再戦 容赦せん
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激高した様子で、No.4が火炎弾を放つ。
大小様々な炎の弾をばら撒いていてくる。
「ちょこまかしてんじゃねぇ! 大人しく焼け焦げろやぁ!!」
「っ……」
一見、怒り狂って炎弾を撒き散らしているだけのように見えるけど、違う。
遅く小さな炎弾をばら撒きつつ、ここぞというところで大きな炎弾を高速で撃ち出して緩急をつけてきたり、あるいはその逆。大きな炎弾に目をとられているうちに小さく速い炎弾をチクチクと命中させてきたりしてる。
さすがは人間。純粋に相手を殺すことだけに知恵と力を絞る異獣たちと違って、ねちっこいというかいやらしい戦いかたをしてくる。
ま、私が言えた義理じゃないけど。
「どうしたぁ! 手も足も出ないってかぁ!? 所詮ゴミはゴミに過ぎねぇみたいだなぁ!!」
「……くすっ……」
「……テメェ、なに笑ってやがる!」
「アンタ、顔真っ赤よ? あまりにも必死過ぎて、笑えてくるのも仕方ないでしょ」
「テ、メェ……!! 余裕ぶってんじゃ、ねぇぞゴミがぁぁあああっ!!!」
怒りで真っ赤な顔に、破裂しそうなくらいに太く血管が浮かび上がっている。
さっきまではまだ冷静に戦術を練るくらいの理性が残ってたけど、今はもう怒りにまかせて滅茶苦茶に炎を放つことしかしてこない。
煽り耐性なさすぎでしょ。
「くたばれ! 燃えろぉ!! 焼け焦げろぉぉぉおっ!!!」
「……手品はタネ切れかしら?」
「ああ!? ……あ、くっ、な、なんで、なんで火炎弾が出ねぇ! ……ま、まさか、マジカ切れか……!?」
アナライズ・フィルターの影響かステータスが確認できないけれど、どうやらマジカが切れて、ギフト使用不可能の状態に陥ったようだ。
やっぱコイツアホかな? そんなペースで撃ち続けてたらどうなるか分かりきったことでしょうに。
いや、マジカが切れたふりをして実は虎の子の一発分残ってるとかそういうパターンかもしれない。油断は禁物だ。
「そんな下手な演技しなくていいわよ」
「な、なに……!?」
「相手を罵ったのに軽くあしらわれて、逆に挑発されて激高した挙句ギフトの使い過ぎでマジカ切れに陥る バ カ なんているわけないでしょ。いいからさっさと撃ってきなさいよ」
「う、う、うぅうううるせぇぇええええええああああああああっっ!!!」
憤死しそうな勢いで絶叫しながら、こちらに向かって突っ込んできた。
え、まさかホントにマジカ切れなの? しかもその末に感情任せの特攻とか。
つくづく、バカね。
「死にやがれぇえ!! この、廃棄物がぁああっ!!」
「ふぅぅ……」
フェイントもなにもない、ただ力任せに放たれた右腕に向かって―――
「ぎぃいっ!!」
歯を食いしばりながら、頭突きを放った。
ベキベキョッ と嫌な音を立てながら、No.4の拳が砕け、指が変な方向へ曲がってしまった。
「ぐぎゃぁぁあああ!!?」
「すぅぅ……!」
砕けた拳を押さえながら悶えるNo.4の両肩を掴み、上半身を思いっきり後ろに逸らし、今度はNo.4の人中に向かって思いっきり頭突きをかましてやった。
「ぎぃぃいあっ!!」
「ゴビョアァアッ!!!」
前歯が折れて、鼻血を撒き散らしながら変な叫び声を上げて、地面に倒れ込んだ。
さっきまであんなにうるさく喚いていたのに、もう呻き声一つ上げずピクリとも動かない。
……やばい、殺しちゃったかな? あ、息してる。セーフセーフ。
んー、あのクソ施設の切り札、それも相当上位の戦闘員だからそれなりに警戒してたけど、正直言って拍子抜けもいいところだ。
ギフトの使いかたが上手いのは序盤だけで、ちょっと挑発してやったら馬鹿みたいに激高してお粗末な戦いかたしかできない。
膂力も貧弱で、ギフトを使うまでもなく頭突き二発でケリがついてしまった。
うむ、我ながら上出来かな。
毎日命がけで異獣と戦った甲斐があったということか。
これなら、人間相手ならたとえギフトをもっている奴だろうとそうそう後れを取ることはなさそうだ。
……さて、ぶちのめしたはいいけど、コイツどうしようか。
コミュニティに連行して拘束でもしておくべきか、それともここに放置しておくか?
このままだとそのへんの異獣に喰われるかもしれないけど、コイツあんまり好きじゃないし、放置でいいか。
でも顔に落書きはしておこう。今度のヒゲはグルグル巻きで、眉毛も繋げておこう。目の下には涙でも描いとくか。おろろーん。
ぶふっ。ちょ、ちょっとこれはひどすぎたかな……くくくっ……バカみたい。
さ、さーて、余計な邪魔が入ったから今日はもう帰ろうかな。
今日は異獣もほとんど見かけないし、収穫無しか。はぁ。
コミュニティへ帰ろうと歩き出したところで――――
「お、お姉、さん……?」
聞き覚えのある、か細く自信なさげな声が耳に入ってきた。
声がしたほうへ振り向くと、桃色の髪を揺らしながら佇んでいる小さな女の子の姿がそこにはあった。
……えー。なんでアンタもここにいるのー……?
