焦燥疾走大脱走
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二丁拳銃で格好つけながら、アイツの囚われている最終試験場の隔壁を開けるように指示を出す。
頼むからさっさと開けてくれ。正直言って人殺しなんざできれば御免なんだ。
「ツヴォルフ一等員、どうか冷静になってください!」
「一等研究員のあなたが、なぜこのようなことを……!?」
「正気に戻ってください!」
ジヴィナ以外の職員たちが、狼狽しながら言い寄ってくる。
……一等研究員ねぇ。そんなクソみたいな役職、願い下げだっつの。
「心配いらねぇよ、充分冷静だ。今心配するべきなのは、オレじゃなくてテメェらの頭のほうだ。……ブチ抜かれたくなかったら、さっさと隔壁を開けろ」
「ツヴォルフ一等員!」
近付いてこようとする職員に向かって、引き金を引いた。
ダァンッ! と撃鉄が雷管を弾く音が部屋に響く。
「ひっ……!」
「いいからとっとと開けろっつってんだろうが!! それともテメェの頭のほうを先にかっ開いてブチまけるか!? ああ!?」
「くっ……!」
「……もう一度だけ言う。試験場の、隔壁を、開けろ。これ以上グダグダ抜かすようなら、皆殺しにしてから自分でゆっくり開けさせてもらうぜ?」
銃口を向けながら、最終通告をする。
あまりのんびりしてると、ギフト・ソルジャーたちが復活しちまう。その前になんとしてもこの施設を脱出する必要がある。
そして脱出した後に、アイツの存在は必要不可欠だ。少なくとも、目的地に着くまでは。
脅した職員たちが大慌てで隔壁を開こうとしている。
最初っからそうやってテキパキ動けばいいものを。手間取らせやがって。
なあ、ジヴィナ。
懐から拳銃を取り出したジヴィナに銃口を向け、銃弾を放った。
ジヴィナの手から拳銃が弾き飛ばされる。お前が普段から拳銃を携帯してることなんざ誰でも知ってるぞ。
「くぁっ!?」
「こっちの様子を窺ってるのがバレバレだぞ。よそ見した時に撃ち殺してやる、って顔に書いてあったぜ」
「……っ! 元実験体ごときが、なんのつもりですか! 最早言い逃れはできませんよ、『No.12』!」
「テメェらが勝手に決めた番号なんかでオレを呼ぶんじゃねぇよ。ま、今の名前も意味は同じなんだがな」
「皆さん、全員で取り押さえましょう! 一斉にかかれば、捕獲することはできるはずです!」
「ほぉ? やってみろよ。ただし、最初に飛び掛かってきた2、3人は確実に死んでもらうがな。たとえ死んでもオレを捕まえる覚悟があるって奴は、遠慮なくかかってこい。楽に殺してやる」
ジヴィナがこの場にいる職員たちに人海戦術でオレを捕まえるように声を上げたが、誰も動こうとしない。
ま、そりゃそうだよな。誰も死にたくなんかねぇだろ。
「み、皆さん! 恐れている場合ですか! このままでは、あの廃棄物にも、この裏切り者にも逃亡されてしまいま―――」
「ならテメェが見本を見せてみろ」
「はグァッ!?」
ヒステリックに喚いているジヴィナの大口に、銃口を突っ込んだ。
目を見開いて顔を青くしている。
「どうした、恐れている場合じゃないんだろ? 死ぬ気で捕まえてみろよ。……少しでも抵抗の意志を見せたら脳漿ブチまけて死んでもらうけどな」
「は……ぁっ……!!」
「死ぬのが怖いか? イエスかノーか、首を動かして答えろ」
そう告げると、震えながら首を縦に振り、答えを返してきた。
「だろうな。お前だけじゃない、誰もがそう思ってる。お前が焚きつけて犠牲にしようとしたこいつらも、あそこで飢え死にするまで放っておかれようとしてるNO.67も、そして、お前が今まで撃ち殺してきた落伍者たちも、な」
「……ふ、ぅ……! ふぐぅ……!!」
命乞いをするように目に涙を浮かべ、呼吸を荒くしている。
ああ、お前が処刑してきたやつらも、そんな顔だったな。
「少しは命の尊さってやつが分かったか? ま、お前の命なんざクソどうでもいいけどな。じゃあな」
ジヴィナの口に銃口を突っ込んだまま、拳銃の引き金を引いた。
乾いた発砲音が、辺りに響いた。
~~~~~廃棄物少女視点~~~~~
ゴゴゴゴゴ と試験場の隔壁が開く音がした。
あの茶髪男が開けさせたみたいね。
助かったけど、なーんで私を脱出させたのかしら? 謎だ。
開いた隔壁から試験場の外へ出て、再び通路を突き進む。
さっさと逃げないと。また罠にかけられたりしたら面倒だし。
「おいそっちじゃねぇぞ、逆だ逆! 進む方向も分かんねぇのに勝手に突っ走るな!」
……進んでる途中で茶髪男の姿が見えて、進行方向が違うと文句を言ってきた。
助けてくれたことには感謝してるけど、私の道は私が決める。なんでお前の言うことなんか―――
