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(7)猫の記憶




「……なーにしてるのにゃ?」



 いきなり足元から可愛らしい声が響き、アンフィデールはビクリと飛び退いた。


 黒猫が、足元から、じとーっとした目でこちらを見ている。

 レイナートが服の中に入れて大事に運んできた黒猫が。



「あんたは」


「陛下の猫、ナルキッソスにゃ。

 オレ、一緒に寝るからここに来たのにゃ」


「そ、そう……」



 しゃべる猫、そういう種族もいるのかもしれない。

 ただ、アンフィデールにはもっと思い当たる存在があった。



「……使い魔を使役できるの?

 国王は」


「いや、陛下は違うにゃ。

 オレは悪魔崇拝者が飼っていた元使い魔で、陛下に拾われたのにゃ」


「へぇ…………」


「それより、変な時間に陛下の部屋に来るのやめてにゃ。

 何をしようが陛下はベルセルカ様以外と結婚しないにゃ」



 ――――ズバッと黒猫が核心を突いてくる。

 アンフィデールはちょっとカチンときた。



「なんで猫のあんたに、そんなこと言われなきゃなんないの」


「陛下も同じこと言うにゃ。

 陛下はベルセルカ様が大好きなのにゃ」



 いつの間にか扉の前に回り、立ちふさがるようにしてアンフィデールをにらむ黒猫。

 しっぽを振り振りする威嚇行為さえ可愛いのが、ムカつく。

 


「好きあっている者同士が結婚するべきだって?

 そんなことが王に許されると思っているの?

 王とは、数えきれないぐらい長い間民から奪ってきた存在。

 それだけの業を背負っているのよ」


「論点ずらしすぎにゃ。

 結局いまあんたは、異性として陛下を惹きつけようとしてここに来てるにゃ。

 それでいまさら『そもそも王族の結婚とは』を論じるなんて、卑怯にゃ」


「…………!!!」



 見事に言い返された。



「この世界、悲しいことに、好き合っていても結婚できないこと多いにゃ。

 好きな人がいて、身分的に障害がない二人なら、邪魔されずに結婚するべきにゃ。

 諦めてにゃ」


「だって、あの二人じゃ――――()()()()()でしょう?」


「?? ベルセルカ様は高位貴族の令嬢にゃ?

 なんにも支障ないにゃ?」


「貴族の娘であって、王家王族の娘じゃないでしょう?」


「……にゃ?

 何を言っているにゃ??」



 アンフィデールは、目の前の黒猫をしばしにらむ。



「……陛下が好きなのはわかるけど、やっぱり、諦めてにゃ」


「は? 誰が誰を好きだって??」



 心底腹だたしく、舌を打ったアンフィデールは、

 ――――にま、と笑って、黒猫の前にしゃがんだ。



「な、なんにゃ!?」


「腹が立ったから、ちょっと意地悪するの」


「……にゃ!?」



 ナルキッソスの小さな頭に、アンフィデールは手をかざす。



「あんたのいやーな思い出、蘇らせてあげる」

「や、やめろにゃ!! いやにゃ!!」


「もう遅いわよ――――――〈記憶再生ヴィヴィフィカ・メモリアム〉」



 アンフィデールの手から浮かんだ魔法陣がナルキッソスの頭をくるみ、拘束しようとした、その時。



 がぷっ。



 突然、目の前が真っ暗になって、何か背中側からぬめぬめしているものにくるまれた。

 ねっとりと、動物に食われたように、粘膜に密閉されるような不快な感触。



(な、な、なによ、これぇぇぇぇぇぇぇっ)



 一瞬呆然としたのちに、アンフィデールはパニックになった。



     ***



「……大丈夫か?? ナルキッソス」



 腹から開いたイソギンチャクのような口。

 その大口で後ろからアンフィデールを“捕食”し体内に入れ込んだのは、イルゼの相棒、ブルグルだった。



「ブルグルせんせぇっ!

 助かったにゃぁぁぁ」



 ぴょいっ、と飛んだナルキッソスがブルグルにひしとしがみつく。



「どうしたナル、何されそうになってたんだ?」


「あの人が部屋に入るのをオレが必死でとめてたにゃ!

