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(11)新ラットゥス公(見込み)始動

     ***




「今回の“人さらい山賊事件”じゃが、ニセ烙印の手口もふくめて、領内に周知しよう。

 そのうえで、いったんラットゥス領内の奴隷は、すべて領主の所有とする」


「カロン殿?」


「さらわれた子どもが、奴隷として売られている。

 それを調べあげ、さらわれた子どもを取り戻すため。

 かつその上で、当面は、領主のものとなった奴隷らが今までと同じ仕事を担う……とすれば、まぁ、文句は出んじゃろう。

 先代カバルス公が奴隷を無くした時も、まず同じようにしたと聞いておるぞ。若き国王よ」


「……貴方の情報収集能力には、かないませんね」


「わしの母親も、悪い人間にさらわれて売られたエルフじゃった。

 奴隷なんぞ無くしてしまいたいのは、わしも同じよ。

 わしを産ませた男の血なんぞ呪ったことしかないが、わしの憎む人間(奴隷商人)どもを狩りつくし日干しにできるならば、せいぜい復讐のため使ってやろう」



 レイナートとベルセルカは、甲冑姿のままカロンの城の応接間に迎えられ、山賊たちの仕置について話をしていた。

 先ほど、ラタペル山のふもとの村で、国王の決裁権で、カロンを、まずは領主代行に任命した。

 その上でレイナートは、残りのこどもたちの烙印をすべて消し去った。



 今後、すでに売られたこどもたち・娘たちの捜索と山賊たちの処遇は、カロンにまかされる。

 山賊たちの起こした数々の罪は調べるほど重く、死刑を免れない者も多かったが、罪が比較的軽い者については、アペル側に送ったうえで罪を償うなどの検討をしたいとのこと。


 同じく、村人のなかでかつて山賊稼業や人さらいに手を染めていた者たちについても、取り調べを進めるという。



「『国王陛下』に烙印を消してもらえるかもという一縷(いちる)の望みがあるからか、皆従順じゃわい」


「実際に、6名は消しましたからね」



 山賊にさらわれ、協力させられていた、比較的罪は浅いと思われる者たちについても、その場で烙印を消した。慈悲ではない、ごくごく合理的な判断ゆえである。


 実際それを見た山賊たちは、先を争って、こどもや娘を売った先を白状した。


 多くはアペルにいる商人が相手であり、今後の捜索にはアペルとの連携が不可欠になる。


 幸い…というべきか、アペルもまた領主代行が不在で、レイナートが領主の仕事をしているので、こちらも今日のうちにアペルの者たちに、ラットゥスとの連携について指示を送った。

 2、3日中にアペル公に仕えていた騎士たちが、カロンのもとに急ぎ推参するだろう。



「山賊の捜査は官吏たちにがんばってもらうとして。

 早急にやってほしいのは、騎士を中心とした、ラットゥス軍の再編成です。

 8年前、ノールト軍との戦いでラットゥスの騎士団はほぼ壊滅しましたが、家ごと滅びたところは少ないはず。

 カバルス軍は立て直しに協力しますが、徐々に減らし、長くてもあと2か月で完全撤退させたい」


「3か月もらえぬか?

 従軍経験のある者も少なく、また訓練の期間が短いゆえ、魔法の習得もすぐには難しい。

 ならば、生まれつき屈強な体をもつ男を集めねばなるまい。

 できれば剣闘騎兵隊の者を貸してほしい」



 カバルス軍が女の部隊をつくれるのは、十分な訓練時間をとり、皆が皆、魔法に長けているからだ。

 確かに、その余裕はラットゥスにはないだろう。



「わかりました。

 剣闘騎兵隊の9割が元奴隷ですが、問題ないですか?」


「教えを請う身じゃ。

 うちのものに余計なことは言わせぬし、安全も保証する。

 奴隷の中からも、わしが兵をスカウトしよう」



 家令は、かたわらで微笑みながら、茶のおかわりを淹れている。

 これからはこの主人に仕えるのだと、覚悟を決めたようだ。


 彼だけではない。

 本日のうちに領内すべての地域に、領主代行への就任が伝達されたが、特に役人たち、騎士の家は、新たなる長が決まったことにホッとしている様子であった。

 明日から早速、謁見の予定が続々入っているという。



「それにしてもカロン様?

 どうして領主を引き受ける気になったんです?」



 ベルセルカが尋ねる。



「気が変わっただけじゃ。

 わしもこれから先の長い人生、身の置き場が必要でな」


「先の長い……人生ですか?」


「失礼な娘じゃな」



 カロンがベルセルカをにらんだ。


 椅子に腰かけたままのカロンの姿が、服装はそのままで見る見るうちに若返り、ふさふさと髪が生え、10歳ほどの年齢になって、止まった。


 ぶかぶかな服の中に埋まる少年。

 抜けるように白い肌に、長いまつげ。

 美少年、と呼ぶにはやや幼いが、まばゆいばかりに美しい。



「こちらが、わしの本当の姿じゃ」


「わーかわいいですね!

 ずっと口を閉じていたら天使なのに!」


「本当に失礼な娘じゃな!」



 家令がこらえきれないように、ふきだした。


 さて、と、レイナートが手元の書類をまとめた。



「では、明日俺たちは王都に戻り、カロン殿の存在を枢密会議に報告する。

 その上で、セネクス家の家督と、ラットゥス公爵位の継承を俺が承認すれば、正式にあなたは当主だ。

 おそらく一度、王都に来てもらうことになる」


「なんというか、国王のくせに、休日もまるで休まず……なんとも、忙しいことじゃな」


「ああ。だから、あなたの力が必要なんだ」



    ***



「さて、カロン殿に領主を引き受けてもらえて、爵位も継いでもらえることになった。

 山賊も退治し、さらわれた人々を取り返す目星はつきつつある。

 あとは新ラットゥス公に任せることになるが……って、大丈夫かベル?」



 城を出たとたん眠気が限界突破したらしいベルセルカがふらつく。


 堀に架かる橋を渡る足がおぼつかない。

 レイナートは、鎧の上にはおったマント越しに腕を支えながら、ともに歩く。

 いつも溌剌(はつらつ)としてきるベルセルカが、弱っているのは新鮮でもあり心配でもあり。



「すみ、ません……徹夜って、するものじゃないです、ね………」


「一晩中おつかれさま。

 今回はずいぶん無理したな」


「……どうしても違和感があって。

 私たちは、少々急でもすぐ体勢を作れるので、村人たちに、あえて余裕を与えないでみようかなと」


「そうだな。時間を与えないでおいたおかげか、村人たちも理論武装できずに、その後の尋問も至ってスムーズだった。が」



 今回に関して言えば、ベルセルカの判断は合っていると思う。


 山賊が犯人であるという情報が手に入った状態で村人に1日与えていたら、色々と準備ができてしまっただろう。今回のスムーズな処理には多分にそれも作用している。が……。



(……確かに、見ている側は心配だな)睡眠不足、よくない。



 おのれのこれまでの行動をかんがみ、レイナートはしばし反省しながら、「もう無理はしないでくれよ」という言葉を吐き、「言える立場ですか?」という応酬を受けた。

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