自由と焼き芋
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はい、おはようございます。
あれから三時間しか寝ておりませんが、私は元気です。嘘です。超眠い。
というのも、あの子の名前を決めるのに腕の人のネタノイズと戦いながらずっと考えてたのよねー……。
なんとか『これだ』っていう名前が決まって良かったけれど、よくよく考えたら間に合わせの名前でもよかったんだしこんなに悩む必要はなかったんじゃないかな。
ってかあの子に『悩む必要はない』とか言った私が一番悩んでる件について。なにやってんだ。
「おはようさん。……すげぇ眠そうな面してんな。ちゃんと寝ないとマジカが回復しねぇぞ」
「……大体回復してるわよ。眠いけど」
「あの坊主と寝る前に随分話し込んでたみてぇだな。初日から随分仲良くなっちまってまぁ」
「ウンウン呻いててうるさいから、宥めて黙らせただけよ」
「にしちゃあ、楽しそうな声が聞こえてきてたけどな。……コミュニティに辿り着くころにゃ交合でもしてるんじゃ グホァッ!?」
「最低な冗談言ってる暇があるなら、さっさと火でも起こして朝食の準備を手伝いなさい!!」
ツヴォルフの横っ面を引っ叩いてから、金髪少年を起こしにいった。
まだ眠ってるみたいで、小さく寝息を吐いているのが分かる。
……安らかな顔ね。よく眠れたみたいでなにより。
「ほら、起きなさい。もう朝よ」
「……ぅ……ん……」
眠そうに目を擦りながら起きた。
この子が一番睡眠時間が長いけど、まだ寝足りなさそうね。
でも早めに出発しないといつまで経っても目的地に着かない。我慢して起きろ。
「……おはよう、ロナ」
「ええ、おはよう『リベルタ』」
そう挨拶を返すと、頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げている。
「……『リベルタ』?」
「アンタの名前よ。どっかの言葉で『自由』って意味らしいわ」
って腕の人の知識が言ってます。
……ちゃんとした名前、付けようと思えば付けられるんじゃないの。今まで浮かんできたノイズはなんだったのかしら……。
「嫌なら、また別の名前を考えるけど」
「それでいい。……それが、いい」
「そう。……朝食を作るから、お湯を沸かすのをお願いね、リベルタ」
「うん」
寝具を片付けて、篝火まで一緒についてくるリベルタ。
その顔の口角がほんの少し上がっているように見えたのは、気のせいじゃないと思う。
朝食を済ませてから野宿跡を片付け、出発。
あと何日歩けばいいのやら。考えただけで気が滅入るわね……。
「リベルタ、ホントに大丈夫なの? 私から言い出したことだけど、マジカ切れになったりしない?」
「大丈夫。70℃以下でこのくらいのサイズなら、何時間でも温め続けられる」
「そう。ならいいわ」
「坊主、さっきからなに持ってるんだ?」
「今日の昼食。歩きながら調理してもらってるのよ」
「?」
リベルタの『温度操作』で、紙袋に入れたサツマイモを一定の温度で熱し続けてもらっている。所長に渡した分とは別にとっておいてよかった。
サツマイモっていうのは高い温度で焼くんじゃなくて、大体60~70℃で2時間ほど熱し続けるとすごく甘くなる、らしい。って腕の人が(ry
甘味が希少なこの時代、もしかしたら世界で一番のスイーツが出来上がるかもしれない。
ふふふ、期待してるわよ。いやマジで。
「んー? ……10時の方向に異獣の気配がする。絡まれる前にちょっと狩ってくるわ」
「え、オレはなにも感じねぇんだが、なんで分かるんだ?」
「昨日仕留めた象型異獣から吸収した『索敵』のギフトよ。周りの生き物の位置が分かるようになるギフトみたいで、時々一瞬だけ使って探知してるの」
「一瞬だけって、使いっぱなしじゃ駄目なのか?」
「短い時間ならほとんど消耗しないけど、何十分も使ってたらすぐにマジカ切れになっちゃうわよ。じゃあ行ってきます」
「おう、無茶すんなよ」
『索敵』を頼りに異獣の近くまで足を運ぶと、人サイズくらいの巨大なカマキリがいた。デカッ。
まだこちらに気付いていない異獣を、岩場の陰から奇襲して……あ、やべっ気付かれた。
こいつ、目の駆動域広いわね。前を向きながら真後ろまで見られるなんて。
しょうがない、不意打ちはやめてガチでやり合うか。幸いステータスを見る限りじゃそんなに強くなさそうだし。
あ、でもこいつも『摂食吸収』する必要があるのよね。……虫を食べるのは正直遠慮したいけれど、まあ浮浪児だったころに時々食べてたし許容範囲。
あっさり倒して、いざ摂食。ガブッとな。
うわ、まっず!? ナニコレ苦いしエグイしグチャっとしてるし食えたもんじゃないんですけどー!!
