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(21)ドラコ事案完了

   ◇ ◇ ◇



 ドラコの夜は無事に明けた。


 数ばかり集め、魔法で強化された聖騎士団は、混乱のなか最後までまとまることができず、多くの者が逃げ出し、戦闘をしかけるどころではなかった。


 それでも、(ドラゴン)の出現に怯まない騎士が多くいた地点では戦闘が発生したが、レイナートが援護に加わると〈誘眠(ソムニフェル)〉などの魔法であっさりと騎士は倒され、捕虜になっていった。


 朝からドラコ軍は、町の人間の協力をあおぎながら、モンスターの死体の処理、敵方の人間の死体の片付けに入る。

 報酬はモンスターのからだの希少資源(ペルセウスがある程度処理していたのは、これらを無駄にしないためであった)。


 敵方の死体のなかには蘇生可能なものもあり、それらは一度、ドラコ城へと運ばれ、のちにレイナートから蘇生魔法をかけられることになった。


 ドラコ全土に渡っての夜間外出禁止令に不満を抱いていた者もいぶかしんでいた者も多かった。

 だが、自分たちの生命が危機に瀕していたことを知り、今回戦ったドラコ軍、それを支援した(という扱いの)カバルス軍に、熱い称賛の声が上がった。


 対外戦では戦っても戦ってもなかなか国民からの称賛を受けるということがなかったカバルス軍としては、初めて感じる喜びだった。


 一方、闇に溶ける真っ黒な猫の体を利用して、見張りとして国教会に張り付いていたナルキッソスも、無事に帰ってきた。

 なにげに今回の最大の功労者のひとりでもある。本人は「ぜんぜん活躍が目立たなかったにゃ!!」と不満げだったが。



   ◇ ◇ ◇



 夜通し起きて戦い続けた全軍は、1日ゆっくりと休養をとり、戦いの翌々日、論功行賞が行われた。



「っていうか!?

 国王だったなんて聞いていないわよ!?」



 と叫ぶメサイアと、やべぇ国王に無礼な口を聞いてしまったと青くなるドレイクの2人を、レイナートは、まずいったん領主代行に任じた。


 この国の貴族の爵位と財産の継承は、血縁の濃さより男系を重視してなされる。

 それにのっとれば次代ドラコ公爵は、先代ドラコ公の実の娘であるメサイアやその将来の夫、ではなく、(たとえ私生児であっても)先代の弟の子であるドレイクで確定となる……わけだが。


 本人はまだ冒険者を続けたいらしく、


「ベルセルカへの爵位授与が検討されてるんなら、姉上が女公爵でも問題なくね?」


とか、ぼやいていた。



 ――――爵位や領地、財産の継承権を女性にも認めるか?

 ――――貴族の家の当主として女性を認めるか?



 実はそこについて、枢密会議で争っているところであった。


 侯爵家以下はともかく、王佐公爵家については、今回のように王家で王位を継承できる人間がいなくなったときに国王になるという役目がある。ゆえに、今回の公爵位の継承には、血の濃さをより重視して特例を定めていくべきではないか?という意見と、たとえどんなに血が薄くなろうと旧来の法で進めるべき、という宰相側の意見。

 また、レイナートはこの2者とはさらにべつの立場に立っており、三者が激しく論戦を戦わせているのである。……で、なかなか決まらない。


 それはともかく。


 論功行賞は、ドラコ城に全軍集められ、カバルス軍とドラコ勢両方について交互に進められた。


 褒賞金を与えられる者。

 ペルセウスが回収していた希少素材で恩賞を与えられる者。

 扶持を加増される者。

 新たにドラコ公爵家に召し抱えられるもの……。


 先代ドラコ公の死によって心が離れつつあったドラコ勢は、再び公爵家との絆を強めた。

 今後は、メサイアとドレイクを中心に、新たな体制がスムーズにつくられていくことだろう。


 一方、レマが連れてきた前世の仲間である魔狼(ワーグ)たちはレグヌム王家の庇護下に入り、人間を食べないことを条件に、山岳地帯に『領地』を認められた。


 また、国王をドラコまで運んだ(ドラゴン)は、王都にレイナートとともに戻ることになった。王都の外縁に一部残る森を与え、王家で保護することになる。


 全てが終わった時、こちらに協力した冒険者たちの多くは、恩賞を受け取り、ドラコ城をあとにした。


 しかし、アスタルテとイーリアスをはじめとする12名の冒険者が、今後メサイアとドレイクに仕えたいと意思を表明。その中には、(名前を最後まで聞くのを忘れていたのだが)レイナートを罵倒してベルセルカにボコボコにされた女冒険者も混ざっていたようだ。

