(16)各地の攻防
◇ ◇ ◇
「クソッ……どうにかしてくれクソッたれ……」
「……こんなに、怒涛のようにモンスターが出てくるなんてッ!!」
別のダンジョンの入り口では、後退しながら、溢れださんとするモンスターたちの圧力と戦う騎士たちと傭兵がいた。
獰猛で牙の鋭い哺乳類系、鎌首をもたげ恐ろしい高さから襲ってくる爬虫類系、怪奇な力で攻撃をくりだす妖魔系のモンスターがいりまじり、もともと少数の彼らは、死なないのがやっとだ。
剣ではリーチが足りない。
弩は時間がかかりすぎる。
矢が得意なものは山のように背負った矢を絶え間なく打ち続け、それ以外の者は、ここしばらくの鍛練で少しばかり強くなった体と、覚えたばかりの物理強化魔法で、槍を突きまくる。
「……なにか少しでもマシなことがあるとしたら、この槍ぐらいだなっ!!」
「さすが征東大将軍様はえぐい武器をおつかいだぜ!」
傭兵たちの軽口がとぶ。
配られていたのは急ピッチで増産された、ベルセルカの槍を模したものだった。
先端はしっかりとした剣、三日月を重ねたような側刃。
突けば突き刺さり、振れば切れる。ひっかければ首を刈れる。叩き潰すための重みもある。
しかし、ダンジョンの入口から押しに押され、町の入口が見えるところまで押されてしまっている。ピンチとしか言いようがない。
「みんな同じ割合で、カバルスの兵を割り振ってくれればよかったのに……!」
誰かがうめいた。
規模が大きいダンジョンに対して人員が多く割り振られている。
さほどマークを強くしていなかったダンジョンのなかには、ここのように、ドラコの騎士や兵しかいないところもある。
――――ドラコの騎士たちにとって、少しまえまで、転生者とはやはり『誕生そのものによって宗教的禁忌を犯した者たち』であり、『忌み嫌うべき』『排除すべき』存在であった。
それが多数をしめると言われるカバルス軍もまた、どうせ卑しい者たちなのだから、自分たちを守る肉の壁になればいいと思っていた。男でも小柄な兵や、ましてや女の兵など、それぐらいしか役に立たないだろうと。
それが、いきなりやってきた小娘の『征東大将軍』様に召集をかけられ、一緒に訓練を受けさせられる日々がやってきてからは一転。剣術、弓術、槍術、馬術、魔法、あらゆる方向でプライドを粉々に砕いてくる相手だった。
自分たちが蔑んでいた相手がこんなに強いなんて。
自分たちがこんなに弱いなんて。
直視したくない現実に、酒に溺れた者も少なくない。
―――だが、今は。
今、ここに、カバルスの兵がいてくれたら。
そう思わざるを得ない。
「……神様ッ……」国教会を敵にしているとわかっていながら、祈りの声が上がった。そのとき。
「おつかれさまです」
声変わり前の少年のような声がしたかと思うと、カバルスの軍装をまといながら見慣れない金髪碧眼の少年が、彼らの後ろにいた。12歳か13歳ぐらいだろうか。黒い手袋をしていた。
「お、おまえ、いっ……いつのまに!?」
「微力ながら援軍です」
言うと少年は、着ている服のなかから奇妙な黒い縄を取り出した。
縄のはずなのに妙にずっしりとしてジャリジャリとおかしな音ががするそれを、投げ縄のようにぐるぐると操ると、少年はそれをひょいッ、と投げた。
―――縄は騎士たちの頭上を越えて伸び、上にはみ出たモンスターたちの首を、その縄が届く範囲で綺麗に刈り取った。
「はい……?」
真上に吹きあがるさまざまな色の血に、呆気にとられる騎士たち。
「おっ……押し戻せ!!!!」
誰ともなく指示がとんだ。
モンスターの死体をかきわけつつ生き残っているものを殲滅していく。そこにさらに縄が飛び、その範囲だけまた血が吹きあがる。
「何だそれは……刃でできた縄か!?」
「大量殲滅用の暗器です」
大量殲滅用ってそれは暗器と呼べるのかと騎士は一瞬考えたが、突っ込みを放棄した。
「コカトリスの鱗を研いだ刃を人魚の髪の毛で編んでつくっています。
触るとお手が飛びますのでご注意を」
「了解!!!
強ければなんでもいい!!」
さらに縄が飛び、モンスターの首や胴や手足が飛ぶ。
士気をとりもどした騎士たちが、雄叫びをあげ、力をふりしぼり武器をふるう。
仲間の血の匂いをかいだらしいモンスターたちは、しだいに勢いをなくし、死骸の山をダンジョンの入口まで延々築いて、どうにか、ダンジョンの中にまで押し戻すことに成功した。
◇ ◇ ◇
さらに、別のダンジョンにて。
「しっかりしろッ!大丈夫か!?」
「おれは、もういい、それより、町を!!」
「モンスターが……モンスターに抜かれたッ!!」
ドラコ騎士・傭兵たちの奮闘むなしく、モンスターたちが怒涛のように流れ出、町の入口を突破した。
いくら町の者が指示を受けて今日は建物のなかに閉じこもっているとはいっても、モンスターたちはやすやすとそれを壊せてしまう。
「守れなかった……!」
瀕死の騎士が、そう呟いた。
そのとき。
…………地を響かせる震動、何かの大群の足音が近づいてくるのが一同の耳に聴こえた。
「なんだ、これは……」
「あれは……!?」
雪崩のように、火砕流のように。
山岳地帯の方から、茶色と灰色のかたまりが恐ろしい勢いで迫ってくる。
巨大なオオカミ、魔狼たちだ。
ひときわ大きな先頭の一頭の背に、見覚えのあるカバルスの軍装の少女が乗っている。
「援軍です!!
皆さん、大丈夫ですか!?」
茶色の髪と、蜂蜜色の瞳の少女――国王親衛隊所属レマ・ユピテルは、騎士たちに声をかけた。
「あ、ああ……」「え、援軍?」
「山岳地帯から、魔狼のみんなを呼んできました。
―――お兄ちゃん、モンスターがもう町に入ってる!」
「お、おにいちゃん……?」
少女を背に乗せてさらに『お兄ちゃん』と呼ばれた首領らしい魔狼は、少女とよく似た蜂蜜色の、しかし鋭い瞳を光らせると、鋭く吠えて群れを鼓舞、数頭が町のなかへ入った。
残りの狼たちは、町の外のモンスターを襲う。
大きな口に鋭い牙、恐ろしいその速さで、モンスターたちを食いちぎり、引き裂いていく。
その光景を、息を飲んで、騎士たちは見つめていた。
◇ ◇ ◇




