感情違反
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あちこちで火の手が上がっている街を駆け抜ける。
そこらに人が倒れているのが目に入るたびに、襲撃者たちに対する怒りと殺意が増してくる。
「あー、久しぶりにまともなメシが食えるぜぇ。もっと早く見つけときゃよかったのによぉ」
「まああいつらより先にありつけただけよしとしとこうぜぇ」
「しっかし、メシもいいけど女はいねえのかぁ? こちとら溜まりに溜まってんだぜぇ?」
三人組で行動してるクズどもがいる。
一人一人は大したことなさそうだけど、複数相手にまともにやり合ったら苦戦するかも。
……頭を使え。こいつらを早急にかつ確実にブチ殺すために知恵を絞れ。
「私でよければ相手してあげようか?」
店の残骸から食料を漁って貪るゴミどもに向かって、服をはだけさせながら妖し気な声色で近付く。
私ってこんな色っぽい声出せたんだ。自分でもちょっとビックリだわ。
「あん? ……っておお? こりゃまた別嬪さんじゃねーかぁ!」
「わざわざそっちのほうから言い寄ってくるたぁ、イカれてんのか? それとも相当な好きもんかぁ?」
「どっちでもいいでしょ? それとも、私なんか相手するのはイヤ?」
「いやいやいや、大歓迎だぜぇ。どこもかしこも立派に実ってんじゃねぇか、たっぷり堪能させてもらおうか――――」
下衆な言葉を吐き出しながら、私の胸に伸ばしてきた男の腕を掴み
「たっぷり味わうといいわ。……地獄をね」
膂力強化で腕を部分的に強化し、後ろのほうでズボンを降ろそうとしていた男に向かって思いっきりぶん投げた。
「うぉおわああああっ!!?」
「っ!? な、なんだっ……!?」
性欲しか頭にないようなところに、いきなり仲間をぶん投げられたりしたら面食らうわよね。
怯んだ隙に、左側の男に向かって『火炎放射』のギフトをぶっ放した。
「がぁぁあっ!!」
「ひぎゃぁぁああああああ!!! ああつあづああああぁぁぁぁ………!!!」
瞬く間に全身火だるまになって、人の形をした炎の塊が地面をゴロゴロと転がっていく。
「て、てめぇ……!」
「遅いっ!!」
すかさずもう片方の男の『急所』に向かって、膂力強化した足で蹴りを浴びせた。
咄嗟に手で防御しようとしたみたいだけど、こいつの膂力で私の蹴りを防ぎきれるはずもなく、ゴスッ!! と派手な音とともに、なにかが潰れた感触が脚に伝わってきた。
溜まったものが出せてスッキリしたでしょ? もう二度と使えないだろうけどね。
「がかっ……!! か、ァア…あ……!!!」
「ふんっ!」
「ギャッ!!………ぁ……」
急所を潰されて地面に崩れ落ちた男の頭を踏み潰し、トドメを刺した。
残ったのは、最初にぶん投げたクズだけ。これで一対一だ。
「あとはアンタだけよ」
「こ、の、クソアマがぁあァァアアアッ!! 殺す!! 手足引き千切ってダルマにして、ボロ雑巾みてぇになるまでブチ犯してから殺してやらぁぁあっ!!」
あらお下品。怒りに我を忘れて、いや本性があらわになったというべきか。
両手の爪が伸びて、まるで十本のナイフを持っているかのように構え、振り回しながら襲いかかってきた。
ステータスを確認すると『刃爪武装』っていうギフトを取得しているのを確認。……接近戦は危険そうね。
それに対し、私は一目散に後ろに向かって逃げ出した。
「待ちやがれやぁあ! バラバラにバラしてやっからよぉ!!」
走って逃げて、『丁度よさそうなもの』を探す。
走っていると、折れかかった鉄塔が目に入った。これがよさそうね。
鉄塔に手を触れて、さらに走り続けた。
そして、行き止まりに辿り着いてしまい、追いつかれた。
「鬼ごっこは終わりだぁ……!! 覚悟しやがれクソメスガキがァ……!!」
「あ、後ろ」
「そんな手に引っかかるかぁあああ!!! っっは、が、ぁ……!!?」
鼻息を荒くしながら、私に向かって爪を伸ばしてきた男の動きが止まる。
その腹部から、なにか鋭い槍のようなものが生えて、いや突き出ている。
男の背中から腹まで、先ほど私が触れた折れかかった鉄塔の先が貫通している。
「なに……が……っ!?」
「だから後ろって言ってやったのに。まあ振り向いてたらその隙に焼き殺してやってたけどね」
