到着
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「あ、あれが、アンタの言ってた、コミュニティ……?」
「お、おう。や、やっと、辿り着いた、ぜ……」
半死人の様相で肩を並べながら、遠くに見えてきた高い壁に囲まれた場所を眺めながら呟く。
異獣に襲われて何度も死にそうな目に遭いながら、やっとここまでこれた。
基本的に格上の異獣からは逃げて、格下で倒せそうなやつは狩って食料にする、といった具合に相手を選びながら戦ってきたけど、さすがに疲れた。
何度も異獣と戦った甲斐あって、分かったこともいくつかあったけどね。
まず『摂食吸収』の特徴。
箇条書きにしてみると、こんな感じ。
① 相手の能力値やギフトを吸収するには、『新鮮な血肉』をそのまま直接食べる必要がある。
要するに、生きてる異獣の肉を食い千切ったりとか、あるいは仕留めた直後の肉を食べれば吸収できる。
焼いたり茹でたりした肉を食べても駄目っぽい。なんでわざわざ生肉なんか食べなきゃいけないのか……。
あと死んでから時間が経ちすぎた肉も駄目。大体1時間くらいで吸収できなくなるみたいだ。
② 肉を食べた際に、『ギフト』は必ず吸収できるとは限らない。
あのデカ鳥や恐竜みたいなヤツに襲われた後にも、何度か異獣と戦って肉を食い千切ってみたけど新たなギフトは手に入らなかった。
成果と言えば、多少膂力や特殊能力の値が上がったくらいだ。
ギフトを吸収できる条件は今のところ不明。運次第なのか、それともなにか法則があるのか。要検証。
③ 相手のランクや能力値が高ければ高いほど、吸収できる量も多くなる。
弱い異獣からどれだけ肉を食い千切ってもあまり能力値は上がらなかった。
あと『摂食吸収』の特性なのか、最初の一口分しか能力値上昇判定はでないっぽい。
つまりお腹いっぱいになるまで新鮮な生肉を食べ続けても能力値が大幅に上がったりはしない。最初の一口以降に食べた分は無駄。
『摂食吸収』で吸収できる割合も結構振れ幅が大きく、食い千切った相手の能力値を大体1~5%ほど吸収できるみたいだ。
『摂食吸収』で分かったことは今のところこんな感じ。
ギフトのレベルが上がれば、また新たな効果が追加されるかもしれない。今後も積極的に異獣の肉を食い千切っていこう。
『逶エ謗・謫堺ス』のほうは、『マジカを大幅に消費してギフトの効果を強化できる』こと以外はイマイチ分からない。
もしかしたらこれが『腕の人』のギフトなのかもしれないけど、なんというか底が知れないというか名状しがたい『なにか』を感じる。
これを完全に扱えるようになればあるいは『腕の人』の強さに近付けるのかもしれない、けど。
……このギフトは正直言ってちょっと不気味だ。得体が知れないし、文字化けしてるし、完全に理解したら発狂とかしそうで怖いわ……。
ホントに腕の人って何者なのかしら。
私の能力値がゴミみたいな数値から一気に300を超える値まで上がったことを考えると、腕の人の能力値の高さがいかに異常なのかが分かる。
それだけ強ければ、きっと自分の思うがままなんの障害もなく生きられるんでしょうね。羨ましいわー。
あと、異獣を殺しても能力値が上昇するっぽい。
茶髪いわく、異獣を殺すとそのエネルギーの一部を取り込むことができるらしい。
『摂食吸収』みたいにギフトは吸収できないけど、そのかわり『適合率』が上がっていくんだとか。
『適合率』が上がればギフトのレベルも上がりやすくなるし、新たなギフトを獲得することもある、っていう話だ。
……私の適合率とランクの値、黒塗りされてて分からないんですがそれは。
つまり、私は『摂食吸収』と『異獣の殺害』という二つの成長手段があるというわけだ。
おまけにギフトも吸収できるから、普通の人間と比べてかなりアドバンテージがある。
このまま色んな異獣を食べたり倒したりしていけば、もう自分の弱さに泣くこともなく毎日美味しいものをお腹いっぱい食べられる日々を送れることだろう。
ふふふ、やっと運が向いてきた。これまでの苦労がようやく報われそうねーふふふー。
「どうした、渡したメモ帳を眺めながらニヤニヤして」
「……別に」
おっといけない、これまでの記録を読み返してたら表情が緩んでいたみたいだ。
茶髪が怪訝そうな顔でこちらを見ている。……そんな胡散臭そうな目で見ないでよ。
