今後の方針
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「……」
「……」
シャワー室にて、無言かつ全裸でフリーズして見つめ合う二人。
私の目の前には、恥ずかしげもなくすっぽんぽんの姿を見せている金髪碧眼少年。
歳は、私より五つくらい下かしら。
……どうしてこうなった。いやホントどうしてこうなった。
いやいやいや、まさかここの施設のシャワーって男女兼用なの!? ちょっと色々とオープン過ぎないかしら!?
「……こっちは男性用。女性用は入り口が違う」
「え、あ、……え?」
「青い入り口は男性用で赤い入り口が女性用。君は女性だから、こっちじゃなくて女性用に入るべき」
「あ、はい、ごめんなさい」
淡々と言葉を重ねる金髪少年に思わず謝りつつ、シャワー室への扉を閉めた。
……こっち、男性用だったんだ。なにやってんの私は。
てかさっきの男の子、こっちの裸見ながら無表情のままで特に恥ずかしげもなく注意してきたわね。
ま、まあ、あれくらいの歳なら女の裸を見てもなにも感じないか。
断じて私に魅力がないというわけじゃない、はず。多分。こんなに立派な重量物が実ってるわけだし。
……別になんの反応もなくてちょっと落ち込んだりしていない。断じて。
とか自分でも訳の分からない思考を巡らせていると、さっきの男の子が扉を開けて更衣室に入ってきた。
ちょ、まだ出ていってないし私全裸なんですけど! くんなし! こっちくんなし!
「……」
内心テンパりまくりな私とは対照的に、無表情のままで目の前を歩いていく金髪少年。
アンタよく裸のままで恥ずかしげもなく歩けるわね。せめて前を隠しなさいよ。いや、私も人のこと言えないかもしれないけどさ。
とか思ってたらいつの間にか更衣室から出ていってしまった。着替えるの早いわね。
ううぅ、なーんで男性用のほうなんかに入っちゃったかなー……。こういう場合は『青か黒は男性用で赤が女性用』っていうのはなんとなく分かっていたつもりなのに。
あ、もしかしてこれも腕の人の知識か? あの腕を見る限りじゃ腕の人は男性っぽいし、もしかしたら無意識に男性用のほうへ入る癖が私にも染みついてしまってたとかかな。
おのれ腕の人。許さん。アンタのせいで大恥かいたじゃないの。ファッキン。
にしても綺麗な身体してたなー。
いや違う別に私はショタコンじゃない……ショタコンってなんだ? いやなんとなく意味は分かるけど違う! そういうことじゃない!
……身体のどこにも、小さな傷も古傷も、シミ一つすらなかった。
ちょっと不自然なまでに、綺麗すぎたように思えた。このご時世に、そんな無菌室で育ったような身体でいられるものなんだろうか。
え、そこまで分かるくらい凝視してたのかって? いや脳がフリーズして変な風に映像が目蓋に焼き付いたからであって決して見たくて見てたわけじゃ(ry
……私もさっさと女性用のほうへ行こう。
女性用のシャワー室へ入り直して、蛇口を捻る。
冷たいシャワーをしばらく我慢しながら浴びていると、どんどん温かくなっていくのが分かった。
こ、これは、まさか温水設備まであるの……!? どうしよう、本当にここで雇われてもいいと思えてきたかもしれない。
くっそ、なにからなにまで恵まれてて、あったかいなぁ。
こうして温かいシャワーを浴びていると、あの女所長やここの人たちを怪しむ気持ちがどんどん薄れていくのが自分でも分かる。
……でも、これまで私に関わってきた奴らは、蔑んだり裏切ったり、害することばかり与えてきた。
そうじゃない人たちもいるにはいる。茶髪やNo.77、……そして、私を庇って死んでしまったあの男の子。
世の中悪い人だけじゃないってことも、分かってる。
それでも、そう簡単に人を信じられない自分がいるのもまた事実なんだ。
いや、違う。
単に怖いんだ。
人を信じて、裏切られるのが。
最初から誰にも頼らずに生きていけば、なにも期待しないでいられるし、裏切られることもない。仲間なんていないんだから。
仲間なんて作っても、いずれ裏切られるか死なれるだけ。
昔、食料を盗み出そうとした時に、そう学んだじゃないか。
この施設の設備なんかは確かに魅力的だ。
シャワーや寝床が利用できるというだけで、ここに住みつきたくなってくる。
人と関わらずに、なおかつここの設備を利用できるのが最善なんだろうけど、そんな自分勝手で都合のいい話はないだろう。……どうしようかな。
シャワーを浴びながら今後のことを考え続けていたけど、どうにも方針が定まらない。
