように、慎重に場所を選んで。


 その爆発音に驚いた店主が様子を見に行っている間に、別動隊が食料を盗み出す手筈だった。

 自分たちのしでかしたこととはいえ、なんとも浅ましい作戦だったと思う。



 仲間が爆発を起こして、私ともう一人、名前も思い出せないけど同い年くらいの男の子が盗み出す役割だった。

 店主が出ていってから、手持ちのボロ袋に商品の食べ物を詰め込んで逃げようとした。


 店から逃げようとしたところで、『危ない』と男の子の声が聞こえた。

 身体を突き飛ばされて、なにをするんだと文句を言ってやろうとその子のほうを向くと、頭から血を流して倒れているのが見えた。

 その傍には、棍棒を持った大人の男がいた。


 こいつが、私を殴ろうとしたのを庇ったから、この男の子は―――――



「このふてぇガキが! 楽に死ねると思うな!」



 怒りに歪んだ顔で、棍棒を振り回しながら怒鳴りつけてきた。

 それがあまりにも怖くて、怖くて怖くてこわくて、せっかく手に入れた食べ物すら放り出して逃げ出した。

 走って、はしって、逃げて、にげて、へとへとになりながらも、捕まらずに済んだ。


 ……あたりが暗くなったころに、一緒にいた男の子のことが気になって戻ってきてしまった。

 男の子は、まだ店の前で倒れていた。


 私が近寄って揺すってみても、起きない。

 身体が冷たい。まるで眠っているかのようだけど、息をしていない。



 もう起きないのだと理解した時に、恐怖からか申し訳なさからか、泣き出してしまった。

 わたしのせいでしなせてしまった。ごめんなさい、ごめんなさい。と、何度も謝りながら。


 嗚咽が収まったころに、そういえばボトルを爆発させる役割だった人たちはどうなったんだろうと思い、いつものゴミ山に立ち寄ってみた。

 作戦前に集合していた焚火にいるかもしれないと覗いてみた時に、自分の目と耳を疑った。



 あの店にあった食料を、笑い声を上げながら貪っている『仲間』の姿があったから。



「いやぁ、上手くいったな! あの店、用心棒が隠れてるもんだから陽動が一つじゃ足りなかったもんなぁ。前回はそれで失敗しちまったよ」


「爆発で店主をおびき寄せて、『囮役』に用心棒を追いかけさせてその隙に奪う。ここまで上手くいくとは思わなかったな」



 なに、それ。

 そんなはなし、きいてない。



「あのガキどもはよくやってくれたぜ。帰ってきたら褒美をくれてやらねぇとな」


「褒美っつーと、ソレか?」


「おう、コレよ!」



 『仲間』の男が『なにか』を構えて指を引くと、派手な音が響くのと同時に、その『なにか』の先にあったゴミが粉々になって飛び散った。

 拳銃と呼ばれる、火薬を使った飛び道具。

 ……あんなものまで盗み出していたなんて……!



「まあ、男のガキは死んじまったみてぇだし、もう一人のメスガキも捕まったか野垂れ死んでるだろ」


「ちぇー、せっかくいい玩具が手に入ったのによぉ。ああ、早く試し撃ちしてみてぇなぁ」



 それだけ聞いて、私はコソコソと隠れながら、また逃げ出した。



 ゆるせない。よくも、わたしたちを、だましたな。

 おまえたちのせいで、……わたしをまもって、あのひとはしんだんだぞ……!



 そう思っているのに、文句を言う勇気すら湧いてこなかった。

 ノコノコと姿を現せば、今度は私の頭があのゴミみたいに粉々になるだろうから。



 仲間なんか、私にはいない。

 仲間なんか、つくってはいけない。

 仲間なんか、死なせてしまうか、裏切られるだけの存在だから。

 そう、学んだ。







 ……特に懐かしくもない、昔の嫌な夢を見た。

 目覚めは最悪。そもそも目覚めが良かったことなんか一度もないけど、今朝は格別に悪い。

 周りの人たちも眠りから覚めだしたようで、薄く汚い寝具を畳んで起きる準備を進めている。



「……?」



 ボーっとしながら眺めていると、周りの人たちの頭の上に半透明の青い板のようなものが見えた。

 なに、あれ。なんであんなもの頭の上に乗せてるの?

 ……いや、頭の上に浮いてる? しかも、なにか書いてある?


 寝具を畳み終わって一息吐いている、No.51と手の甲に書かれた女の人の上にある板の文字を読んでみた。




No.51


ランク1


状態:空腹


【スペック】

H(ヘルス) :30/30

M(マジカ) :11/11

S(スタミナ):6/18


PHY(膂力)  :41

SPE(特殊能力):64

FIT(適合率) :3%


【ギフト】

炎弾Lv1





 ………。

 なんだ、これ?










~~~~~ツヴォルフ一等研究員視点~~~~~











 さて、そろそろ職員候補たちも『ギフト』と『アナライズ』が発現したころか。

 ギフトの適合率が実戦に耐えうるレベルの人間は、多くて2~3人程度だろうな。


 それ以外の人間は、最終試験という名の処刑場へ連れていかれる。

 ったく、こんな倫理もクソもないことを何度繰り返す気だ。

 数年前からなにも変わってねぇなこの施設は。



 「ツヴォルフ一等員、ステータスの確認選別準備が整いました」


 「分かった、このあたりのデータをまとめ終わったらすぐに向かう」



 ……この試験で、アイツは無能の烙印を押され最終試験へ進むことになる。

 ゴミ箱へ入れておいた携行食料は、同じ部屋で眠る時にでもNo.77に譲ったようだな。

 これでアイツとNo.77に少しは繋がりができたようで、順調に『視えた』未来に近付いているようだ。



 『アナライズ』とは異獣が使う能力の一つで、目視した生物のデータを可視化することができるというものだ。

 便宜上『ステータス』と呼ばれるそれは、その生物の強さを表す基準となっている。



 PHY(膂力)は身体能力の強さを。

 SPE(特殊能力)はギフトの出力を。

 FIT(適合率)はギフトの成長具合をそれぞれ表している。



 初期適合率が高ければギフトも最初から出力が高く、充分に実戦で運用可能。

 そんな人間はほんの一握りだがな。


 適合率が低くても一応ギフトが発現するにはするが、出力が低すぎて使いものにならない場合がほとんどだ。

 アイツも、そんな憐れな人間の一人に過ぎない。






 それがどうやったら あ ん な こ と になるのやら。






 ……人間の可能性ってこえーなオイ。

お読みいただきありがとうございます。

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[一言] バケモノの一部を喰って化け物に
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