働かざる者食うべからず
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今日も今日とて異獣狩り。
あんまり強い異獣を捕まえて帰るとまた所長が心配して怒ってくるかもしれないから、先日のサイより弱めの異獣を持って帰ろうかな。
でもそこそこ強いのを見かけたらこっそり倒していただくとしよう。
先日手に入れた『磁力付与』だけど、Lv1だと正直微妙。
というのも、サイは『+』と『-』の磁力を複数の物体に付与して引力や斥力を発生させていたけど、今の私には一つの物体にしか付与できないっぽい。
最低でも二つ以上の物体に付与できないと死にギフトもいいところなんですがそれは。……地道に鍛えてレベルを上げていくしかないか。
ギフトを鍛えるといえば、『膂力強化』がいつの間にかLv2に上がってた。
これまで身体全体を強化するしかできなかったけど、部分的に強化することができるようになって、消耗が少なく燃費のいい運用ができるようになった。
レベルが上がった時点でなにができるようになったのかなんとなく分かるようになるんだけど、どういう仕様なのかしらね。
吸収したギフトでも、何度も使い続けて鍛えればレベルが上がる。
異獣との戦闘以外でもこまめに使って鍛えていけば、大きな武器になるだろう。
……この『磁力付与』も、今はゴミだけどレベルが上がれば便利そうだ。今はゴミだけど。
今日はコミュニティの近くをうろついていたネズミっぽい異獣を捕まえてきた。
『速度強化Lv3』を取得していたからとにかく速い速い。ま、基礎能力が低めだったから私の敵じゃなかったけどね。
……ちょっと左手を噛まれたけど、変な病気とかはもらってないみたいだ。あいたた、でもやっぱ痛い……。
今日の分の報酬をいただいてから、ちょっとお買い物をしにバラックの商店街へ。
食べ物も気になるけど、狩りに使えそうな道具や装備を購入しておきたい。
特に刃物が欲しい。こないだのサイの皮とか、歯で食い千切るには硬すぎだったし……。
でも、よく考えたら並の刃物じゃ異獣に傷をつけることは難しいか。……なんかいい素材でもないかなー。
とりあえず、摂食吸収をする際に皮を剝いで肉を齧りやすくするため、ナイフを購入。
小ぶりだけど切れ味は良さそう。異獣相手に使えるかは微妙そうだけど、まあ無いよりマシか。
前のコミュニティと違って、人も物も比較的豊かに見える。
このコミュニティ内部の土壌は、まだある程度養分が残っているのか植物の栽培をしているところもちらほら見える。
ここでは栽培した木の実や野菜、あるいは果物なんかを売っている店もある。
自前で栽培している分、新鮮さが違うなぁ。前のコミュニティじゃ植物と言ったら乾物くらいしか売っていなかったからね。
でも今日は果物や野菜よりもパンが食べたい気分。
前のコミュニティで一度だけ食べた、小さなパンの味は今でも鮮明に思い出せる。
腕の人の味に比べたら土くれ同然とか言ってたけど、ごめんなさい。過言でした。謝るから食わせろ。
パンをいくつか買って、今日はもう帰ろう。
それにしても、パンに使う小麦粉やイースト菌なんかも保管してあるものを使用しているのか、それともこれらも栽培しているものを使っているのかな? 謎だ。
それでは、歩きながらいただきます。
モフモフ、うん、柔らかいしほのかに甘みがあって美味しい。
浮浪児だったころに食べた時と変わらない、幸せの味だ。
……なのに、どこか物足りないと感じてしまうのはなんでだろうか。
あの茶髪と一緒に肉とか食べてたし、舌が肥えてしまったのかな。我ながら贅沢な。
それでも、以前までの私にはこうして当たり前のように食べられるのが考えられないほどのごちそうであることには変わりないわけで。
それに、パンはそのまま食べる以外にも使い道がある。
腕の人の知識にある使いかたを試してみたいけれど、まだまだ足りない材料がわんさかあるし、今は我慢だ。
さて、二つ目もいただきますか……
「っ!」
「急げ! 走れっ!」
パンの入った紙袋が、私の手から離れた。
それと同時に、二人の子供が大声を上げながら走り去っていく。
その懐には、さっきまで私が持っていた紙袋が。
……これはアレか、ひったくりというやつか。
走り去っていく姿を見るに、多分あの子たちも浮浪児だと思う。
No.77と同い年くらい、いや片方はもっと幼いかな。兄弟か、あるいは兄貴分と舎弟かな。
こんな手段をとることでしかご飯を得られないなんて、若いのに苦労してるみたいね。
まあ、今回くらいは見逃してやるか。あの子たちと違って、今の私ならすぐにお金を稼いで買い直すこともできるし。
と言うとでも思ったか。
絶対に逃がさんぞ! じわじわと追い詰めてくれる!
食べ物の恨みは恐ろしいということを骨身に染みさせてやるわ!!