 ……って、陛下、ブルグル先生と一緒にいたのにゃ?」



 ナルキッソスはしばらく尻尾をブンブン振った後に、ブルグルの後ろにレイナートがいたことに気付いて文句をつける。



(いで)でっ!?……この人、めっちゃ俺の中蹴ってきてるんですけど、陛下」


「おまえごしに誘眠魔法(ソムニフェル)ってかけられるか?」


「……たぶん、俺でさえぎられて中の人にはかからないですね……。

 仕方ない、蹴られながら寝ます……」


「ごめんなさいにゃ、ブルグル先生!」



 気にするなというように手を振って、しかしどっと疲れたような顔をしてブルグルは、自分に割り当てられた部屋へと戻っていった。

 レイナートはナルキッソスを抱き上げる。



「……とりあえず、寝るか」

「遅いにゃ陛下」ナルキッソスは腹いせに、レイナートの鼻をしっぽで攻撃した。

「やめて本気でクシャミ出るから」

「クシャミをオレにかけたら顔面ひっかくにゃ」

「なんなんだその理不尽」


 はいはい、いい子いい子、となだめるようにナルキッソスの背をなでるレイナート。

 鼻先をぐりぐりとレイナートの肩にこすりつけながら、ナルキッソスはぽつりと、言った。



「……オレ、たぶん記憶見られたにゃ」


「ん?」


「んにゃぁ……へいかぁ」ぐすんぐすんとすすり泣くナルキッソスをしっかり抱いて、レイナートは寝室に入った。



     ***



 ――――一方。

 三時間後。


 ぷはぁっ!!!


 アンフィデールは、再び光のある空間に吐き出された。

 悪い予感はしていたのだけど、ドロドロの粘液が髪や服まで浸透してものすごい悲惨なことになっている。



「もうっ!!!

 何よこれぇぇぇぇえぇぇっ!!」



 全身、髪まで絡んだ粘液に怒りの言葉を吐くものの、完全に腰が抜けて動けない。

 ようやくの思いで後ろを振り向くと、



「……三時間暴れっぱなしでお疲れ様です」



 若い男がベッドに胡坐をかいて呆れたようにこちらを眺めていた。

 上半身は裸で、その腹に、イソギンチャクのような大きな口が開いていたのが、ちゅるんと閉じて消えていく。


 アンフィデールがレグヌムに来るまでに護衛についてきていた、ブルグルではないか。



「ほんと、好き放題俺の中で暴れてくれましたね。

 めっちゃくちゃ痛い」



 その言い種、ひどい。

 胸ぐらつかんでやりたい。

 でも力が入らない。



「…………王女に対して、これって。

 頭、おかしいんじゃない?あんたたち」


「ナルキッソスがかわいそうだったので。

 そうそう、そこに衝立(ついたて)とバスタブ用意しましたよ。

 あなたに腹の中思い切り蹴られながら、借りてきたので。

 もうお湯ではなく水ですが、がまんしてください。

 あと着替えもあるので、着たら部屋まで送ります」



 ため息をつきながら、アンフィデールは衝立の向こうに回り、粘液まみれの服を脱いでいく。

 一人で着替えをしたこともない身分だった。

 しかし、ここしばらくの虜囚生活で、いやでも身につけなければならなかった。


 脱いだ服を置いてバスタブに入る。

 ブルグルがこちらを覗かないかと一瞬警戒したが、それはなさそうだ。



「――――あの猫、目の前で、飼い主殺されたのね」


「……へえ。そういうのを知る魔法があるんですか?」


「まぁね。……しかも異世界人なのね。」



 猫の記憶を覗いて、アンフィデールは少し後悔していた。

 記憶を覗くということは、それだけ相手の気持ちが流れ込んできてしまう。

 つまり、共感や同情をしてしまうのだ……。



「まぁ、動物を使い魔にする飼い主なんて、ろくなもんじゃないけど」



 前世の記憶にもとづいて、アンフィデールは、つぶやいた。




     ***


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