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超特急異獣刑

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


 さて、なにはともあれまずはお金を安定して稼げるようにならなきゃどうにもならない。

 仕事の斡旋所的な施設もあるらしいし、そこで『外』で狩ってきた異獣を売りつけるような仕事が無いか探してみた。


 結論から言うと、その仕事はダメだと言われた。


 別に若いから危険な仕事をしてはダメとか、所長みたいにこちらを気遣っているわけじゃない。

 ただ、食肉はもう供給ラインが店ごとに決まっていて、私が一人で異獣を狩って食肉の量を増やすと需要と供給のバランスが崩れる危険性があるとか言ってた。


 私一人くらいが異獣を狩ったところで供給される量はたかが知れてるだろうに、とも思ったけれどどうやら本当の理由は違うようだ。

 食肉は貴重で高価だ。それを販売する店は他の店と比較してもかなり儲かるわけで、その価値が下がるのを防止するために食肉店による手が斡旋所にもまわっているようだ。

 ビジネスをある程度独占するための投資、要するに賄賂だ。


 クソが。異獣の研究施設もあるみたいだから、そこに異獣を売りつけに行く仕事をできないかとも思ったけれど、それも食肉店が兼業でやってるらしいからダメ。

 要するに、異獣狩りは仕事にならない。その食肉店も人員は充分だから雇ってもらえない。

 食肉が貴重っていうか、こいつらが供給する量を意図的に制限してるせいで価値が上がってるんじゃないの。チクショウめ。



 ……仕方ない、ここは日雇いの力仕事にでも就くとしよう。

 異獣狩りの仕事に比べて薄給な仕事しかないけれど、それでも生活するには充分な給料が出るみたいだし、背に腹は代えられない。



「肉体労働を希望ですか? ちょっとステータスを確認させていただきますね。……ふむ、少々妙な表示ですが、ギフト持ちでそれも素晴らしく強力なステータスですね」


「多少危険な仕事でも、給料がいいなら優先して回して」



 斡旋所の職員に少しでも給料の良さげな仕事は無いかと尋ねてみると、書類をペラペラとめくりながらいくつかの職場を提示された。

 工事場の重機代わりに重量物を運ぶ仕事とか街の警備員とか比較的健全な仕事もあれば、異獣の研究施設での実験体になるとか……娼館での仕事まで紹介された。誰が行くか。

 どれもパッとしない。でも決めなきゃいけないなーだるいなーとか思いながら書類を眺めていると――――



「……あぅっ……!?」


「おお~、いい尻してるなぁ君ィ」



 ……お尻を誰かに触られた。

 反射的に振り向くと、これまで見たこともないくらい太った男が、涎を垂らしながら鼻をフゴフゴと鳴らし、いやらしい笑みを浮かべて私に手を伸ばしていた。



「フゥゥム、尻だけでなく胸も大きいとは、さらに容姿も素晴らしい。『外』から可愛い女の子が入ってきたというから、わざわざ見に来た甲斐があったというものだなぁぁ」


「マ、マダツ様、困ります。この人は就職希望者で、手続きの最中なんですよ」


「ンンンン、君ィ、ボクが誰かということを分かっているのなら、逆らうとどうなるか知らないわけじゃないだろぉ? ……ロクな死にかた、できないぞぉぉ?」


「ひっ……!」



 私を痴漢しているブタ野郎を受付嬢が諫めたけれど、それを睨みながら脅し文句を垂れて黙らせやがった。

 アレか、こいつ、この街のお偉いさんの息子かなんかか? いわゆるボンボンってヤツかな。



「さてぇ、これ以上邪魔が入らないように、続きはうちの家でしようかぁぁ。ああ、心配しなくてもタダとは言わないよぉ。お小遣いはたんまりあげるからねぇ」


「……私は高いわよ?」


「グッヒヒ、いいよいいよ、言い値で君の身体を買おう。さあ、こっちへ――――」



 お尻だけじゃなくて、胸にまで手を伸ばしてきたブタ野郎の手を掴み



「これが、お触りの代償よっ!!」


「へ? ……ごびゃギャァアアッ!!」



 横っ面に向かって、力いっぱい平手打ちをかましてやった。

 ブタ野郎の身体がクルクルと回転しながら、椅子やらテーブルやらを倒しながらぶっ飛ばされていく。



「汚い手で触るんじゃないわよ、デブが」


「あ、あわわわわ……! な、なんてことを……」


「正当防衛よ。先に手を出してきたのはあっちでしょ」


「そ、そういう問題では……!」



 受付嬢が顔を青ざめながら狼狽えている。

 んー、これはやっちゃったかな。



「き、ぎ、ぎざま゛ぁぁぁあ!! よくも、よくもボクの顔をヲォぉおお!!」



 ブタ野郎が起き上がって、唾と鼻血を撒き散らしながら激高している。きたない。

 これ以上関わると面倒そうだし、ここは一旦逃げるか。

 ホントは最初っから逃げたほうがよかったんだろうけれど、つい手が出た。殴った後のことは考えてなかった。今では反芻している。殴った感触を。


 というわけで全力で離脱! ツヴォルフには後で連絡をとって言い訳しとけばいいか。

 しまったなー、今後この街で働くのが難しくなっちゃったかもしれない。



「に、に、逃がすなぁぁぁあ!! 捕まえろぉおお!!」


「ま、マダツ様、そのお顔は!? いかがなされたのですか!?」


「いきなりあの銀髪の女に殴られたんだぁぁ! とっ捕まえて、異獣のエサにしてやれぇぇええ!!!」


「か、畏まりました!」


「おい、止まれ! おとなしく捕まるがいい!」



 ブタ野郎がこちらを指差しながら部下と思しき奴らに指示を出して、私を捕まえようとしてくる。

 ふふん、捕まえられるもんなら捕まえてみろ。こちとらアンタらの何倍もおっかない異獣どもと追いかけっこしてきてるんだぞ。


 とか余裕綽々で走り回っていると、チクリ と右腕に小さな刺激が走った。



「……?」


「麻酔銃、命中! 確保!」


「ん? ……あぇ……?」



 あれ、なんか、視界が、暗く――――













「……あら?」



 ふと目を覚ますと、見慣れない場所で寝そべっていた。

 地面に寝かされてるもんだから、また毛無しゴリラの夢でも見てるのかと思ったけれど違う。


 え、なにが起きた?

