(9)最強布陣をつくるのは
一瞬で女の体に戻り、胸をおさえて着地するイヅル。
同時にオーガは人間の姿に戻り始めた。
服を確かめる。
胸を巻き固定していた布がちぎれたぐらいで、服の方には損傷はない。
イヅルの着ている黒いシャツの構造にも工夫がある。
身頃が大きく重ねた前合わせになっており、変身で胴体が大きくなって力がかかれば、留め具が自然に外れるようになっているのだ。
留め具さえ直せば、ちょっと胸がすーすーする以外は、特に問題なし。
転生者特化型魔法〈前世還り〉を使う転生者たちにとって、服が破れないように、というのは死活問題だった。
なにせ、イヅルが前世いた世界と異なり、服もそうそうぽんぽん買えるものではない。
みんな繕いに繕いを重ねて着ているのだ。
とはいえ、とっさの変身で服をまるごとダメにしてしまうケースもあるのだけど。
「………ちょ、うしに、のる…な…」
オーガから、完全に素っ裸の中年男に戻った首領が、地面に伏し、ピクリとも動けないながら、うめく。
山賊たちは、ほぼ、掃討されていた。
「ここを、ただの、穴だと、おもう、なよ……」
「知ってる。
下級のダンジョンだろう?」
「……!? なん、で、気づいて!!」
「うちには何でもお見通しの姫君がいるからな。
昨日、砦を見つけられた際に、その中まで透視され、確認された。
よくこんなところを砦にしようと思ったな、おまえたちは?」
首領の顔色がぐっと、白くなった。
ダンジョン、とは、元は城の塔や地下室を指した言葉であると言う。
それが転じて、悪い気が溜まった地下に自然発生する、あるいは何者かによってつくられる、霊体中心のモンスターの巣窟を指すようになった。
彼らは、ダンジョンの入り口の浅いところに居住していた。
おそらくは奥にもうひとつの扉をつくっているのだろう。
そして何者かの襲撃を受けた際、その扉を開放し、モンスターに襲撃者を襲わせる。
モンスターの存在を知っている山賊たちは、その隙に逃げるという算段ではないか。
……と、いうのが、朝ベルセルカが述べた推論だったが、どうやら首領の顔をみる限り、合っていたようだ。
「ふ、ふ、ざけるな!!!
少しでも刺激すれば中のモンスターたちが黙ってねぇ!!!
おまえら、このままみんな、食われちまえ!!!」
「もうひとつ教えてやろう。
うちにはな……」
イヅルが何か言いかけたその時に。
彼の足元に、ふっ、と転移魔法で現れた男、否、少年がいた。
背中に、自分の体がすっぽり入りそうなほど大きい、ゴツイ宝箱を背負っている。
「イヅル総長!
ただいまダンジョン、クリアいたしましたッ!」
「うむ。重畳」
「ではお約束どおり特別褒賞として、最深部のお宝、謹んで受け取らせていただきます!」
金髪碧眼、声変わりもしていない13歳ぐらいの少年は、当たり前のように報告する。
「なんだよ、お、面白くもねぇ冗談、いいやがって……!!」
「いや、本当だ」
「こ、こんなこどもが?
それに、あんな短時間じゃ、ダンジョンの第一層もいけねぇだろうが……!」
しかしイヅルの言葉を証明するように、穴から続々と兵たちが無事に出てくる。
山賊たちを連行しながら、さらわれたこどもたちをつれながら。
モンスターは、スケルトン一匹出てくる気配がない……?
改めて、イヅルは首領に説明する。
「彼の前世は、有史以来5人しかいない“聖王級冒険者”だ。
大陸じゅうのダンジョンを300以上鏖殺している」
「なんでいきなりそんな奴が出てくるんだよ!?」
イヅルの口上に、首領は叫び声で返した。
「ズル…い…だろ。
透視でダンジョンがわかる奴といい、おまえといい、なんで、そんな奴までもが…………」
“なんで、そんな凄い奴が、強い奴が、集まっているのか”
言いたいところはそんなところか?
正確に言えば、その主が一番すごくて強いのだけど、それはおいておいて。
そんなの、答えはひとつしかないだろう?
胸を張ってイヅルは答えた。
「うちの若だけだからさ。
転生者を人として愛してくれる『王』はな」
「――――どや顔してるところ悪いんですけど、イヅル」
「ベ、ベルセルカさま!?」
「ちょっとそこの人、そのまま芋虫のように転がったままで良いので答えてください」
さらわれたこどもらしい、10歳ほどの少年を連れたベルセルカ。
彼女は首領に寄ると、美貌に珍しくにらみつけるような表情を浮かべ、きつい口調で問いただす。
「これはあなた方がやったのですか?」
少年の首筋に、生々しくも痛々しい、焼き印のあとがあった。
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