できてしまった大切なもの
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コミュニティから脱出して、今日で五日目。
途中で異獣に何度か襲われたけれど、今のところ大きなトラブルは無い。むしろ摂食吸収できるうえに食料が増えて嬉しいくらいだ。
生活水が残り少なくなってきたけれど、そろそろ湖があるはずだからそこで補給していけば問題ない。
「……って思ってたんだけどなー」
やっと湖に着いたと思ったら、岩場の陰から10人くらいガラの悪い連中が顔を出した。
こないだの襲撃者たちのような、品のない顔つき。
どう見ても追いはぎの類だわこいつら。
「ぐひぇっひぇっひぇっ。おぉい、見ろよ。ガキが二人になよっちい野郎が誘われてきたぜぇ」
「よぉし、男は殺して、ガキ二匹はふん縛ってとっ捕まえろ。しばらくオモチャにゃ困らねぇなぁハハハッ!」
うーわ、もうベタベタな悪人ムーブじゃないですか。キモい。なんだぐひぇひぇって。
舌なめずりしながらこちらを見ている顔には、知性のカケラも見出せない。キモい。
「……無法者、か。やれやれ、こんなとこにまで縄張り張ってやがるとはな」
「無法者?」
「ああ。どこのコミュニティにも属さねぇ盗賊紛いの連中のことだ。大抵は素行の悪さから、あるいは重い罪を犯したりしてコミュニティから追い出されたクズどもが群れをなしてやがんのさ」
「なるほどねー。……パイシーズを襲ったのも、こいつらみたいな連中だったのかしら」
「だろうな」
なんというか、髪形やら装備やら実に前衛的というか、ヒャッハーとか言いながら暴れまわってそうな感じだ。
あと汚い。全身汚れまくってる。近くに湖あるんだから身体洗えよ。いやこれからこの水汲むんだからやっぱ洗うな汚い。
「数が多いな、逃げ切れるか……?」
「いや、逃げる必要ないでしょ」
「え?」
「なぁにゴチャゴチャ言ってるのか知らねぇが、ちょっくら大人しくしてもらおうかねぇ!」
逃げ腰になっているツヴォルフと会話していると、無法者どもが突っ込んできた。
ふーん、『外』で生活してるだけあって、それなりに速いわね。
ま、あくまで普通の人間に比べたら、だけど。
「オラァ! 痛い目見たくなきゃ、大人しくしてなぁ!」
「お断りよ」
「へ? ……ゴヒョアッ!!?」
こちらの手を掴んでこようとする無法者の手を逆に捕まえて、一本背負いの要領で地面に叩きつけた。
軽いわー。異獣とは比べ物にならないくらい軽くて投げやすいわね。
「こ、このガキ……!」
「ほらほら、くるならさっさときなさい」
「舐めてんじゃねぇぞぉ!!」
次々と岩場の陰から無法者たちがこちらに向かってくる。
最初っからそうやってきなさいよ。まとめて相手したほうが手間が省けるわ。
胴体に肘打ちしたり、その隙を突いて鉄パイプで殴りかかってきたのを受け止めて殴り返したり、気絶したヤツを飛び道具代わりに投げつけてやったりした。
……身体能力も連携もお粗末ね。異獣と違ってちゃんと人間並みの知能があるんだったら、もっと知恵を使いなさいよ。
「こ、このガキやべぇぞ! リーダー!」
「下がってろ! こいつはオレがやるから、後ろの野郎をぶちのめしてもう一方のガキを攫え!」
リーダーと呼ばれた大男が前に立ち、私に向かって腕を振り降ろした。
! 腕が、大きくなった!? まずい、防がないと!
ズゥンッ という地響きとともに、とてつもない重量感が私の身体を襲った。
「う、ぐぅぅ……!!」
「うぉぉ……! こ、これでも潰れねぇのかよ……!」
大男のステータスを確認すると、膂力は私と互角くらいで『体積操作』というギフトを持っているのが見えた。
身体のサイズを、意のままに変えられる能力ってところかしら。
膂力強化で対抗してるけど、なかなか厄介な能力ね。
「ごのぉぉ……!! さっさと潰れろやぁあ!!」
「うるっ、さいわよ……!!」
拮抗状態になっていて、互いに動きが取れない。
いや、大男のマジカが凄い勢いで減っていってるのが見える。
文字化けギフトを使わない普通の膂力強化でも充分対抗できてるし、このままコイツのマジカ切れを待つのが無難ね。
「オルァッ!!」
「がっ!?」
とか慎重に今の状況を見ていたら、後ろのほうから変な声が聞こえた。
振り向くと、ツヴォルフがバットのようなもので殴られて倒れた。
ツヴォルフはそんなに膂力が強くないのに、あんなので殴られたりしたら……!