 さっきまで、あのセクハラブタ野郎の手下どもから逃げ回ってたはずなのに、いつの間に寝てたんだ?

 いや、確か『麻酔銃』がどうとか言ってたし、あの右腕にチクッときたのは麻酔の針かなにかが刺さった痛みだったのか。


 ってことは、アレか。

 私、逃げてる最中に麻酔で眠らされて、捕まって、ここに連れてこられたのか。



 周りを見回すと、檻に囲まれている。

 檻の内側は広く、直径100mはあるんじゃないかしら。

 檻の外側には、身なりのいい老若男女たちが私を嗤いながら眺めているのが見えた。

 え、なにアイツら。私は見世物じゃないぞ。てかどこだここは。





『レディィィイイスエェェンジェントルメェンッ!! 今日のメェンイベントの始まりですよォ!!』




 状況確認をしている最中に、耳を劈く爆音。

 うるさっ!? いったいなんの音よ!



『えー、エントリーナンバーEX、『外』からの来訪者! あのシュウダ家の御曹子、マダツ様に暴行を加えた罪で、異獣刑に処されることになりました! いやぁ、お若く美しいのに誠に残念でなりませぇん!!』



 は? なんのこっちゃ? 異獣刑?

 あのブタ野郎を殴ったことは覚えてるけど、ちょっと展開が早すぎてついていけないんですけど。

 つーかなにこれ? なにが始まるの?



『さてさて、これより入場するのは闘技場の覇者! デカくて硬い! それだけでいくつもの異獣を屠ってきた、最強の大亀! 『ルタメ・スタート』ォッ!!』



 !?

 私が居る檻の内側の床が自動的に開かれて、下からなにか巨大な岩のようなものが出てきた。

 いや、ただの岩じゃない。よく見るといくつか大きな穴が開いてるし、岩の模様や肌が明らかに不自然だ。


 岩の穴から、なにか太く湿ったものが出てきた。

 獣の爪を思わせる刃が五つついていて、よく見ると先端が指のように枝分かれしている。


 この岩、もしかして、巨大な『亀』……!?



『グゥゥン……!』



 四肢を甲羅から出した後に、頭を伸ばしてこちらを睨んできた。

 小さく、それでいて低く重い唸り声が亀から発せられている。


 ……なんで私、檻の中でこんなバケモノ亀と一緒に入れられてるの?




『彼女が罪を許され生きて帰るには、この怪物を倒すしかありません!! さぁて、本日の獲物はいったい何秒もつのでしょうか!? では、異獣刑、執行開始ぃ!!』




 ああ、そうか。

 要するに、あのブタ野郎はいいとこのボンボンで、それを殴った罪で私は死刑判決でも出たんだろう。

 で、それの執行人がこの亀ってことね。

 周りで眺めている連中は、人が異獣に喰われているところを眺めて喜ぶ悪趣味な観客ってか。理解した。


 そう簡単に、やられると思うなよ。

 こい、デカブツ亀! 私を喰いたいなら、自分が食われることも覚悟して挑んでこい!


 ますは膂力強化して様子を…………あれ?


 膂力強化が、使えない……!?




『ああ、お伝えし忘れておりました! この少女はなんとギフト持ちであり、かなり強大な力を有しております!』


『しかし、ギフトを封じる効果を持つ首輪を装備させておりますので、彼女はギフトなしで異獣と戦わなければなりません! ああ、なんと過酷な試練なのでしょう!』 


『ですが、それを乗り越え、見事に異獣を打ち倒し生還することを願って止みません! 皆様もそう思うでしょう!?』




 な、んだって……!?

 自分のステータスを確認すると、普段黒文字で表示されているギフトの項目が灰色になっていて、どれも使えなくなっている。

 膂力強化も、火炎放射も、磁力付与も、まるで発動しない。


 ……いや、文字化けギフトの項目だけなぜか黒文字のままだけど、これは他のギフトを強化するギフトだから単体じゃ意味がない。

 くそ、なら素の状態でコイツを打ち倒すしかない。

 コイツのステータス次第じゃ、戦えないこともないはずだ。

 『アナライズ』を発動し、大亀のステータスを表示!






 ルタメ・スタート


 ランク6


 状態:正常


 【スペック】

 H(ヘルス)  :2314/2314

 M(マジカ)  :688/688

 S(スタミナ) :1244/1597


 PHY(膂力)  :2001

 SPE(特殊能力):644

 FIT(適合率) :58%


 【ギフト】

 速度強化Lv6 衝撃波Lv7 地形操作Lv4






 あ、無理だこれ。死んだわ。

 お読みいただきありがとうございます。


 今回ちょっと展開が急すぎたかなと思わなくもない(;´Д`)

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― 新着の感想 ―
[一言] ……やっと亀が出てきたよ ( ´Д`) そしてロナ自身のギフトも使えないとは、まさしく梶か……腕の人のためだけに用意された場所にも見えるし、なんともご都合主義な _:(´ཀ`」 ∠): ………
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