きょ、巨大サイズの虫なんか食べるもんじゃないわね……オエップ……。
せめて火を通せば食べられるかもしれないけれど、摂食吸収は生肉じゃないと駄目だしやむを得ないか。
……今後、虫の類の異獣はできるだけ避けよう。
「お疲れさん。どうだった?」
「カマキリみたいなやつで、クソまずかったわ」
「いや味じゃなくて手こずったのかどうかとか聞きたかったんだが……つーか食ったのか?」
「『摂食吸収』のための一口だけよ。虫の肉なんか食えたもんじゃなかったけど」
「……虫……」
おいコラなにドン引きしてんだ。私だって食いたくて食ってるわけじゃないんだぞ。
……まだ口の中に嫌な風味が残ってるし、そろそろ昼食にして洗い流そう。
「で、坊主に調理を頼んでたって話だが……コレ、食えるのか?」
「……腐ってる?」
「い、いえ、そんなはずはない、と思うわ、うん」
「坊主、温度のほうは合ってたのか?」
「うん。『温度調整』は周りがどれくらいの温度かも正確に分かるから、言われた通りにできてるはず」
リベルタにずっと温めてもらっていたサツマイモを紙袋から取り出すと、なんだかネバついた汁みたいなものが染み出ていた。
硬かったイモがまるで粘土みたいに柔らかくなっていて、しかも中身が白から真っ黄色に変わっている。
どう見ても腐った食べ物の様相だけど、変な匂いはしてないしこれで大丈夫のはず。多分。
「……最初は、誰から食べる?」
「……ロナ、お前から食え。だが一口食ってダメそうならやめとけ。腹でも壊して体調を崩されでもしたら、異獣に襲われた時にヤバいしな」
「ロナ、無理しなくてもいいと思うけど」
「い、いえ、いただきます、いただきますとも、ええ」
あれだけ期待させておいて『腐ってしまいました』じゃ納得いかん……!
ま、まだ腐ってるとは限らないから。そう、これは熟成! 熟成なのよ! 色とか見た目がどう見てもヤバいけど!
そ、それじゃあ、いただきまぁす……あんぐっ。
…。
……。
・・・・・・・・・。
「うっ、うぅっ……!」
「……泣いてる……?」
「お、おいロナ、無理すんな! 泣くほどつらいなら食わなくていい、吐き出せ!」
「ううぅううまあああぁぁいっ!!」
「な、なにぃ!?」
「えぇ……」
なにこれなにこれ! やわらかくねっとりとした食感で、香ばしい独特の風味と、とてつもない甘みが口の中に広がっていく!
甘さの中にわずかに酸味、いやエグ味? を感じるけどそれが逆に味の深みを与えていて、さらに美味く感じさせている。
ヤバい、甘い、美味い、うますぎる! うーまーいーぞー!!
「アンタたちも食べてみなさい、超美味いから!」
「ま、マジか……? ……っ!? う、うめぇ、だと……!?」
「モグッ……っ……甘くて、おいしい……!」
私のリアクションを見て、おそるおそる二人もイモに齧り付くと、あまりの美味しさに目を見開いて驚いている。
やっばいわコレ。まさかここまで甘みが強いなんて予想外だわ。
こんなに甘くて美味しいものを食べるなんて、多分産まれて初めてね。
ああくそぅ、こんなことならもう少し自分で持っておくんだった!
今三つ食べちゃったから、あと10個くらいしか残ってないのよねコレ。……パイシーズでの栽培が、占拠された後にも続けられているといいけれど。
「あー美味しいぃ……次のコミュニティでも、なんとかこれを栽培できないか交渉しないといけないわね」
「サンプルに一つコレを渡してやりゃ、まず間違いなく栽培してもらえるだろうな。これが恒常的に食べられるようになれば大喜びだろうよ」
「……もしも栽培に成功したら、コレを毎日食べられる?」
「ええ。そのためにも、早くコミュニティに急がないとね」
「うん、頑張る」
「おう、この味のためならいくらでも歩けるぜ!」
ツヴォルフとリベルタが、いつになく覇気のある顔で答えた。
うんうん、分かるわ。たかが焼き芋、されど焼き芋。
疲れ切った身体に糖分が染み渡り、活力に変わっていくこの感覚は食べた人間にしか理解できないだろう。
今ならどれだけ長い道のりも余裕で歩けそうだわ。
「じゃあさっさと行くわよ。ツヴォルフ、あとどれくらいで着きそうなの?」
「あと八日くらいかな」
「よ、八日……」
「……長いね」
……前言撤回。一気に気力が萎えたわー。
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登場人物紹介
リベルタ
年齢不明。外見年齢は10歳くらい。身長は120~125cmくらいでちょっと低め。
金髪碧眼で若干長めの髪型も相まって、パッと見女の子にも見えるくらい中性的。
妙な建物の廃墟の地下にコールドスリープの状態で保存されていたところを、パイシーズの職員が発見。
記憶を失っており、行くあてもないのでパイシーズの施設で保護されることに。
感情の機微や自己表現に乏しく、いつもひとり無表情で施設内をぽつぽつと歩いている。
『幻惑操作』『温度操作』のギフトに目覚めており、膂力は並の人間より少し強いくらいだが特殊能力の出力が桁違いに高く、並の異獣くらいならすぐに身体を沸騰・破壊して殺せるほどに強力。
施設では指示通りに生きていれば楽に生きられると悟り、誰かの言いなりになって生きるべきだと思っていたが、ロナたちとともに行動するようになってからは『自由に生きる』ということを学びつつあり、今後自分はどうやって生きていくべきかを悩むようになる。
ロナと接触するたびに感情が刺激されており、それを戸惑いながらも楽しんでいることを本人も自覚できていない模様。
……なお所長から溺愛されており、若干セクハラまがいのことも(ry