「待ぁぁぁぁちなさぁぁぁぁぁあああいっ!!!」
「ひぎゃぁぁぁああああ!? に、にいちゃん! さっきのねえちゃんがスゲー勢いで追っかけてくるよぉ!!」
「うわ、速っ! ってか怖ぇぇえええ!? ナル、絶対に追いつかれるな! 捕まったら殺される!!」
殺しゃしないわ、ちょっと捻るだけよ! むしろ捻じる! 捻じり上げる!
今の私の身体能力は常人の比じゃない。小さな子供相手に大人げないけど、ちょっと走ればすぐに追いつける。
「わっぷ!?」
「うわぁっ!」
「……捕まえた」
首の後ろを掴んで確保。往生しなさいドラ猫ども。
手を離して尻もちをつかせた隙に、ひったくられた紙袋を奪い返した。
「ったく、これは返してもらうわよ」
「……頼む! 盗もうとしてこんなこと言える立場じゃないことは分かってる! でも、どうか、こいつの分だけでも分けてやってくれないか!」
「に、にいちゃん……」
……。
ふ、ふふふ。なんかもう、呆れるのを通り越して笑えてきたわ。
「こいつ、もう何日もなにも食べてないんだ! ほんの一つでいい、どうか―――」
「懇願する前に、まず筋を通しなさい」
「……え……?」
「『人のものは勝手にとっちゃいけません』って、誰からも教わらなかったの? そして、悪いことしたら頼み事する前にまず言うべきことがあるでしょう」
「……あ、ご、ごめん、なさい……!」
兄貴分のほうを責めていると、弟分のほうが謝ってきた。
……この子は謝ってきた分、まだマシか。
「ほら、弟だかなんだか分かんないけど、こんな小さな子でも分かってるじゃないの」
「た、確かに盗もうとしたことは悪かった。ごめん、謝るよ。でも、おれたち、食べるものも住むところもないんだぞ。そんなに食べ物を買えるくらい稼いでるなら、少しくらい分けてくれたっていいだろ……?」
「謝るのと一緒に突っかかってくるな。逆ギレするな」
なかなかの厚顔ぶりね。肝っ玉が太いというか、いや単に図太いだけか?
生きるのに必死だってのは分かるし、空腹がつらい気持ちも嫌になるほど分かる。
だからこそ、教えてあげなきゃならない。
世界は残酷で、弱い者に手を差し伸べてくれたりしないんだっていうことを。
「このパンを買うために私がどんな仕事してるか教えてあげようか? このコミュニティの外へ出て、バケモノみたいな生き物をとっ捕まえてくる仕事よ。それも生きたままでね。それがどれだけ危険な仕事か分かる? ご飯が欲しければ働いてお金を稼いで自分で買いなさい」
「っ……! お、おれだって、自分で働いて稼ぎたいよ! でも、力もなけりゃ頭も悪いし、なんもできない! 働こうと思ったって、こんなガキを雇ってくれるわけが……」
「そうでもないわよ。ここのコミュニティは働き口が多いし、子供にもできる仕事もあるにはあるわ」
前のコミュニティは人も物も少ない分、雇ってくれるようなところがまるでなかった。
それに比べて、ここは日雇いの仕事や簡単な仕事ができそうなお店や施設がわんさかある。
子供だから力も知識もないし歓迎はされないだろうけど、根気強く頼めば雇ってくれそうなところはいくらでもある。
「もちろん、大人と違って非力だから嫌な顔をされるでしょうね。上手くいかないことだらけだろうし『なにをやってるんだ』って罵られることもあるでしょう」
「う……」
「怖い? じゃあ聞くけど……その子と一緒に飢え死ぬのとどっちが怖い?」
そう言うと、ハッとなにかを悟ったように目を見開いた。
……数日前まで私も似たようなもんだったし、こんな説教なんかする筋合いないだろうけどね。
でも、こんなことを繰り返してたらいずれ捕まるのは目に見えてるし、……最悪、私を庇って死んだあの男の子みたいな目に遭うかもしれない。
赤の他人とはいえ、さすがにそれはちょっとねー。
私のクソみたいな説教を聞いて、考え込むように項垂れてしまった。
思ったことをそのまま口にしただけだから、そんな深く考えなくてもいいのに。
ま、すぐに自分から『働かせてください』って言う勇気がないのは分かるし、ここは助け船を出しますか。
「じゃあ、早速働いてみる?」
「え、で、でも、どこで……?」
「そもそも、雇ってくれる人なんかいるのか……?」
「簡単よ。ここで、私のために、働いてみなさい」
路地裏の適当なスペースに野宿用の簡易寝具を敷いて、その上に横になった。
例の四次元謎バッグの中には私の生活必需品が詰め込んであるから、こういう時にすぐ準備できるのは便利よね。
さーて、こちらも連日異獣と戦ってて色々溜まってるし、精々解消させてもらいますかね。
急に寝具に寝そべったのを、ドラ猫兄弟(仮名)が困惑したような様子で見ている。
いや、別に変なことするわけじゃないよ? ちょっと気持ちよくさせてもらうだけだから。
……この言いかただと余計に変な誤解されそうね。
お読みいただきありがとうございます。




