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(6)異端の王が産まれた日



「……将軍。

 レイナートさまのお母さまとの出会いは、20年前、とおっしゃいましたね」


『ああ。

 それも、討伐する敵としてのう』



 レイナートが生まれる2年前のことだったという。



『王からの命令は“魔女”を討て、というものじゃった。奇妙な魔法、奇妙な知識を使い、次々と人の病を治し怪我を治癒する転生奴隷がおるとな。

 人の命を救っておるが、おそらく異世界の知識を持ち込んでおるので、国家争乱の大罪にあたるのだと、な』



 転生奴隷。

 転生者であるとされ、首筋に烙印を押され、売り買いされ、神からの刑罰として『罪を償うために』『労役を課せられる』人々だ。



 転生者が転生の際に犯すとされた罪は、聖典の解釈によるものでしかない。

 それに転生奴隷は、イカサマの『神判』で転生者とされた人々や、人さらいたちが誘拐して売り飛ばしているのをごまかすためにニセの烙印を押された人々が圧倒的に多くを占めていた。


 その事実を広めたのは、30年前にバルバロスに買われたとある少年奴隷……のちにグラディオ・ディアマンテと名づけられた彼の、転生奴隷たちへの聞き取り調査だった。



『最初は面白半分に紙とインクを与えたが、グラッドはまるで何かに取りつかれたかのように調査を続け、ある日(わし)に、分厚い紙の束を突きつけたんじゃ。

 下手くそな字で、血をにじませながら、10かそこらのこどもが調べあげた事実と執念に、儂は震えた。

 神を盾にした宗教者どもの欺瞞(ぎまん)と、他人を踏みにじる残虐を楽しむおのれを正当化したい民の欲望。

 儂自身も含めて、人間とはいかに醜いものかと、数字が、雄弁に物語っておった』



 その調査を見て以来バルバロスは、まず奴隷の待遇改善をした。

 つぎに、奴隷たちに教育を与え、訓練をさせ、自由民として生きていくための手に職をつけられるよう創意工夫した。


 結果、バルバロスは知った。


 奴隷でも娼婦でも障害を持っていても浮浪者でも、教育と愛と人同士の信頼によって、思わぬ能力を発揮したり、素晴らしい存在となっていくことを。

 しかしこの国は、その手間ひまをかけることができず、だからそれぞれの真の価値をどぶに捨て、奴隷として使いつぶし、埋没させてしまうのだということを。



 そうしてもうひとつ。


 転生者……の中でもさらに数少ない異世界人は、この世ならぬ力を持っていたわけではなかった。

 だが、人間の真の価値に最初から気づいていたふしがあった。

 彼らが『人としての権利』とよぶ、人としての扱い、それが真の価値を引き出す鍵だったのだ。



(なるほど、教会は知識だの『チート』だのいう異能力よりも何よりも、これを恐れていたのかもしれぬ)


 あえて言うなれば、

 ――――教会が伝えるよりも、より『正しい』神の与えし倫理。

 それを異世界人たちは知っているようなのだ。



 そういうわけで、もはやバルバロスは転生者を殺すべきではないという結論に至っていた。

 ゆえに、“魔女”の討伐にもまったく乗り気ではなかったのだが、すでに他の軍も派遣されていると言われて、やむなく、その転生奴隷の女がいる地へと軍勢を進めた。



 同じ地には、国教会聖騎士団も派遣され、厳しい異端狩りを始めていた。



『我々はその女を見つけた。

 漆黒の髪と、黒い瞳を持つ女であった。

 異世界人であり、前世は医師であったと』



 初対面で、命というものについて、バルバロスは彼女と語り合ったという。



『……(わし)は、妻と子を亡くしていた。

 流行り病であった。

 もし、この女がいてくれたら、その命は助かったのではないかと、思わざるをえなんだ。

 そして、この女がおれば、もっと多くの命を救えるのではと考えた』



 彼女を殺したくない。

 そう決心したバルバロスは、とんでもない詭弁を用いた。



「それで、主張されたのですね……。

 ご自身が、彼女を犯した、と」



 この女の腹にはすでに自分の子種が、つまり王族の子種が宿っているかもしれない。

 この女を殺すことはすなわち、王の血をひく子を殺すことだ、と。


 一般人には荒唐無稽に聴こえる論かもしれない。

 だが、聖騎士団は、腹に宿った瞬間から生命を生命として扱い堕胎を罪とする、国教会と同じ立場に立つ。なんなら、うまれて生きている人間よりもうまれる前の無垢なる胎児の命のほうを重視するときがあるほどだ。

