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(11)考察は錯綜する



   ◇ ◇ ◇



「ベルセルカ様のおっしゃる『貴賤結婚の定義が変わったのでは?』説、面白い着眼点ではないかと思うのですよね」



 イルゼは黒いとんがり帽子をふりふりしながら饒舌に語る。


 膝の上においたナルキッソスの喉を撫でると、ごろごろとナルキッソスが甘える。



「かつて貴賤結婚が禁じられ、無理矢理結婚したとしても、その間に産まれた御子からは王位継承権が奪われるといったこともあったと聞きます。

 そして、王佐公十三家もまた、大体断絶しては入れ替わっているのですよね。この国の爵位継承は制約が強く、断絶する家が出てくるのは必然というやつで……。

 まぁ、しばしば家系図が改竄されたり、断絶した家の後継って言い張ったり、後世の人が思い込みでつなぎ合わせてまちがったものが伝わったりしちゃうのは、私たちが元居た世界もこの世界も、同じのようですけど。アハハ」



「ご実家が断絶することで、いきなり立場が弱くなることも、ありますよね?

 お父上が亡くなり、ご兄弟もいなかった場合とか」



 ベルセルカは口を挟んだ。



「たとえばですけど、王妃様が王佐公十三家の出身で、結婚後、何らかの理由で実家が断絶した……。

 それでご実家がなくなったことにより、王妃は『王族ではない、だから貴賤結婚である!婚姻無効!』みたいな難癖(なんくせ)とか……」


「ちょっと筋が悪いな」レイナートが突っ込む。


「じゃあ、もっとシンプルに!

 原則王族との結婚でなければならなかったのに、たまたま一時的に宰相とかが強大な力を得て、王族じゃないのに娘を王に嫁がせて……

 で、王が亡くなったら権力闘争の果てに、貴賤結婚として婚姻無効にさせられたとか?」


「そっちの方がありそうかな……。

 でも、いまだにガイウス十六世の王妃の身元が特定できる記述にあたらないな」


「ガイウス十六世の結婚の時期の日記も漁っていて、見つからないのですよね……もしかして、一切日記資料を残していないバシレウス家から入ったとか?」


「どの家も、資料がある期間とない期間があるからなぁ……」



 ベルセルカとレイナートの会話を聞きながら、ガイウス十六世の死の前後の日記資料の記述を確認していたブルグルが、ふと、顔をあげ、ぽつりと言った。



「……むしろ、跡継ぎの王子に成り代わった人間は何者なんでしょうか」


「アントニウス一世……じゃないだろうから、そうじゃない何者かが30年間王だったんだろうな。一人じゃないかも知れないが。

 その人物がどうかしたか?」


「ウルティオ一世が満を持してこちらの国の非を問うのなら、考え方によって見解の相違が起きうるとか、議論の余地のあるものではないのでは、と」


「…………?」


「俺はイルゼさんがぐーすか眠っている間も、彼女と彼女のベッドを腹の中に入れて大陸じゅうを回っていました。

 同じ大陸の中で同じ宗教を信仰していても考え方は千差万別。

 たとえばさっきベルセルカ様が言ったようなことなら、議論は分かれますから」


「そうか……ブルグル、あとでイルゼの勤怠状況の監査したいからちょっと時間くれ」


「へ、陛下!? 働いてますから陛下ぁっ!!」イルゼが悲鳴をあげる。


「それはともかく。

 もっと議論の余地なく、うちの国に非があるものじゃないかって言いたいのか?」


「国教会を『異端』と認定したぐらいですから。

 その王子を排除して代わりの人物を立てるにあたり、この大陸の人間なら議論の余地なく『異端』であると言えるようなことをしたんじゃないかなと……」


「たとえば、俺の母やおまえたちのような、異世界人がかかわっていたとか?」


「あるいは――――アンフィデール様の前世の母君のように、悪魔の力を借りたなど」



 ブルグルの言葉に、自然と、アンフィデールへと皆の視線が集まった。


 王女は慣れているように、その視線を受け止める。



「――――あたしの記憶にご用?」



 レイナートは席を立ち、ひとり離れて座るアンフィデールのもとへ向かう。



「ひとつの可能性として探っときたいだけだ。前世の悪魔関係の記憶はどれぐらいある?」


「そんなにはないわよ。何せ人間の女の腹から産まれたのだもの。

 ――――まぁ、呼び出して頼る方法は知っているわ。召還や取引にはいろいろと必要なものがあるから、証拠も残りやすいわね」



 注目を集めることが嬉しいらしく胸を張るアンフィデール。

 一方…………『悪魔』という言葉を聞いたとたん顔を伏せたナルキッソスは、ぴょこん、と、イルゼの膝から降りた。


「ナルキッソス?」

「散歩してくるにゃ」


 と、とととと……と走り、あっという間に部屋から出ていく。


 困ったように笑ったイルゼは、「ごめんなさい、陛下。私も散歩してきますねぇ」と席を立った。



   ◇ ◇ ◇



「――――なんで着いてきたんですにゃ。

 師匠、絶対話聞きたかったでしょう?」


 城の廊下を歩きながら言うナルキッソスを、

「うーん、それはねぇ」と言いながらイルゼは抱き上げる。


「こんなに可愛い子が泣きそうな顔してたら、慰めたくなっちゃうものだよ。ね、ナル」



 イルゼの肩に顔を埋めながら、ナルキッソスはため息をついた。



「ごめんなさい」

「全然? 思い出しちゃうときもあるよ」



 赤子を寝かしつけるようにナルキッソスの背を撫でながら、イルゼはゆっくり歩き出す。



「もうすぐ2年になるねぇ。

 私がナルキッソスと出会って」


「…………なんで、人間って悪魔なんかに頼るにゃ」


「なんでだろうねぇ。神様に糞食らえって言いたくなるときがあるのかなぁ」

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