命名
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お読みくださっている方々に感謝します。
……もう予約投稿なんかしない。諦めた(´;ω・`)
なーんで即投稿の癖が治らないかなー……。
穴だらけの壁から差しこんでくる朝日の眩しさに起こされて、目が覚めた。
身体が軽い。実に清々しい気分だ。
しっかり食べて眠るだけで、こんなに体調がよくなるなんて。また新しい発見をしてしまったわ。
「ううぅぅ……残務が……また残業………」
……その爽やかな気分に水を差すような、今にも死にそうな呻き声が隣から聞こえてきた。
茶髪男が布団に包まりながらうなされてる。せっかく脱出できたっていうのに、まだ施設で働いてた時の夢でも見てるのかな。
謎知識によると、こういうのを『社畜』と呼ぶらしい。……なんだか聞くだけで可哀そうになってくる響きね。
「朝よ、起きなさい」
「いって!? け、蹴って起こすなよテメェ……!」
茶髪をモーニングコール(物理)で悪夢から解放してあげて、とりあえず朝御飯の準備。
メニューは昨日の焼き鳥と、種芋のサツマイモを焼いてみたやつだ。
味は、……焼き鳥はともかく、サツマイモのほうはなんか期待外れ。まあ正しい調理してないから仕方ないか。
「んー……この芋、焼ける匂いは香ばしいけど実際食べてみると硬いしなんかパサパサしてるし味気ないな」
「焼きかたが雑だからね。ゆっくり時間をかけて熱すれば、ホクホクしてすごく甘くなるらしいけど」
「え、なんでわざわざ雑に焼いたんだ?」
「美味しく調理しようと思ったら、軽く1~2時間くらいかかるのよ。そんな時間の余裕ないでしょ」
「……なんでそんなこと知ってんだ?」
「あの腕をいただいてから、そういった謎の知識が新しく書き込まれたみたいなのよ。大半が意味の分からない知識ばっかりだけど」
「知識を書き込む機械みたいにか。……またあの地獄の激痛でも味わったのか?」
「いや全然痛くなかったけど、なんか滅茶苦茶くすぐったかった」
「意味分からん……」
あのくすぐったさは本当になんだったのか。謎だ。
……異獣の血を取り込んだ際、拒絶反応が起こった場合に起こる激痛が異獣の細胞による攻撃だとしたら、あの腕を食べた時のくすぐったさは腕の人の細胞によるマッサージみたいなものだったのかしら。
こう『肩の力抜けよ』みたいな。……おかげで一生分笑い転げて死ぬところだったわ。
朝御飯を済ませて、寝具を畳んで謎バッグに収納し、出発進行。
気温は少し肌寒いけど、ほどよく日が照っていて温かい。
長時間歩くのにはまあ悪くない天気かな。
「次のコミュニティまで、あとどれくらい?」
「まだ半分もいってないな。今日一日歩き通してまたどこかで一泊して、明日の昼頃には着くんじゃねぇかな。はぁ、また長距離競歩かよ」
「逆に言えば、今日と明日頑張ればいいってだけでしょ。愚痴言ってないで歩くわよ」
「前向きだねぇ。ガリガリだったころとは似ても似つかねぇなぁ」
自分でもそう思う。
こうなる前までは『食べて、生きる』ことくらいしか考えてなかったけど、今じゃなにをするにしても色々と考えるようになった。
たとえばただ歩いているだけでも、隣で歩いている茶髪のこれまでとこれからのことがちょっと気になるとか。
「そういえば、アンタの名前ってなんだっけ?」
「ステータスを見てなかったのか? ツヴォルフだよツヴォルフ。どっかの言葉で『12』って意味らしい」
「12ねぇ。元実験体だったころは『No.12』だったんだっけ?」
「ああ。意味は一緒だけど、その番号で呼ぶのはやめてくれよ。あいつらにつけられた番号なんか、無機質で気持ち悪いんだよ。呼び方が違うだけで大分印象が違ってくるだろ?」
「同感ね。私も『No.67-J』なんて名前、正直言って嫌いよ」
「じゃあ、お前も自分で自分の名前をつければいいだろ」
「……名前って、どうつければいいのよ」
「そんなもん適当でいいんだよ。オレなんか意味が一緒なのになんかカッコよさげだからツヴォルフにしよう、みたいなノリで改名したんだぜ? アタマに浮かんだ言葉で『これだ』って思ったヤツでもつけときゃいいんだよ」
適当ねぇ。そう言われても、なかなかいい名前なんて急に浮かんでこないんだけど。
「うーん…………『げろしゃぶ』……これはない。……『ゴンザレス』……ゴツすぎ。……『ヒヨ子』? ……なにコレ」
「……ネーミングセンス最悪だなお前」
「うっさいわね! なんか名前付けようとすると意味分かんない単語がノイズみたいに浮かんできて、頭の中がゴチャゴチャになってまとまらないのよ!」
「例の謎の知識ってやつの弊害かなんかか? 人格を侵食でもされてんじゃねぇのかそれ」
なにそれこわい! それって腕の人に人格乗っ取られつつあるってこと!?