 心的外傷が酷く今回戦いに参加できなかった少女ヘルマについては、メサイアから頼まれ、レイナートが保護して王都に連れていくことになった。


 そして最後に……レイナートが蘇生した敵方兵は捕虜となり、命は助けたものの、今後の国教会との対決のために、尋問を受けることになった。



   ◇ ◇ ◇



「――――“聖女”の遺体が国教会支部から発見されたそうだ。遺体についてはこちらには見せてもらえず、国教会側で丁重に(とむら)うと。

 今回のドラコの件は、末端の暴走であり国教会の監督不足であり非常に遺憾である……みたいな、謝罪なのか言い訳なのかわからない書簡が俺(あて)に届いた。読むか?」



 レイナートが王都に帰還する前に、ベルセルカの部屋に寄り、顛末(てんまつ)を話し、書簡を手渡した。

 しかし一瞥のみで、ベルセルカはそれを机に置く。



「書簡ですか。せめて、高位の聖職者が説明に来てほしかったところですけど、そうですか、マーティアさん、死んだんですか……」


「ベル?」

 


 思いの外残念そうな顔をしたベルセルカに、レイナートは首をかしげる。



「え、えーと!

 なんでも、ありません」


「そういえば、正体は突き止められずじまいだったからなぁ。

 いったい、どういう素性だったんだろうな」


「……そうですね、()()()()()()()()()()


「なんだか元気がないな?」


「――――まったくそんなことないですよ元気いっぱいですあと2週間ドラコで引き継ぎがんばります!」


「あ、ああ……」



 まぁ、レイナートだって、元気いっぱいというわけではなかった。

 理由は目の前の女騎士だ。


 ベルセルカは2週間後にドラコから王都に引き揚げてくるが、そのあともすぐに征東大将軍の任を解くことはできない。

 国教会への警戒は引き続き必要だし、同時に、主なき領地をなんとかしていかなければならないからだ。

 何だかんだと、自分とは別に動いてもらうことが増えるだろう。


 ……自分のそばに毎日当たり前のようにベルセルカがいてくれる日々がどれだけ得がたいものだったかと、改めて思う。



「ユリウス王子がまた来たら、その場ですぐ俺を呼べよ。おまえの身に何かあったら」



 言いかけて、レイナートは口をつぐんだ。

 彼女に危険な大任を与えているのは他でもない自分自身だ。

 ユリウス王子が来たとき気まぐれにベルセルカを殺してしまっていた可能性もあったのに。



「レイナートさま?」


「なんでもない。

 2週間後、王城で待っている。

 戻ったら次の地に、また一緒に出よう」


「え、ええ……でも、私を待たなくても他の人と行ってきてもいいんですよ?」


「俺は、おまえ以外を相棒にする気はない」



 明らかに国王にふさわしくない感情が上振れした言葉が口から出てきた。

 その、自分の言葉にのせられたように、レイナートは思わずベルセルカの頬に触れた。



「……おまえが、いいんだ。」



 柔らかくて瑞々しくて、しっとりとキメの細かい頬。

 肌に浮かぶほんのりと甘い赤みが、いとおしい。

 一方で、こんな風に男に触られて嫌ではないのか、立場が上の自分に対して、彼女はただ我慢しているのではないかという懸念が、頭をよぎる。



「やっぱり、前言撤回します」



 しかしベルセルカはレイナートの手を、その柔らかい両手で自分の頬ごとぎゅっと包み込み、微笑んだ。



「レイナートさまと一緒に行くのは、私です。

 地獄の果てまで、お供します!!」




【第4話 了】

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