ようやく目の前までコミュニティの外壁が近付いてきた。
中の様子は見えないけど、前のコミュニティに比べてどんな感じなのかしら。
『そこのお二人、止まりなさい!』
外壁まであと10mくらいのところで、備え付けられているスピーカーから声が響いた。
少し厳しめに制止を促す女性の声。ジヴィナのイヤミったらしい濁った声と違って、澄んだ綺麗な声だ。
『二人だけ、それも徒歩で? ……このコミュニティに、なにか御用ですか?』
「ああ。こちらの声は聞こえるのかな? コミュニティ『アクエリアス』から来たツヴォルフという。ここ数日の間に来るとそちらの監督官に連絡をとっているはずだが、確認願いたい」
『監督官に? ……畏まりました。そちらでしばらくお待ちください』
おいおい、壁の外って異獣が徘徊する危険地帯なんだぞ。そこで待てとか鬼畜か。
いやまあその危険地帯を何日も歩き続けてたわけだし、今更感はあるけどさ。
「連絡なんかとってたんだ」
「ああ。施設で働いていた間に、密かに潜入していたこのコミュニティの職員がコンタクトをとってきてな。『取引をしよう』って」
「どんな取引を?」
「『倫理的にウチのコミュニティじゃできないような実験のデータを盗み出して、こちらに運び出してほしい』ってな。向こうもよくできた変装をしながら潜入していたみたいだが、ある程度高い立場の職員じゃなきゃ得られないようなデータを得ることは難しかったようでな」
「そこで、アンタに?」
「そういうことだ。一等研究員以上で、施設でやってることや今の状況に不満を抱いている人間を『運び屋』として選んで、白羽の矢が立ったのがオレってわけ」
「よくそんな人間を特定できたわね。あの施設で『今の待遇に不満はありませんか?』なんて聞いたらそれだけで通報されそうなのに」
「いやー、その潜入職員も中々のやり手でな。なんと『酒』を出してきて晩酌に誘ってきたんだよ。……で、酔っぱらった勢いで『この施設は人でなしの集まりだー』とか『オレも元は実験体だった』とか、『もっといい待遇を受けたい』とか愚痴りまくっちまって……」
「あー、それで『コイツ簡単に裏切りそう』って思われて、取引を持ちかけられたわけね」
お酒の話が出た時に露骨に顔を逸らしたわね。まともな娯楽のないあのクソみたいな施設でそんな嗜好品出されたらそりゃ飛びつくか。
お酒ってどんな味なんだろう。飲むと気分がよくなったり悪くなったり吐きそうになったりするらしいけど。……ちょっと興味あるかも。
「他のコミュニティと行き来できるような人なら、その人に護衛してもらえばよかったのに」
「そいつは潜入とか隠密行動に特化したギフトの持ち主でな。単独行動かつ本気で隠れれば誰にも見つからずに行動できるが、オレが一緒に行動してたらコミュニティに辿り着く前に異獣に襲われて終わりだ」
「……データを盗み出したアンタを殺してデータだけを持ち出そうとか考えなかったのかしら」
「発想が外道すぎるだろ。そういうこともこのコミュニティじゃ基本的にNGらしくてな。そういったことも加味して考えた結果、少なくともあの施設よりはマシな場所だと思って、話に乗ることにしたんだ」
人殺しはダメだけど、データの泥棒はいいってか。
完全にシロってわけじゃないけど、あのクソ施設よりは確かにマシそうね。
雑談しているうちに、スピーカーからノイズまじりの声が響いた。
『お待たせいたしました。監督官への確認、およびステータス情報の確認完了。入り口を開きますので』
外壁の一部が割れて、中への入り口が開いていく。
どうやら無事に入ることができそうね。
「例のフィルターを着けてるはずなのに、なんでステータスが分かったのかしら」
「人の手で作ったものは、人の手で攻略できるってこった。大方、フィルターを貫通してステータスを確認できる設備でもあるんだろ」
『ツヴォルフ様および護衛の方、どうぞ中へお入りください。ようこそ、コミュニティ『パイシーズ』へ』
完全に入り口が開いたところで、再びスピーカーから中へ入るように催促が入った。
……さて、どんなところなのかしらね。
とりあえす、ちゃんとご飯が食べられる環境だといいのだけれど。
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