最初に投げ飛ばした時に、男の身体に『磁力付与』で『+』の磁力を付与しておいた。
で、その後に鉄塔に『-』の磁力を付与して、思いっきり引き寄せてやればごらんの通り。
クズの串刺しの出来上がりである。グロいわー。
口と腹から滝のように血を吐き出したあとに大きく痙攣して、それっきり動かなくなった。
複数人相手でも、ギフトを使いこなしながら戦いかたを組み立てれば充分に勝ち目があるわね。
何人いるか分からないけど、全滅させるまでマジカがもつかしら。
まあ、いざとなったら素の肉弾戦だけでも戦ってやるけど。
……でもヤバそうなのがいたら逃げよう。今のところ雑魚ばっかだけど、もしかしたら強いヤツも混じってるかもしれないし。
~~~~~No.1視点~~~~~
「カ、ヒュッ……?」
「がっ……!!」
コミュニティを破壊しながら蹂躙している無法者どもの首から上だけを転移し、切り離す。
切り離されたくびから間抜けな呻き声を漏らして死んでいく無法者たちは、憐れみすら覚えるほど脆弱だ。
このコミュニティを助ける義理など毛頭ない。
俺はただ捕獲対象を確保し連れ帰るだけでいい。
だというのに、なにをしているんだ俺は。
苛つく。
ツヴォルフが言ったふざけた冗談が、頭から離れない。
苛立つ思考を落ち着かせるために、無法者どもをストレス発散の捌け口にしている。
だが、いくら無法者たちを仕留めようとも、まるで気分が晴れない。
……落ち着け。
おそらく、メインの捕獲対象であるNo.67-Jが見つからない焦燥感から苛立っているだけだ。
断じて、アイツの存在に固執しているわけではない。
それは、俺の役目には不要な思考だ。
「……早急に捕獲対象を確保し、任務を果たさなければ」
そうだ。なにも気に病む必要などない。
ただ使命を果たす機械になりきれば、なにも苛まれることなど無い。
こんな無駄な思考をする必要も、ない――――
「ひ、ひいいぃいいッ!!」
「に、逃げろぉおお! 追いつかれたら殺される!!」
「く、くそ! 聞いてねぇぞ! こんなバケモンがいるなんて!!」
「どきやがれ!! 邪魔スッとブチ殺すぞ!!」
叫び声を上げながら、こちらに向かってくる無法者どもの姿が見えた。
武器を振り回しながら、必死の形相でなにかから逃げ惑っている。
「どけぇええ!! ええ、え? あ?」
「あ、ら?」
「あぅ……」
……下手に接触されても面倒だ。
先ほど斬首した奴らと同様、首だけを転移して処刑した。
苦しむ間もなく、自分たちが死んだことにも気付かず呆然としたままの首が目の前に転がった。
随分と慌てていたが、このコミュニティの兵器かなにかから逃げてきたのか?
「待ぁぁあああてぇええええっっ!!」
「っ!?」
聞き覚えのある、女の叫び声。
その声を聞いただけで、身体が強張ったのが自分でも分かった。
無法者たちが逃げ込んできた方向から、一人分の人影がこちらに近付いてきたのが見えた。
それは、前髪の一部だけ黒い、銀髪の少女。
「今更逃げようったってそうはいかないわよ! 皆殺しに……げっ……!?」
「……No.67-J……!」
こちらを見た途端、明らかに顔を顰める少女。
ようやく発見した。これで任務達成の目途が立った。
……だというのに、蛇蝎の如くこちらを睨みながら顔を引き攣らせている少女を見ていると、酷く胸の内がざわついてしまう。
「……お前を、連れ戻しにきた。抵抗せず、大人しく捕まることだ」
「えーと、嫌だけど。てか、一つ聞いていい?」
「お前に、質問する権利など、ない」
「じゃあ勝手に聞くわ。……アンタ、なんでそんな顔真っ赤にしてるの?」
「!?」
顔が、赤い?
確かに、先ほどから、この少女の姿を見た時から、やたらと暑い気が、いや、熱い?
いや、まさか、そんなはずは……!
『お前、実はアイツの胸に顔を押し付けられて以来、ホの字なんじゃねぇのか?』
ツヴォルフの言葉が、頭の中でもう一度響いた気がした。
「そんなことは、ない! いいから余計なことを言わずにくるんだ!」
「いや、なにそんな必死に否定してるのよ……?」
……そんなこと、俺が聞きたいくらいだ。
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