追跡獣
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濡れタオルで身体を拭いて、垢やら汚れやらを洗い落とす。
水も有限だから贅沢には使えない。必要最低限で済ませる必要がある。
分かってるけども、分かってるんだけれども、シャワーが恋しいわー……。
少年とツヴォルフは既に洗い終わって、既に横になっている。
私は見張り。四時間ほどしたらツヴォルフと交代する予定だ。
廃墟でもあればまだ全員眠ることもできたかもしれないけど、さすがに野ざらしの状態で全員眠るのは危険すぎる。
腹を空かせた夜行性の異獣でも近付いてこようもんならそれでアウトだ。
一人だけ起きていると、色んなことを考えてしまう。
これまでも基本的に一人だったけれど、今になって頭の中がグチャグチャだってことを自覚してきた。
なーんで、こんなことになっちゃったのかなー……。
つーか、今日だけで最悪なイベント多すぎでしょ。
クソ施設からの追手に襲われたり、クソ襲撃者どもの掃除をしたり、ゴミクソコミュニティの襲来から逃げたり。
そりゃ頭ん中ごっちゃになりますわ。
No.77とまた会えて礼を言えたことはよかったけど、結局置き去りにして逃げてきてしまった。
……多分、あの子も捕まってしまっているだろう。所長たちと一緒に、いつか助け出してあげないと。
そういえばNo.4の顔に落書きしてたけど、捕まった時に相手に困惑されてそうね。どうでもいいけど。
あと、No.1はいつかぶっ飛ばす。
今のところ一勝一敗。次こそ油断せずにボコボコのボコにしてやるわ。
それで、あんなクソみたいな連中に従っているのがいかに馬鹿馬鹿しいかってことを分からせてやるんだから。覚悟しろ。
さて、ここまでの情報の整理はできた。そして、これからのことを考えなければならない。
まずコミュニティに辿り着くまでの道のり。
異獣を警戒しつつ、先に進まなければならない。
ツヴォルフが言うには早くても一週間くらいはかかるらしい。
安全性を考慮しながらだと、十日はかかると思ったほうがいいとか。
十日間も『外』で活動するなんて本当なら自殺行為もいいところだけれど、他に道は無い。
まあ比較的異獣と遭遇する可能性の低いルートがあるらしいから、多分大丈夫だろう。
今日だって一体だけしかエンカウントしなかったし。……割と強かったけど。
コミュニティに辿り着いた後は、まず生活の基盤を整える必要がある。
新しい働き口を探して、衣食住の確保。
『パイシーズ』と同じように異獣を捕まえてくるような仕事に需要があるといいけれど、どうだろうか。
次に、『パイシーズ』を漁夫の利ゴミクソコミュニティ『スコーピオス』から奪還する算段を立てる。
正直、現時点じゃなにも考えていない。どうするのが正解なんだろう。
私一人が強くなろうとしても限界がある。
仮に膂力や特殊能力が今の倍くらいまで強くなったとしても、コミュニティ一つ分の軍隊相手には無力だ。
辿り着いたコミュニティに助けを求めても、それを受け入れてくれるかどうかは分からない。
コミュニティ同士の戦争になるようなことは避けたいだろうし、おそらく我関せずと突っぱねられるだろう。
だけど、数の暴力相手にはどうしてもこちらも『群』の力が必要になってくる。
……あまり酷いことはしたくないけれど、『スコーピオス』と戦わざるを得ないように誘導する計画なんかも考えておく必要があるかもしれない。
あるいは、数の暴力さえねじ伏せる『なにか』を手に入れるか。
たとえば超強力な爆弾で、相手の軍隊をまとめてぶっ飛ばすとか。
……そんなことしたら所長たちも一緒にぶっ飛びかねないけど。
強力な兵器を手に入れる目途なんか全然立ってないし、これもあまり期待できそうにない。
クソ、ダメだ。私一人でどれだけ考えてもまるでまとまらない。
喧嘩も頭も弱いままで、結局無力なままじゃないの、私は。
あーやめやめ、これ以上ウジウジ考えてても仕方がない。なるようになれだ。
「おい、交代だ」
「……え、もうそんな時間?」
「いや、なんで見張ってるほうが気付かねぇんだよ。腕時計を渡しただろうが」
うわ、マジだ。もう深夜の3時になってる。
……考え事に集中しすぎると、時間の経過が早く感じるわー。
「ホントは朝までグッスリ寝ていてぇトコだが、お前が寝不足じゃ異獣に襲われた時にヤバいからな。さっさと寝とけ」
「そうするわ。……あの子は眠れてる?」
「ああ。急に環境が変わったから眠れなくなってねぇかとも思ったが、グッスリ寝てるよ」
「そう。ならいいわ」
「……まるで母親か姉みてぇだな」
「うるさい」
誰が母親だ。こちとらどちらも知らない天涯孤独の身だっての。
まあ、それはコイツもあの子も同じか。
今の御時世じゃ身寄りがないことなんて、なんの不幸自慢にもなりゃしないわね。
……っ!
「おい、聞こえるか……?」
「ええ、なにかが近付いてきてる」
……やっぱり『外』での野宿は危険ね。
なにかが、こちらに接近してくる気配がする。
あの子を叩き起こして、臨戦態勢に入らないと。
寝具の中で安らかに寝息を立てている金髪少年の顔を軽く叩いて、無理やり起床させる。
「起きなさい! なにかが近付いてきてるわ!」
「ん……え……?」
「寝ぼけてないでさっさと起きろっ!!」
「うっ……!」
眠そうな顔で気だるげにゆっくりと身体を起こす少年を、怒鳴りつけてシャッキリさせた。
驚いたような、怖がっているような顔でこちらを見てるけど緊急事態だから許しなさい。
「私から離れないで! 孤立したらそのまま喰い殺されるかもしれないわよ!」
「う、うん……」
「くるぞ!」
銃を構えながらツヴォルフが警戒を促す。
ズシン、ズシン、と地面を踏むたびに振動音が響く。
姿を現したのは、広い耳に長い鼻、そして少し湾曲した大きな二つの牙をもつ、巨大な四足獣。
象型の異獣だった。
…………でっか。
「で、デケェなオイ……!」
「大きい……」
雑魚ならブチ殺してそのまま食肉として美味しくいただくところだけれど、サイズからして既にヤバそう。
体高が軽く5~6mはある。いったい何トンあるのかしら。
「……これは、逃げたほうがいいかもしれないわね」
「逃げるのも楽じゃなさそうだけどな。ステータスを見てみろ」
ツヴォルフが顔を引き攣らせながら、アナライズを使うように言ってきた。
厄介そうなギフトでももってるのかしら。確認してみよう。
カートスーファレエ
ランク5
状態:空腹
【スペック】
H(ヘルス) :1001/1001
M(マジカ) :811/874
S(スタミナ) :455/944
PHY(膂力) :1321
SPE(特殊能力):341
FIT(適合率) :44%
【ギフト】
索敵Lv6 望遠Lv4 速度強化Lv3
……まずい。
『索敵』ってのは、多分自分の周囲の情報を掴むことができるって感じかしら。
それで私たちを見つけて、エサとして食べるために近付いてきたってか。
それを『望遠』で確認して、『速度強化』で追い詰めて仕留める。
追跡に特化したギフト構成ね。……厄介だわー。
『ヴァォォォオオオオオオ!!!』
雄叫びを上げながら、その巨体をこちらに突進させてきた。
こんな勢いでまともにブチ当てられたら死ぬわね。
象のお肉って、美味しいのかしら。
……いや、なんで食欲が湧いてきてるのかしら私。こわ。
お読みいただきありがとうございます。




