存在理由
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コミュニティを襲撃したクズどもをあれから10人近くブチ殺した。
殺す度に、僅かに力が増していくのが実感できる。多分、異獣と同じようにギフト持ちの人間も殺してもその分強くなれるんだと思う。
さすがに人間相手に『摂食吸収』はしないけど。腕の人以外の人間を食べる気はないし。
で、残った数人のクズどもが逃げ出したのを追いかけているうちに、なんとも厄介な奴と再会するハメになった。
『空間転移』のギフトを取得している金髪の青年、ギフト・ソルジャーNo.1。
……あのクソ施設で、おそらく最強の人間がそこに佇んでいた。
私を見た途端になんか顔真っ赤にしてたけど、そんな怒らなくても。
そりゃ施設を出る時にちょっと巴投げしたり締め落としたりしたけどさ。
なんか最初に見た時はクールで冷徹っぽい人だと思ってたのに、案外短気なのかしら。
「お前はツヴォルフ元一等員と違って、まだ酌量の余地がある。それほど強大な力を有しているのであれば、すぐにギフト・ソルジャーとして―――」
「だーかーらー、あんなクソみたいな場所に戻る気なんてないって言ってるでしょ。何度も同じことを言わせないでほしいわ」
「お前が諦めない限り、何度でもこちらはお前を捕らえようとするだろう。それほどの価値が、お前にはあるんだ。悪いようにはしない、戻るんだNo.67-J」
……なんだか無性に腹が立ってきたわ。
コイツに恨みは無いし、むしろ二回も命を救われているけど、コイツの言い分に賛同することは、絶対にできない。
「……アンタらの物差しで私の価値を決めるな。アンタらの都合で私の自由を奪うな。アンタたちが勝手に決めた番号なんかで、私を呼ぶなっ!!」
これ以上問答を続けていても、平行線にしかならないだろう。
つーかもう面倒だから、また叩きのめして気絶させようそうしよう。
というわけでしばらく眠ってなさい!
転移で身体を切り取られたりする前に、速攻でブチのめしてやるわ!
膂力強化・速度特化で一気に近付いて奇襲を……。
「寝ていろ」
あ、え?
No.1に向かって走り出そうとした時、気が付いたら目の前にNo.1が立っていた。
いつの間に、ああそうか、自分の身体を私の前まで転移させたのか。
No.1が私の身体に警棒のようなものを押し当てると、全身に鋭い痛みが走った。
「あう、あ、ああああああああっ!!!」
「異獣確保用のスタンロッドだ。安心しろ、痛みこそするが命に別状はない程度に電圧は抑えてある」
No.1がなにかを喋っているけど、よく聞こえない。
そんなことよりいたいいたいいたいビリビリするあの知識書き込みマシンと同じくらいいたいいたいいたい!!!
「あぎゃああああああぁあああっ!!!」
相当強力な電流を流されているのか、身体が強張ってまるで動かせない。
い、命に別条がないとか言ってるけど絶対嘘だ! こんなの普通の人間が受けたら死ぬくらいの電力じゃないのコレ!?
どれくらいの間ビリビリしていたのか分からないけれど、ようやく解放された時には全身の感覚がなくなっていた。
身体中が麻痺している。もう痛みすら感じない。
地面に倒れているはずなのに、それすら感じられない。
く、くそ、油断した……!
No.1の膂力やギフトにばかり目がいって、それ以外の要素に対して警戒が甘かった。
奴の持っている武器にも、目を向けておけばこんなことには……!
「……確保。後はNo.13に拘束させれば捕獲完了だ」
「あ……あ……んた……!」
「もう諦めろ。お前に、始めから自由などなかったんだ」
ふ、ざけんな……!
「アンタ……は……!」
「……なんだ。恨み言ならばいくら言おうとも構わないが、状況は変わらないぞ」
息をすることすらつらい状態だけれど、気力を振り絞って声を出す私にNo.1が無慈悲に言葉を伝える。
うるさい。それでも、せめて文句ぐらい言わせろ。
「アンタ、なん、で、あの、クソどもに、したがって、るの……」
「それが俺の役割だからだ。あの施設とコミュニティのために死ぬまで働く。それが俺の存在理由だ」
「そんざい、りゆう……?」
「俺があの施設で育成されたのは、施設に益をもたらすためだ。上層部が望む成果を出し続けるのが、俺の役割であり、価値であり、存在する理由だ」
麻痺している私を担ぎ上げながら、無表情のまま答えている。
その顔には、なんの感情もない。
「そんなの、だれが、きめたの」
「俺を育てた職員たちだ」
「……それは、あのしせつの、れんちゅうが、かってにアンタ、に、いったことでしょ……?」
「……?」
「アンタには、やりたいこと、とか、ないの?」
「お前とツヴォルフ元一等員を確保するのが、今の目標だ」
「ちがう、それは、アンタの、やりたいこと、じゃない……!」
こいつ、まさか、自分の意志ってもんがないのか。
……まるで、あのすっぽんぽんを見せ合った子みたいね。
「……なにが言いたい」
「わた、し、……私は、自分の生きたいように生きようと思ってる。美味しいモノを食べたいし、睡眠時間もいっぱいほしいし、毎日、誰の命令を聞くでもなく、自由に生きたい」
「無理だ。施設に戻れば、上層部の指示通りに動く必要が……」
「だから! それこそ、アイツらが勝手に決めたルールだろ! 私も! アンタも! あのクソどもの道具なんかじゃないでしょうがっ!!」
「っ!?」
叫ぶのと同時に『私の身体』と『No.1の身体』の両方に、同じ『+』の磁力を付与した。
同じ磁力同士なら反発しあって、斥力が発生する。
文字化けギフトで強化したその斥力は、容易く互いの身体を逆方向へ弾き飛ばした。
「ぐぁっ……!?」
「うぉわわわわわわわわ!!?」
あ、ヤバい。No.1からは離れられたけど、予想以上に反発力が強いんですけど!
このままじゃ壁に激突する。受け身をとろうにも、身体が麻痺して動かない。
壁との間に斥力を、いや『磁力付与』は触れた対象にしか使えないから無理!
なら『火炎放射』のバックファイアで、いやだめだもう間に合わない――――――
「おごっはぁ!?」
「ぐえっ!?」
壁に激突する直前、誰かが壁の前に立ち塞がったのが見えた。
飛んできた私を受け止めた衝撃をモロに受けたせいか、痛そうな声を上げている。
……? この声は……。
「う、うおぉぉぉぁぁぁ……! 腹が超痛ぇ……!!」
「……ツヴォ、ルフ?」
「ゲッホゲホッ……! お、おう。なんとか生きてるみてぇだな、ロナ。……いてて……」
茶髪が痛みに悶えながら、苦笑いで言葉を返してきた。
……まさかまたコイツに助けられるとはね。
てか、あちこち傷だらけでボロボロじゃないの。なにがあった。
「さーて、No.1に目ぇつけられたのは厄介だが、こいつがいりゃなんとか逃げ切れるだろ」
「……期待してるとこ悪いけど、変な警棒で電流流されてから指一本まともに動かせないんだけど」
「いや、お前じゃねぇよ。こっちの坊主のことだ。えーと、……なんて名前だったっけ?」
「……僕に名前は無いよ。好きなように呼べばいい」
よく見るとツヴォルフの傍に、小さな背丈の誰かが立っていた。
金髪碧眼で、少女と見間違えそうなほど中性的な、男の子。
てかこの子、例のすっぽんぽん少年じゃないの。……いや、この呼びかたはさすがに我ながらひどいなオイ。
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