……落ち着け、私は大丈夫だ。多分。あの腕を食べて以来、割と人格が激変しつつある自覚はあるけど大丈夫だ。……ホントに大丈夫か?
「……駄目ね、決められない。まともな名前になる気がしないわ……」
「そんな深く悩むようなことじゃねぇだろうに。……んー、そうだな」
顎に手を当てて、私を眺めながら考え込んでいる。
もういいよ。しばらくはNo.67-Jの名前に甘んじることにしよう。
とかあきらめモードに入っていた私に向かって、茶髪男が口を開いた。
「『ロナ』 でどうだ?」
「……ロナ?」
「ああ。No.ロクナナから頭一文字ずつとって、ロナ。シンプルで呼びやすいし、響きも悪くねぇだろ」
「……単純な名前ね」
「『げろしゃぶ』よかマシだろ。で、どうなんだ?」
………。
なんだか気恥ずかしくなって、顔を逸らしてしまった。
『アナライズフィルター』を取り外して、そっぽを向いたままちょっと早歩きして、茶髪から少し離れた。
「なんだ、嫌なのか?」
「……ステータスでも見てみれば?」
「あん?」
首を傾げながら声を漏らしつつ、私にアナライズを発動しているのか目を細めながらこちらを凝視している。
ロナ
ランク■
状態:正常
【スペック】
H(ヘルス) :357/364
M(マジカ) :331/334
S(スタミナ) :328/341
PHY(膂力) :401
SPE(特殊能力):421
FIT(適合率) :■■%
【ギフト】
摂食吸収Lv1 逶エ謗・謫堺スLv■ 膂力強化Lv1 火炎放射Lv1
「……ははっ。なんだ、気に入ってるんじゃねーか」
「……うるさいわね。あの無機質な番号や私のネーミングよかマシだから採用してあげただけよ」
「へいへい。お気に召したようでなによりで、お嬢さん」
肩を竦めながら、茶髪が微笑ましいものでも見るような目でこちらを眺めている。やめろ。
この名前が気に入ったかって? 冗談。単純だし意味も番号のイニシャルを繋げただけじゃないの。
でも、この名前を付けてもらった時に、産まれて初めて『ヒト』として認められたような錯覚を覚えた。
……正直言って、すごく嬉しい。自分でも驚くくらい、心が躍っているのが分かる。
この嬉しさを忘れたくないから、この名前に決めた。
ま、まあ、コイツの言う通り響きは悪くないし、これでいいか。
……くっそ、口がニヤつくのが抑えられない。
名付けられただけなのに、なんでこんなに嬉しいのよ、チクショウ。
「そんじゃ、名前も決まったことだしあらためてよろしく頼むぜ、ロナちゃん」
「ちゃん付けすんな。キモい」
『ギャゴォォァァァァァアアアアアッッ!!!』
……。
話が綺麗にまとまったかと思ったところで、後ろから耳を劈く轟音が聞こえてきた。
ズシン、ズシン と地響きが一定のリズムで起こっている。
茶髪と一緒に振り向くと、そこには体高10m近いトカゲ、というか恐竜がいた。
ステータスを確認してみると、膂力が4ケタ超えてる。どうあがいても勝てないヤツだコレ。
・・・・・・・・・。
『グギャァァアアアアアアアッッ!!!』
「走れぇええええええ!! 逃げろぉぉぉぉぉぉおおおおなああああああ!!!」
「逃げロナってなによ!? あ、ちょ、待ってぇぇぇええええええ!!!」
速度強化と膂力強化をそれぞれ発動して全力疾走!
なんかいい雰囲気で会話してて忘れてたけど、ここはバケモノが闊歩する危険地帯!
和やかなムードなんて許してくれるほうがおかしいんだった!
その後しばらく走り続け、恐竜が入ってこられないような岩石地帯に避難してどうにか事なきを得た。
……ここらの異獣は弱くて大したことないとか言ったヤツ、マジで許さん。嘘ばっかじゃないのクソが。
お読みいただきありがとうございます。




