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(5)方針共有

 その時「失礼いたします」と部屋の外から声がかかった。


「どうぞ」



 レイナートとベルセルカが立ち上がると同時に扉が左右にゆっくりと開き、ベネディクト王国王太子クロノスが姿を現した。



「式典はお疲れさまでした、陛下。

 聖王格認定試験用の推薦状をお持ちいたしました。私からのものと、ヒム王国代表の王女殿下からのものです」


「ああ、感謝する。確認させていただこう」



 長く使われているらしい、魔道具の文書箱を受け取る。蓋に描かれている魔方陣に、魔力を注いで開封した。

 納められていた推薦状は、確かに二枚。それぞれ王家の印章が捺されている。


 実は念のためレイナートは、事前にノールトのフィリ女王ほかいくつかの国の出席者からも推薦状を受け取っていた。

 推薦状に不備があると難癖つけられた時のためだ。



「推薦状、確かに頂戴する。この推薦状は決して無駄にはしない」


「陛下でしたら魔法剣術いずれも問題なく突破されるでしょう。それと」



 クロノスの後ろに控えていた従者が、別の文書箱を主に手渡す。

 それをクロノスはベルセルカの方に差し出した。



「こちらもご依頼があったベルセルカ嬢の推薦状です。お受けになるのですね?」


「はい! ありがとうございます。

 私は魔法の試験だけ受けます。

 剣もできれば受けたかったんですが、大陸聖教会やほかの国の首脳陣の目があるところでの男装は避けたいので断念しました」



 しゃべりながらやはり魔力で開封して(ふた)を開け、推薦状を広げる。

「わああ……こんな感じなんですね。確かに、推薦状いただきました。ありがとうございます!」

とベルセルカは頭を下げた。



「ドレスでは足元の動きはだいぶ制限されますから剣はさすがに難しいでしょうね」


「変に目立つから受けない方が良いんじゃないかと言ったんだがな」


「ふふふ……逃げたと思われるとシャクですから……」


「「?」」不穏な笑みを浮かべる美少女に、レイナートとクロノスは顔を見合わせた。


「……どういう事情かわかりませんがベルセルカ嬢。そもそも女性の受験者は本当に(まれ)ですので、何か余計なことを言ってくる者もいるかもしれません。どうか気にしないで試験に集中してください」