ここで生活したいという気持ちと、人に関わりたくないというわがままが反発してるせいだ。
……我ながらメンドクサイ。拗らせてるなー……。
湯冷ましに休憩スペースの椅子に座ってしばし休憩。
ボーっとしていると、周りの人たちの会話が耳に入ってきた。
資材の搬入がーとかデータの整理はどうなってるーとか仕事関連の話から、他のコミュニティで変な黒髪のオッサンが商売を始めたらしいとか、新しい料理のレシピ本が発掘されたとかちょっと気になる情報まで様々だ。
……中には私と茶髪のことを噂している人たちもいたけれど、顔を逸らしてスルー。関わりたくないし。
そんな会話の中で、特に耳寄りな話がいくつかあった。
「家なしの子たちへの食料の配給、段々少なくなっていってるらしいな」
「今の状況じゃ仕方ないけど、このままじゃ飢え死にする子も出始めるかもしれないな。可哀そうに……」
「今栽培をしている作物だけじゃやっぱ足りないよなぁ。もっと手早く量が採れて、栄養豊富な作物の種でもあればいいんだが」
「そんな都合のいいものがあるならとっくに栽培してるだろ。他のコミュニティにも種を分けてもらえないか相談してるらしいが――――」
うーわ。なにそのタイムリーな話題は。
持ってるよ、私持ってるよ。ジャガイモとサツマイモの種芋持ってるよ。
どっちも救荒作物だから比較的容易に栽培できるし、収穫時期も早くて栄養価も高い。
促成栽培の設備があれば、さらに短期間で大量生産することもできるだろうね。
「異獣のサンプルがそろそろ尽きそうになっている。早急に捕獲しなければ」
「でも、生け捕り用の捕獲弾のストックがもうないし、新しく作ろうにも素材が……」
「『アクエリアス』じゃ『ギフト・ソルジャー』っていう部隊が異獣を捕獲しているらしいけど、こっちにはそんな人間兵器みたいな部隊はないしねー」
「この間保護した『あの子』だったら異獣にも対抗できるかもしれないけど、でもあんな小さい子を危険に晒すわけにもいかないしなぁ……」
ふむふむ、異獣の研究施設なんだからそりゃ異獣の生体標本は必要だよね。
でもそれを捕まえるための道具がもう残ってないから困っていると。
これも有用な情報だ。今の私なら、異獣を叩きのめして捕まえることくらいはできるだろう。
人に関わるのは避けたいけれど、情報を得るにはやはり他人の話している内容を把握する必要があるわね。
んー、漠然とだけれどこれからどうするべきかちょっとまとまってきたかもしれない。
ひとまず晩御飯を食べてからひと眠りして、さっきの女所長に相談するとしよう。
こっちの意見が通らなかったら、その時はその時だ。
さっきの女所長に手配してもらった晩御飯は、クソ施設にいたころの私なら涙流しながら食べてたんじゃないかってくらいには美味しかった。
量も空腹から解放されるには充分なほどあったし、まあ満足。
欲を言えば動物性たんぱく質がほしいところだけど、これ以上を望むのは贅沢が過ぎるというものだ。
……あの腕を食べて以来、なんだか食欲が増している気がする。腕の人は食いしん坊なのかしら。
与えられた寝床は、真っ白なシーツに包まれた分厚いベッドだった。
毛布までついている親切っぷり。
あ、ダメだ。寝ながら考えをまとめようとか思ってたけど、恐ろしく快適なベッドのせいで強烈かつ優しい睡魔がぁ……。
登場人物紹介
ツヴォルフ
年齢は二十代前半くらいで中背中肉。ロナより10~15cmくらい高い程度。
元はロナ同様、身寄りのない浮浪児。
食料を手に入れるために例の施設に侵入し、あっけなく捕獲され実験体にされる。
『適合試験』にて比較的高い適合率でギフトが発現し、『未来視』と『速度強化』を扱えるようになる。
しかし、半端に適合率が高いだけで膂力が低く戦闘能力が低いため、戦闘員ではなく研究員として登用されることになった。
ギフトを活用しつつ日々の業務で功績を重ねていった結果、一等研究員にまで上り詰める。
しかし、なんの楽しみもなく、また自分と同じようにモルモットとして扱われて死んでいく実験体たちを見殺しにしなければならない状況に辟易する日々を送っていたところで、他のコミュニティから裏切り《ヘッドハンティング)の誘いを受け、これを承諾。
その後はロナとともに施設を脱走し、コミュニティ『パイシーズ』の研究施設に再就職される形に落ち着いた模様。
未来視のギフトは極稀に自動で発動することがあり、そういう場合は大抵大きな事件や厄災が起こったりするらしい。
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