(12)レイナートVSユリウス
◇ ◇ ◇
「ベルセルカ!!」
祭壇らしきものの上に寝かされていた彼女を、かっさらうように抱き上げて、レイナートは砦から外に〈転移〉する。
青空の下、砦を囲むのは、石ころだらけの荒野と死体。
抱きしめればベルセルカの“加護”の力で、じゅうじゅうと自分の腕や胸が、甲冑越しに焼け焦げる。
痛い、間違いなく彼女だ。
かまわず、レイナートはその、赤髪の頭に触れた。
眠りの魔法がかかっている。
自分が開発した魔法〈誘眠〉と似て非なる魔法だ。
初見だが簡単な術式だ、すぐに解ける。
「――――〈解呪〉」
ベルセルカの脳をとらえていた眠りの魔法を一気に追い出した。
「……ベル、起きれ」るか、と最後まで聞くまえに、背後から突き出された剣をかわす羽目になる。
顔の横をすり抜けていくのは、細い魔鋼の剣。
見覚えのあるユリウスの剣だ。
引き続き焼け焦げ続ける己の腕と身体にかまわず、ベルセルカを抱きながら剣を抜き、ユリウスの攻撃をかわし、受け止め、走る。
魔力の大量消費と損傷する肉体と、治癒魔法の効果がせめぎあう。
ユリウスから5馬身(約12メートル)ほどの間合いをあけて、レイナートは着地した。
「……あなたも関与していたんですか?」
「彼女をそこに置きなよ。
それか彼女だけ、他の場所に〈転移〉させれば。
キミの身体、いま、治癒魔法がまにあわないぐらい焼け崩れ続けてるでしょ?」
「………………」
「いくら闘志が強くても、筋肉が損傷したら、人間は動けないんでしょ?」
おかしなことに、ユリウスが常識的なことを言っている。
だが、甲冑の下で、今にも身体から取れそうなほどグズグズに焼け崩れて煙を吹いている腕で、放すか、とばかりにぎゅっと元凶をレイナートは抱きしめる。
ユリウスが、ふぅとため息をついた。
その時。
「ン、んんん……」
繰り返し体を揺さぶられたせいだろうか。
ベルセルカの瞼に力が入ったかと思うと、レイナートの腕の中で目を覚ました。
「……レイナー…ト……さま!?」
名を呼びながら我に還り、自分のせいで、いま主の体にどんな大惨事が起きているかを察したベルセルカは蒼白になって飛びのいた。
「……ちょ、ちょっと、何を……!?
身体が、こんなボロボロに……!!」
――――おまえはいったん離脱。北東の方向にポダルゴスがいる。〈転移〉してポダルゴスに乗り、イヅルたちと合流しろ。
そう言おうとして、レイナートは気づいた。声が出ない。
“純潔の加護”に気管か肺をやられたのか。空気がむなしく出入りする。
一瞬遅れて、ベルセルカはユリウスの存在に気付く。
甲冑を剥がれた、剣もない、髪もほどかれた格好で、主を背にかばって立つ。
レイナートは腕をつかみ制止するが、ベルセルカはてこでも動かない。
ユリウスは、そんなベルセルカを見て、妙な憐れみを顔に浮かべる。
「恐い顔。
でもさ、今日はキミが悪いんでしょ?
悪魔の誘いにのった、キミがさ」
「……………!」
「シーミアの民が“千人殺し”への怨みから、悪魔の力を借りて反乱を起こした……って、伝えられたの?
だから自分の手で、自分だけの手で反乱軍をつぶそうとした?
何かあったときに、国王による虐殺と言われないように。
何かあったら、自分だけが殺されればいいように」
フフン、とユリウスは鼻で笑う。
「でもさ、レイナートが最初から来ていれば、こんなに人を殺さなくてすんだだろうね?」
「承知の上です」
「――――レイが心を痛めても?」
「貴方がその呼び方をしないでください」
「……俺を無視して、俺の話をするな」
かはッ……とせき込みながら、レイナートはようやく口をはさむことができた。
一人、自分の身体に治癒魔法をかけ続け、どうにか声をだせるまで回復したのだ。
「うん、さすが早いねレイ」となぜか嬉しそうなユリウス。
「アースガルズ大将軍」
「!! はっ」
レイナートに役職名で呼ばれ、一瞬ベルセルカの返事と敬礼が遅れる。
「……貴殿への処分は追って沙汰を下す。
王都帰還後はアースガルズ家邸宅にて謹慎せよ」
ベルセルカが、息をのんだ音がした。遅れて、「……承りました」
と返答した。
「あと」
レイナートは〈転移〉する。
ユリウスの頭上へと。
剣を頭から一閃。
「あんたは、俺とベルセルカの間に入ってくるな!!!!」
頭は瞬間的にかわしたユリウスの、肩からざっくりと肉と骨を斬り割った。
おかしな角度に顔を曲げて、美貌に鬼気迫る笑みを浮かべるユリウス。
そのまま黒い煙となって、シュウンと移動して間合いを確保し、再び実体化した。
肩の切断部分は、一瞬にして元どおり。
服だけがレイナートの剣のあとを残す。
「人聞き悪いこと、言わないでほしいなぁ!」
魔剛の剣をかまえたユリウスは、地を蹴り、いや、飛びながらレイナートに斬りかかった。