 それ以上言えず、バルバロスは女医師を、カバルスへと連れさった。


 ちなみに許可もなく勝手なことを言われた彼女からは、強烈な平手打ちを一発くらったそうだ。



 ―――王城では大論戦が巻き起こった。



〈転生者が産む子は転生奴隷とする決まりである。父親が王族であろうとそれは変わらない〉


〈では、王族の血を引く者を奴隷としていいのか?

 王家の血を(ないがし)ろにすることではないのか〉


〈法は変えるべきではない。

 しかし、バシレウス将軍にはいまや妻子はなく、放っておけば王佐公のひとつが絶える。

 今回のみ特例を認めるべきではないのか〉


〈そもそもはらんだかわからない子を論戦の俎上に載せるべきではない。結局女は、身ごもっているのか?〉



 その間も戦場に出ながら、バルバロスはのらりくらりと、かわしつづけた。かわしきれなくなった時期に、『子をつくる』と宣言した。

 その間、彼女はカバルスで医療にたずさわり多くの人々を救うかたわら、いつかは自分が殺されるであろうと、ありったけの知識を書き記しはじめる。



『そうして、あやつは言った。

 殺される前に子を産みたい、と』



 30歳以上の年齢差のあるバルバロスと彼女は、男女の関係になり、やがて彼女は妊娠した。



 王城は論戦の結果、


〈王家の血を尊重し、子は生きて産み落とさせる。

 しかし烙印は押し、奴隷とする。

 産んだ母親は、その場で処刑する〉


という結論に至る。


 バルバロスは出産前の彼女の引き渡しを拒んだが彼女は吹っ切れたようすで、『子を産んで死ぬ』ことを選んだ。


 バルバロスらが立ち会いを許されぬ中、当時のカバルス領内の国教会支部で彼女は出産し、その場で殺された。

 生まれた子の柔肌には残酷にも烙印が押された。

 そのままその子は王都に連れていかれるはずだったが、教会を急襲したバルバロスに、母親の遺体とともに取り戻された。



『母親と子と、両方の命を助けると言えば、国も国教会も、この儂を討たねばならぬじゃろう。だが、どちらか片方ならば、儂との全面衝突を避けるはずじゃと。だから、産みおとし自分が殺されたのち、すぐにこの子を助け出してください、と。

 ふくらんだ腹をなで、笑いながら言いおったその顔が、忘れられぬ』



 取り戻した赤ん坊は男子であった。

 母親が生前に決めていた名前の候補から選び、我が子をレイナートと名づけた。


 そこから3年間、バルバロスは、王と国教会を敵に回し、レイナートの『人としての権利』を取り戻すために、戦い続けることになる。



 ……繰り返し聴いた、レイナートの誕生の物語だ。


 一人の女性が命とひきかえに守り、そののち父親がすべてと戦って守り抜いた少年。

 彼の存在こそ、多くの人の思いの証だと思う。

 だから思う。

 彼ほどこの国の王にふさわしい人間がいるだろうか? と。



『……で、ここから先の話じゃが……』


「あ、はい!

 レイナートさまの出生がなにか、いったい?」


『まずのう。

 レイナートが腹に宿ったことがわかる前に、何度か(わし)は、当時の国王に打診をされた。

 あの女は諦めて引き渡せ、子がほしいのであれば後妻をめとるがよい、と。何人何人も年端もいかぬ娘の顔を見せられたものじゃ』


「うわぁ……先々代の国王陛下が、そんなことしたんですか? ひとを家畜みたいに……」



『……どれもこれも、国王の隠し子じゃ』


「……はい?」



 耳を疑い、聞き返す。

 話に頭がついていかなかった。



『どうやらアントニウス五世の頃から、王城はひそかに、国王や王子の婚外子をつくりつづけていたようじゃ。

 王族とかけあわせ、魔力を強化するためのな』



 ベルセルカは、息をのんだ。

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『王子、婚約破棄したのはそちらなので、恐い顔でこっちにらまないでください。』

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