「はい! 大丈夫です」


「それと、お疲れのところ恐縮ですが、晩餐の前にお二方とも少しお時間をいただけますでしょうか。先ほど、ノールト王国のフィリ女王陛下も到着されました」


「そうなのか。予定より早いな」


「ええ。せっかくできた時間ですので、お二方に皇帝陛下、女王陛下、オクタヴィア王女殿下もご同席の上で大陸聖王会議の流れを確認し、方針を共有しておきたいのです」



     ***




「では、皆さま。流れを確認していきましょう」



 迎賓館の会議室。

 一同が円卓につき、クロノスが仕切る。



「我々は明後日早朝ゼルハン島を出発し、内陸に向けて大河をさかのぼります。現地に到着するのは会議五日前に設定いたしました。

 まず会議の二日前に、聖王格認定試験が実施されます。

 レイナート国王陛下、ベルセルカ嬢が、こちらで聖王級の称号の獲得を目指されます」



 地図を指差しながらクロノスが説明する。



「議題については、別紙でお配りしましたが、議長国ヒム王国より極秘裏に教えてもらいました。

 全部で議題は16。1日8時間ずつ、2日にかけて協議されます。

 今回の『征魔大王国レグヌムの王位継承問題』は2日目の最後に話し合われる予定です。

 一つの議題にかけられる時間はおよそ1時間弱」


「……前の議題が押せば、もっと時間を短くされる可能性もあるな」


「ええ。

 セーヴィルのウルティオ一世は、自分こそがレグヌムの正統な王位継承者であると主張しています。

 正統な王はレイナート陛下かウルティオ一世猊下か。多数決によって議決します。

 ウルティオ一世猊下が勝てば、ゲア大陸の主要国は連合軍を形成し、レグヌムへと侵攻すべし……大陸聖教会は各国首脳にそう働きかけているようです」


「一神教の教えを重視する国々としては、異世界人の子である俺が一国の王を務めているのは由々しき事態。

 議決は戦争を仕掛ける格好の口実となるな」


「我が国としては、その事態を何としても止めたいのです」



 クロノスの言葉にローレンシウス皇帝が、

「貴様らの国も、大陸聖教会の教えを国教としていたと記憶しているが、なぜレイナートの側につく?」

と口を挟む。



「一つには、資源です。

 我々ヒム同盟としては、ローレンシウス大陸の資源を必要としています」



 ヒム同盟とは、大陸中央部の五王国と傘下の大公国・公国で構成される同盟だ。



「中継地点となるレグヌムと良好な関係を維持し、絶え間なく交易を続けたい。

 戦争で断絶させられてはたまったものではない。

 それがヒム同盟の本音です」



 ヒム同盟に属している五つの王国は、すなわち、ゲア大陸に於ける五大先進国である。

 産業的にも、かなりの資源を確保しつづける必要があるのだろう。



「もう一つ、ヒム同盟は現在、大陸聖教会と緊張関係にあります」



 クロノスは続けた。



「ヒム同盟の国々は、もともと民族の体質的に他の国々よりも魔力が弱く、魔法を使える人間が王族や貴族の中でも極端に少ないのです。

 そのため歴史的に周辺国の民族から蔑視され、戦争のたびに蹂躙されてきました。

 国を強くしなければならない。その思いで、かつて我々は技術革新に活路を求めたのです。

 早々に社会制度を改革して奴隷制を廃止し、異世界人を中心に転生者を保護、その技術や知識を活用してきました。

 また、他の国で転生者かとの疑いを向けられた知識人・技術者たちが、ヒム同盟の国々に亡命してくることにもなり、結果、技術の進歩が加速いたしました」



 レイナートはうなずく。

 つまり、カバルスで起きているようなことが、ヒム同盟の国々でも起きているということだ。



「大陸聖教会はそれを良く思っておりません。

 近年では、大陸聖王会議のたびに我々に『教えを遵守せよ』と、つまり、異世界人の排除と先進科学技術の放棄、奴隷制度の復活を求めてくるのです。

 ヒム同盟の国々にとっては、もはや社会的にも倫理的にも決して受け入れられません。

 むしろ、奴隷取引が活発な国と隣り合っている同盟国は、すでに()()()()()()を強いられており、それを肯定する宗教勢力に強い反感を抱いています」



 その『多大なる犠牲』が何なのか、奴隷制度のある国々の代表であるその場の面々には、だいたい想像がついて、レイナートは無意識に眉間に皺を寄せた。



「つまりは、大陸聖王会議での議決をもって寄ってたかって一国に侵攻する……という前例ができてしまえば、今度はヒム同盟の国々が標的になりうる」


「ええ。我々は軍備も兵員も十分に備えてはいますが、戦争では真っ先に民が、そして子どもたちが犠牲になります。戦争自体を起こさないことに心血を注がねばなりません」


「………………」



 クロノスの言葉の端々から伝わってきたのは命の重さ。

 おそらく、レイナートが理想として考えていたよりも、さらに。


 少し目を閉じ、レイナートは息を吐いた。

 いやこれが本来の重さなのかもしれない。

 ファランではないが、これまで自分がどれだけの人間を殺してきたのか、それを忘れてはならないのだと改めて思った。



「……脱線しましたね。戻しましょう。

 問題は、いかにウルティオ一世猊下を勝たせないか。大陸聖教会の本来の教義や各国の宗教学の論文を改めて読み込み、思いついたのが」



 言葉を切り、クロノスは全員の顔を見る。



「議決での勝敗以前に、この議題そのものを潰してしまう策です」



     ***

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