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(33)墓場のオクタヴィア




「ところでレイナートさま。

 私、気になってることがひとつあるんですけど……」


「ウルティオ一世が、オクタヴィアに似すぎていることか?」


「……はい」


「ベルセルカが考えているようなことはないと思う」



 レイナートは先回りして否定した。

 その可能性を口にするだけでも影響が大きすぎること、先にレイナート自身も少し時間をかけて考えたのだが、可能性は極めて低い、という結論に至った。



「……ウルティオ一世に〈断罪〉は効かなかったんだろう?

 かつ、もしウルティオ一世が何らかの手段で王城に侵入し、亡き前王妃陛下との接触をはかったとして。王妃様が、(さき)の国王陛下を自らの意思で裏切ることはまずない。

 オクタヴィアは、お二方のご結婚ののち比較的早く産まれていたそうだ。

 子どもができないことを焦って他の男に……という可能性も低い」


「そう……そうです、よね?」



 そう、それに、8年前の大陸聖王会議で、オクタヴィアはウルティオ一世と顔を合わせているはずだ。

 あれだけ似ていれば、8年前に1度話題になっていなければおかしいだろう。……オクタヴィアからも自分に何か一言あったはずだ。


 そもそもオクタヴィア王女の顔立ちは、亡き母親の面影がかなり強い。

 その顔に、教王が酷似している、というのなら……。



「ウルティオ一世が二百年もあの若さを保っているなら、ある程度自分の見た目を自分の思いどおりに操作することもできる魔法もつかえると考えるのが自然だ。

 だとするなら、俺たちを動揺させるために、わざわざ、あの外見で現れた、とも考えられる。

 そもそもあの場に“教王”の姿を知っている人間は、いなかったしな……」


「そう、ですよね。

 ……安心していいですよね??」


「そもそも、オクタヴィアの生物学上の父がどうであろうが、俺たちにとって、あの人の大切さは変わらない」



 レイナートはそう言いきる。



「これから先は史料探しの旅だ。

 理解にもオクタヴィアの力は不可欠。

 変なことは考えず、目の前のことに集中しよう」


「はい!!」


「――――あと」


「……はい?」


「あとで手合わせしたい。

 どれだけ強くなったか、教えてくれ」


「……ええと……。

 すみません引きこもりすぎて、むしろ腕が落ちてるかも、しれません」


「?」



 なるほど、強くなってる自覚はない、と?



「あと、確かにとっても暇だったので、多少は鍛えましたけど、お湯に入ってのんびりもしてましたし。

 それと……正確にはわからないんですけど、毎日美味しいもの食べ過ぎて、たぶん、その、多少お肉が……?」



 ――――いったい、なんでそれで強くなったんだ??



 “魔剣”を変形させるほどの魔力とベルセルカの語る生活とが頭のなかで結びつかず、思わずレイナートは心中突っ込んだ。



   ◇ ◇ ◇



 ――――その頃。

 王城からほど近い、歴代国王の墓が並ぶ、墓地。



 走り込んできた馬車の中から「降ろして」と、極上のフルートの音のような声が響き、やがてそこから、この世のものとも思えない美しい姫君が降り立った。


 光り輝く金の髪に、希少な宝石のような青い瞳。

 その顔立ちは、神の産みだした奇跡としか言いがたい、造形美。

 王国随一の美女と謳われる、王女オクタヴィアだった。


 大きな花束を、その手に携えているが、彼女の美しさの前では花束がまさに引き立て役だった。



「ありがとう。

 少し、ひとりにしてくれるかしら?」



 馬車の御者に伝えると、馬車は静かに墓地の敷地の外へと走っていく。



 オクタヴィアはこの外出を、レイナートには告げていない。



『引き続き、ユリウス王子に命を狙われる可能性があります。

 どうか、結界で包まれている王城の中にいていただけますか?

 外出の際には、声をかけてください。

 俺が同行するか、国王親衛隊の者をつけます』



 場合によっては国王みずから警護を務めるとさえ強調され、重々(じゅうじゅう)釘を刺されていたのだが……。



 墓地を静かに歩き、亡き父、アントニウス六世と、母が眠る墓の前にそっと、立つ。

 国教会が18年間レイナートの命を狙ってきた敵だとしたら、オクタヴィアの父は、18年間レイナートを虐げてきた親玉だ。

 自分が父に花をささげるのを知ったら、レイナートのなかの嫌な記憶を呼び起こしてしまうのでは。

 そう、危惧しての、内緒の外出だった。



 花束を供え、ひざまずき、祈った。



(無条件で“愛する父”とは言えない人だったわ)



 オクタヴィアはオクタヴィアで愛してくれた人がたくさんいたが、アントニウス六世の関心はもっぱらユリウスに注がれていた。

 だけど、その愛する息子に殺されてしまった……かわいそうな父。




「――――――――親孝行な娘だ」




 ぶしつけな声に、オクタヴィアは、ゆっくりと立ち上がる。

 旅人のような服装をした、自分とそっくりな顔をした男に目を見開いた。

 しかしこの人物が誰かは、すぐにわかった。

 8年前、彼の前に立った時に感じたプレッシャーを、良く覚えている。



「8年前の大陸聖王会議以来ですわね、教王猊下(げいか)

 そのお顔は、何のおつもりですの?」



 オクタヴィアが13歳になったばかりの頃に、国の代表として出席した、大陸聖王会議。

 そこで、教王ウルティオ一世とも顔を合わせていた。



「…………ふふふふ。

 8年前に君に会って以来、その顔が本当に気に入ってね。実は8年間この顔で過ごしたよ」


「なるほど、ずいぶんと気持ちが悪いこと」



 もちろん、それが本当のことだとしたら何らかの意図があってだと思われるが、それにしても、気持ち悪い告白だ。



「もしも君が男に生まれていたらこんな顔だったかもしれないと思ったら、少し想像してみたくならないかい?」


「ないですわね、まったく」


「そうかい?

 もしも、自分が王だったら、とは?

 だって――――君が王位を逃したのは、ただひとつの理由のせい。

 男じゃないから、それだけだ。

 そして君はいまも王位を諦めていないのだね?」


「いったい何をおっしゃりたいのかしら?」


「いまのまま、現行法でも、君が国王になる手段はある。

 それはわかっているだろう?

 王室法は、王を男子に限っているが、その『男子』の定義を何も定めていない。

 つまり、永続的に女を男に変える魔法をかければ、君は、押しも押されもせぬ王位継承者となるわけだ」



 そして、教王、ウルティオ一世は、にまりと笑み、同じ服のまま――――オクタヴィアとそっくりの女の姿になった。

 そのオクタヴィアと同じ顔で、微笑みながら、首をかたむけて誘う。



「私ならできるよ?

 君を男に変えて、王位を奪い取らせてあげることが」

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