「……半月ぶりね、No.77」
「! ……やっぱり、お姉さんなの……?」
え、なにその言いかた。そりゃしばらく会ってなかったから顔も朧気になってるかもしれないけどさ。
あ、いや、腕の人の影響で以前に比べて肉付きがよくなってるから分からなかったのも無理はないか。
この子も、最後に見た時に比べたら少しは顔色が良くなってるわね。ある程度まともに食べてるようでなにより。
「さて、なにをしにきたのかは分からないけれど、最初に一言いいかしら?」
「え……?」
「あの時、助けてくれてありがとう。私が今こうやってここに立っていられるのは、アンタが傷を治してくれたからよ」
どういうつもりで私に声をかけたのかは知らないけれど、とりあえずお礼は言っておかないとね。
それを聞いたNo.77が目を見開いた後に、顔を赤らめながらモゴモゴと呟きだした。
「あ、あう……わ、私のほうこそ、お姉さんが庇ってくれたから、助かったわけで、あの、その、……あ、ありがとう……」
煙でも出そうなくらいに顔を真っ赤にしながら、お礼を言い返してきた。
お礼一つ言うだけなのに恥ずかしがりすぎでしょ。なんだこの子可愛いなオイ。
「……では、本題に入りましょうか。このNo.4の話からして大体予想はついてるけれど、なにしにきたの?」
「あ、あの、お姉さんと、ツヴォルフさんっていう人を、施設まで連れて帰るように言われて……」
「で、はるばるこんなところまで来たっていうの? このザコと二人だけで? よくこれまで無事だったわね」
「ええと、No.1さんと、No.13さんっていう人も一緒だったから、それほど危険でもなかったの。でも、強風を操る異獣にみんな吹き飛ばされて散り散りになってしまって……」
おっと、No.1までいるのかよ。
アイツ、施設じゃ本調子じゃなかったから勝てたんだけど、万全の状態じゃ正直勝てるかどうか微妙そうなんだよね。
単純な膂力勝負なら負けないだろうけど、腕の人みたいに転移でこっちの身体を切り取られたりでもしたらヤバい。
「てか、アンタそんなことまでペラペラ喋ったりして大丈夫なの? 捕獲対象にあっさり情報与えてどうすんのよ」
「あ、ご、ごめんなさい……」
「いや、私に謝られても。……はぁ……」
ああもう、調子狂うなー。
どうもこの子、私を捕まえることにはあまり乗り気じゃなさそうね。
でも実験体だったころに少しは交流があったから、情に訴えて説得できないかって上層部が命令でもしてきたのかな。
そのためにこんな異獣の闊歩するような危険地帯に幼女なんか送り込むなよ。鬼畜か。いや聞くまでもなく鬼畜だったわ。むしろ腐れ外道ばっかだったわあの施設。
「あの、お姉さん。い、今のお姉さんなら、あの施設でも安全に暮らせると思うけど……」
「戻る気はないわ。あのクソみたいな場所で安全に暮らすよりも、危険だらけな今の生活のほうがずっとずっとマシよ」
「……そう、だよね……うぅっ……」
とりあえず申し訳程度に説得してきたけど、ばっさり切られて轟沈するNo.77。
説得が失敗して半泣きで項垂れているのを見ると、なんだかこっちも申し訳ない気分になってくる。
でも、こちらもこればっかりは譲るつもりはない。
あの施設に戻るくらいなら、今の生活を続けた末に異獣に喰われて死んだほうがマシだ。
この自由気ままな生活を壊そうとするのなら、たとえ命の恩人だろうとも、絶対に許せない。
「さて、説得が失敗したってことは、アンタはこれから腕ずくで私を捕獲しなきゃいけないわけだ」
「ふぇ……!? え、い、いや、でも……!」
「悪いけど、たとえアンタでも容赦はしないわよ。……覚悟なさい」
「あ、あ、ま、待って、お、お姉さん……!」
「問答無用!」
地面を蹴り、猛スピードでNo.77に向かって突進し、そのまま地面に向かって押し倒した。
「きゃぁああっ!!」
叫ぶNo.77に馬乗りになって、いわゆるマウントポジションの状態になった。
私とこの子の体格差なら、ギフトでも使わない限り脱出は不可能。
殴ろうが締め落とそうが、好き放題できる。
「さて、これから自分がどうなるか、分かるかしら?」
「ひ……! や、やめ、て……!!」
「……恨むなら、アンタに命令を下したクソ施設のクソ上層部を恨みなさい」
「い、いやぁああああ!!」
こちょこちょこちょこちょこちょこちょ。
「あははっ! あははははっ!? ちょ、ちょっと!? なに、あひゃははははっ! してる、のほほほははははっ!?」
脇の下やら足の裏やら、全身くすぐりの刑に処す。
しばらく笑い転げて反省するがいい!
「ほーらこちょこちょこちょ、こっちはどうかしらー?」
「あひょほほほほはははははっ!!? お、おね、ひぇひょほほほ! や、やめてぇえあぁははははははははっ!!!」
それからしばらくの間、荒野に幼女の笑い声が絶え間なく響き渡り続けた。
私の邪魔をするとどんな目に遭うか、存分に味わうがいい。
お読みいただきありがとうございます。




