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(12)国王の資質

 レイナートとベルセルカが橋を渡りきると、愛馬たちと、10人ほどの護衛兵が待機していた。



「おつかれさまです、みなさんありがとうございます~」


「待機、ご苦労……あれ、イヅルは?」



 行きの時にいたイヅルの姿がないことを、レイナートは気づいた。 先に帰った?



()()にも聴かれたのが、ちょっと恥ずかしかったみたいですね」


「いや、恥ずかしいのこっちだから」



 若って言うな、ってもう1回念を押しておくことにしよう。



「あと、お待たせ、テキロ~」



 ベルセルカはいとおしげに、鼻を鳴らす愛馬の首をなでる。

 そして慣れた様子でひょい、とその背に乗った。

 が、とたんに、頭がぐらんぐらんと船をこぎ出す。



「……おい、ベル」



 同じく自分の愛馬にのったレイナートは、見かねて馬を寄せると、自分のマントをはずし、ベルセルカにバサッと頭からかぶせた。


 絶縁体、というべきか、このマントには、ベルセルカの髪を織り込んでいる。

 彼女の“加護”の影響を受けずに済むのだ。



「レイ……さ……ま」



 すでに眠りこみつつあるベルセルカをマントでくるみながら両腕で抱き上げて、自分の馬の背に、自分の膝に抱くように乗せた。


 千人殺しの殺戮の乙女は、レイナートの腕の中で、膝を折り曲げ、ゆりかごに入った幼子のように、すうすうと寝息を立てる。


 マントごしに、レイナートの胸にもたれるベルセルカの小さな頭、体温。

 鮮やかな赤い髪と、長いまつげが揺れている。



「よし、帰るぞ」



 王の声とともに皆が歩を進めだすと、ベルセルカの愛馬テキロが不満げに鼻を鳴らした。

 額に白い模様のある頭を振り、主を盗られたとばかり、こちらをにらみながらついてくる。



「今日は許してくれよ、テキロ」



 つい、馬にも声をかけてしまい、レイナートは苦笑した。



    ***



「良い方が国王になってくださってよかったですね」


「良い方、とは?」


「レイナート国王です。

 わざわざ、当主不在の領地を直々に訪れてご相談に乗ってくださる慈悲深さ、お優しさ……それにあの多彩な魔法の技術も本当にすばらしいものです。

 少々お優しすぎるところが心配ではありますが……」



 茶を片付けながら手放しでレイナートをほめる家令に、ふん、と若い姿のカロンは鼻を鳴らした。



「あやつはそんなお人よしではないわ」


「旦那様?」


「最初からあやつは、力でわしをねじ伏せられた。

 今回の機会に乗ったのは偶然かもしれんが、機を見て、おのれの力をわしに見せるつもりだったんじゃろう」


「力……とは?」


「わしの城に侵入した際に、ゴーレム300体と闘ったと言っていたじゃろう?

 あれは少し不正確でな。正確には、ゴーレム300体の包囲を、魔法を使わず、己の肉体のみで突破した。

 それもおそらく、わざとゴーレムに殴られて油断させたんじゃろうなぁ。

 城の外に逃げたと見せて、追って出た300体すべて、爆裂魔法一発で吹き飛ばしよった。わしの目の前でな」



 家令は、思わず息をのむ。



「ふん。。。震えが止まらなんだわ。

 とっさに変姿で身を小さくし、あやつの背に隠れた。

 そうしたら、そのまま、陣所に<転移>しおった。

 あれも気づいていてやったのかもしれぬ」


「そんなことが……」


「さすがは初対面でドラゴンを惚れさせる男じゃな。

 わしは惚れたわけではないが、勝てん、と思うた。

 ゆえに従った」


「さようでございましたか」


「それに、山賊の尋問もそうじゃ。

 さらわれた者たちをいたわるなら、わざわざ立ちあわせたうえで加害者を尋問などするものか」


「え、いえ、しかし、それは……」


「おそらくあやつは、人さらいの話を訊いた時点で、農民たちの様子を注意深く観察し、その正体を予想しておった。

 その上で公開尋問と見せかけて、山賊らに、ラットゥスの民を断罪させたんじゃ。

 子どもたちの前でな」



 家令は、思わず、片付ける手を止めた。



「子どもたちは思い知ったじゃろう。

 一歩まちがえば、簡単に自分も烙印を押されてしまうのであると。

 そして、その共犯が、自分の親かもしれぬと。

 わしが広めずとも、早晩この話はラットゥス中に広まろう。

 子どもたちが感じる、大人への“恐怖”によって、な。

 それもあやつは計算したであろう」


「し、しかし、ニセ転生奴隷や、さらったこどもたちにニセの烙印を押すことなど、予想できるものでしょうか……?」


「あやつの周りには、転生奴隷だった家臣が多くいるそうじゃ。

 おのずと人の売買の手口にも精通しよう。

 どのような人間がかかわるかも含めてのう」



 息をのんで、家令は新しい主人を見つめた。



「―――自分がさらわれ、売られるかもしれぬ。

 そう実感して初めて人は、奴隷の身に思いをはせることができよう。

 ゆえに、レイナート・バシレウスはその恐怖を、村人たちに、こどもたちに、共有させた。

 おそらくは今後、奴隷制度を解体していく布石として」


「……なるほど。そのようにも考えることができるのですね」


「おぬしはまだ違う考えのようじゃな」


「ええ、わたくしは―――旦那様のお話をうかがって、わたくしなりに考えなおしたのですが、おのれがさらわれ売られるかもしれぬという、恐怖、警戒をこどもたちに持たせることも含めて、あの方のお優しさではなかったかと」


「ふむ? あの烙印を消す力など、わしには、恐怖の中に『でも、国王陛下ならば自分を助けられる』と刷り込んでおるようにしか、思えなんだがな」


「こどもたちにとって必要な恐怖と警戒をもたせつつも、希望を与えたとも解釈できます。

 いや、あるいは……」



 家令は少し考え、首を横にふり、手元の仕事を再開した。

 自分たちの議論で答えがでるわけではない、と、聡明なこの家令は達観したのである。



「まぁ、どちらでもないかも、しれぬがな。

 思惑をすべては読ませぬのが国王の資質というものじゃろう。

 一つ言えるのは、いやおうなく、あやつがこの国に新しい時代を連れてくる、ということかのう。

 それが少し楽しみでもある」


「わたくしも、同じにございます」


「おお、意見が合ったな。

 さて、もう眠ろうか。

 情報と年の功は持つが、わしは領主の仕事など何もわからんからな。

 一から勉強せねば。明日から、頼りにしておるぞ」




[第3話 了]

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