……!?
「オラ、ガキ! こっちにきやがれ!」
「っ……!」
「こいっつってんだよ、クソガキがぁ!!」」
「あうっ……!」
そして、腕を掴まれて抵抗しようとするリベルタの顔を、クソ野郎が殴ったのが目に入った時に、目の前が真っ赤に染まったように感じた。
なにしてる。
なにしてやがる。
「よぉし! よくやった、その野郎とガキを人質にして―――」
「なにしくさってんだテメェらぁあああああああっっ!!!」
自分の口から、自分のものとは思えないような声が吐き出された。
「なっ……ゴヴォッ!!」
受け止めている巨大な腕を力ずくで弾き返して、そのままリーダーの顔に飛び膝蹴りをブチ当てる。
地面に倒れようとする大男の頭を踏み潰し、すぐさまツヴォルフとリベルタを殴ったクソ野郎のところまでかっ飛んだ。
「う、動くな! 動いたらコイツを―――」
「お返しだっ!!」
「オゴァッ!?」
リベルタの首元にナイフを突きつけながら脅迫しているクソの頭を、倒れていたツヴォルフが起き上がって拳銃の持ち手で殴った。
「くたばれぇっ!!」
「ゴビャァ!!」
体勢を崩したところでリベルタがクソ野郎から離れたのを確認して、顔面を思いっきりぶん殴ってやった。
頭が弾けて、辺りに頭蓋骨とその中身が撒き散らされていく。
確実に屠ったのを確認し、残ったクソどもを睨みつけると、たじろぎながら後退していく。
「ひっ……!」
「や、やべぇ! リーダーたちが殺られたっ!!」
「逃げるなぁ! テメェらもブチ殺してや……っ!?」
逃げようとするクソどもを追いかけて始末してやろうとしたところで、左手を誰かに掴まれた。
振り向くと、ツヴォルフとリベルタが私の腕を掴んで止めようとしていた。
「ロナ、追わなくていい! もう大丈夫だっつの!」
「……あの人たちじゃ、もうなにもできない。これ以上殺す必要はないよ」
「でも……!」
「いいから落ち着け! 興奮しすぎだ!」
……っ。
……。
すー、はー、すー、はー。
……深呼吸をして、血がのぼった頭を冷やして怒りを鎮めた。
その様子を、ツヴォルフとリベルタが心配そうな顔で見ている。
「……ごめん、もう、落ち着いたわ」
「おう。……すっげぇ迫力でキレてたな」
「ちょっと、怖かった」
少し引き気味に、二人が私を見ている。
……自分でも驚いてるわ。
これまでも頭に血がのぼってキレたことは何度かあったけど、あんなに怒ったのは初めてじゃないかしら。
なんであんなに怒っていたのかは、自分でも分からない。
ただ、ツヴォルフとリベルタがあのクソ野郎に殴られたのを見たら―――
『危ないっ!』
以前、私を庇って代わりに殴られて死んだ、男の子の姿がダブって見えたんだ。
もしも、この二人まで同じように死んじゃったりしたらって、そう思ったら、恐怖と怒りが爆発したように感じた。
「ま、そこまでオレたちのために怒ってくれるってのは、正直嬉しくもあるけどな」
「……うるさい」
「? ロナ、顔、赤い?」
「赤くない。……さっさと給水して、コミュニティへ急ぐわよ」
ああくそ、くそ、くそ……。
仲間なんか、もうつくらないって決めていたはずなのに。
誰とも仲良くならなければ、もう悲しい想いなんかせずに済むって分かっているのに。
裏切られるのも死なれるのも、もうごめんだって思っていたはずなのに。
今の私は、この二人を死なせてしまうのが、とてつもなく怖くなってしまっている。
ああくそ、なにも学んでないじゃないか私は。バカか、私は。
「ロナは、なんであんなに怒ってたの?」
「……いずれ分かるさ。いずれな」
なんか後ろのほうで疑問符を浮かべてるリベルタに、微笑ましいものでも見るかのような目で父親ムーブしてるし。
私は見世物じゃないぞ。いいからさっさと水汲み上げろ男ども。
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