「だから、そっちは施設の中枢部へ向かう通路だっての! 出口はあっちだっつってんだろがこのバカ!」
アッハイごめんなさい。
すぐにUターンして、茶髪男の言う通りの方向へ進行再開。
そうして、気が付いたら茶髪男と並走しながら脱出する形になった。
「ったくこの猪突猛進バカが。あんな適当に走ってたら、脱出するころには日が暮れてるぜ?」
「悪かったわね! そもそも、こんなに広いなら地図くらい掲示しといてほしいわ!」
「誰もがそう思ってるだろうが、誰もやらねぇよ。そんな余裕ねぇしな。誰も彼も、自分のノルマをこなすので精一杯なんだよ」
「あっそ。……一応、助けてくれたことには感謝してるわ。ありがとう」
「どーも。やれやれ、命の恩人相手にそのふてぶてしさかよ。呆れるのを通り越して感心すら覚えるぜまったく」
「どうせなんか打算ありきで助けたんでしょ?」
「当たり前だろ。オレが見返りも無しに人助けなんかするお人よしに見えるか?」
走りながら肩を竦めて返す茶髪。
さっきのやりとりを聞いてた限りじゃ、少なくともここのクソどもの所業に腹を据えかねるくらい の道徳観はあるみたいだけど。
「この施設から脱走して、それからはどうするつもり?」
「このコミュニティから出て、他のコミュニティまで移動する。ここの研究データを手土産に持っていけば、ちっとはマシな扱いを受けられるだろうよ」
「コミュニティの外って、バケモノがうろついてるんでしょ? 目的地に行く途中で襲われたりしないの?」
「十中八九襲われるだろうな。戦闘能力の低いオレ一人じゃまず辿り着けん。だが護衛がいればなんとかなる」
「……護衛って?」
「お前だよ。他に誰かいるか?」
おい待て。なに当たり前のように人をボディーガードにしようとしてんのさ。
この茶髪、私をコキ使う気満々である。ふざけんな。
「嫌だって言ったら?」
「他のコミュニティへ続く道を知ってるのはオレだけだ。まぐれで辿り着けるほど近くも単純でもない道筋だぞ。ついでに言っておくと『外』の環境はいつまでも一人で生きていけるほど甘くない」
「……このコミュニティに留まったりとかは?」
「復帰したギフト・ソルジャーたちに捕まるだけだ。いくら強くなったとはいえ、全員総がかりでこられたらお前でも無理だと思うがな」
「さっきの侵入者が、そのギフト・ソルジャーたちを一人で全滅させたって話だけど」
「そりゃその侵入者が頭おかしい強さだったってだけだ。……ホントになんだったんだろうなアレは」
その侵入者こと腕の人のおかげで、今もこうして元気に走ってられるのよね。
もしも本人に会うことがあったら、お礼を言っておかないと。
あとできればもうちょっと食べさせてもらったりとか……無理に決まってるか。すっごく美味しかったなぁ。うふふ。
「要するに、拒否権は無いわけね」
「そういうこった。ま、お前はオレに案内してもらえて得、オレはお前に護衛してもらって得。悪くない話だと思うがな」
「……分かったわよ。くれぐれも、道を間違えないでよね」
「へいへい。お前もそのへんのバケモンに喰われたりするんじゃねぇぞ。でないとオレが死ぬ。まだ死にたくないんでな、マジで頼むぞ」
「死にたくないといえば、……ジヴィナは、死んだの?」
こいつも、ジヴィナたちみたいに人を殺すことをなんとも思っていない奴だとしたら、油断できない。
他のコミュニティに辿り着いた途端に、『騙して悪いが』って具合に頭を撃ち抜かれるかもしれない。
「いいや? 生きてるぞ」
「……でも、さっきジヴィナの口に拳銃突っ込んだまま撃ってたでしょ」
「ジヴィナに向けてたのは右手の銃で、オレがさっき撃ったのは左手の銃だ。あのヒス女にちっとばかし苛ついたから少し脅かしてやっただけだっての。……撃たれたと勘違いしたのか、泡吹いてそのまま気絶しちまったけどな」
「そうだったのね。……ふふっ、その時のジヴィナの顔がよく見えなかったのがちょっと残念だわ」
「あんなきたねぇ顔なんざ見る価値ねぇよ。お、ようやく出口が見えたな。じゃ、さっさとお暇しますか!」
茶髪男が扉横の端末にカードをかざすと、扉のロックが解除されて開いた。
扉の外には、見慣れたバラック街が広がっていた。
「さーて、モタモタしてると追手がきちまう。どうしても別れを言っときたい相手がいるなら手短に済ませとけ」
「……いないわ、そんなの」
「そうかい。ああ、そうそう。No.77なら心配いらねぇぞ。今回の騒ぎのことやお前のことまで話しておいてやったからな。今後どうするかはアイツ次第だ」
「っ……」
このゴタゴタの中で、あの子にわざわざそんな余計なこと吹き込むなんて。コイツ、やっぱ油断ならないわ。
なにが油断ならないって、こっちの心中を見透かしたように心残りを断っていくあたりが、ね。
お読みいただきありがとうございます。




