(31)女騎士は甘える
「座らせてくれ」
レイナートがそう言うと、ベルセルカは、すっと離れた。
地面に座ると、こちらに寄り添って座ってくる。
ずっと会っていなかった分、改めて、綺麗だと思う。
「悪かった、カバルスに置いていて。
――――いや、違うな。
まちがえた、俺が」
レイナートを殺すためには膨大な魔力をどうにかする必要がある、というだけの理由で、罪もない人間をごっそりと殺すような敵が現れるとは、思ってもみなかった。
それも、本来はレイナートの敵側の人間を。
でも、ベルセルカがもしここにいたなら。少なくとも生存者はもっと多かった。
万全を期すなら、ベルセルカを連れてくるべきだったのだ。
「そうですよー。
ベルセルカ・アースガルズは、つねに前陣で戦ってこそですよ。
温存しないでください」
「…………了解」
「それから」
ベルセルカは、刃物で手首に傷をつけ、「どうぞ」と、傷口の血をレイナートに差し出す。
「私の血の魔力だとレイナートさまより少ないですけど、ちょっと楽になると思うので!」
「……ありがとう」
ベルセルカの血を、唇ですすった。
彼女の血を口にするのは初めてだ。
変哲のない、塩と鉄と生命力の味、のはずなのに、彼女の身体を流れているその血液を飲んでいるというだけで高ぶりを覚える。甘くさえ感じる。
ベルセルカは、レイナートが血を飲みやすいように身を寄せている。ぴとりと。
服越しの体温、かたむけてきた頭の重みを感じる。
こく、こく、と、のどをくだっていくそれが、永遠に身体にとどまってくれればいいのにと思う。
ほどほどのところでレイナートは唇をはなし、ベルセルカの傷口に治癒魔法をかけた。
ベルセルカは身を寄せたまま、口を開く。
「――――教王は大陸聖王会議で、レグヌムの正統な王は自分だと主張するそうです」
「まぁ、あちらの方が国際社会の中では地位を築いているだろうから、会議のなかでは、こちらが不利だろうな」
「これからレイナートさまの身にいろんなことが起きていくんですよね……危ないことも増えるでしょうね」
「ベルセルカ?」
「いままでは、レイナートさまは一番強くて絶対死なないって信じさせてもらえて、だから安心してきました。
だけど、これから先……私がいないところでレイナートさまが死んだら、私はどうしたらいいですか?」
ぐり、と、甘えるようにベルセルカがレイナートの肩に頭をすりつけた。
「そばにおいてください。
もう離れるの、いやです」
レイナートはベルセルカの背中に手を回して、ゆっくり、抱きしめる。
「…………ごめんな」
だったら結婚を承諾してくれ、などと思う気持ちもうっすらないではなかったが、珍しく直球で甘えてくるベルセルカに、正直、レイナートは癒された。
彼女がいるから自分は、折れずに済んでいる。それはあらためて思う。
「――――だいぶ回復した。
問題なく蘇生治療に戻れる」
「そうですか、まだ休んでも」
「大丈夫。ありがとう」レイナートはベルセルカの額にくちづけた。
「……ああ、そうだ。
今回これが終わって王都に戻ったら、あらためてオクタヴィアと話す時間をつくろう」
「二百年前のことを、調べるんですか?」
「ああ。
国王の日記だけじゃわからない部分を、本格的に埋めていく。
二百年前に何があったのか――――こっちも理論武装していかないと」
その前にまずは、イクソドイデア領民の蘇生と治療を終わらせなければ。
レイナートは立ち上がり、歩きだした。
◇ ◇ ◇




