(26)どうしてこんなに殺せない。
◇ ◇ ◇
――――――――大聖堂、隠し部屋。
「……失敗ですか」イクシオンが舌打ちする。
「残念です、切り札は尽きた。
ここからあとは、蘇らされた生者が増えるばかり。操作できる死者は次々に減っていく。国王が有利になっていくだけでしょう」
「……では、撤退ですか??」
「まさか。
ここで仕留めます。
ここで仕留めなければ、この我々の仲間たちの犠牲が無駄になってしまいますよ?」
イクシオンが諭すような口調で話すと、大きな図体の割に自分の頭で考えることを放棄している副団長は、“敬虔な殉教者”の表情になり、うなずいた。
「そうですね、これまでの犠牲者も含めて……あの国王さえ殺せたなら、すべてが報われる」
「ひきつづき、階下の“死体操作術”は、かの客人ほか、こちらの手の者が続けています。
加勢が来る前に、次の機会を逃さぬように」
加勢、ときいて、副団長の顔に影が浮かんだ。
加勢が来ると言うことは、外の聖騎士団員たちが全滅するということだからだ。
「しかし、国王にもう、隙など」
「貴女のお力をお借りできますか?」
「もう、やってる。
憑依できそうな相手を見つけたわ」
イクシオンは、隠し窓から聖堂のなかを覗く、“占有憑依者”をみやった。
◇ ◇ ◇
「あり……がとう、ございます」
仇敵を討ったレマは、粗い呼吸を整えながら、レイナートの前でぐっと剣を握りしめた。泣きそうな顔になる。
レイナートは、ぽん、とレマの頭に触れた。
「良くやった。
悪い、もうちょっとだけ、がんばってくれ」
「は、はい!!」
イヅルやルーシーたちのもとに2人は戻る。
「……もぅ、魔力切れる前に済んで良かったにゃ!!」
今回一番の大役をつとめた替え玉は、ぽん、と煙をはじけさせて元の姿に戻った。
黒猫ナルキッソスの元の姿に。
「ナル、ご苦労様」
「弓の仕事はもうやりたくないですにゃ」
今回は朝からずっとレマに化けてきていて、ぐったりとしんどそうなナルキッソスをレマは抱き上げる。
「ありがとう、ナルキッソス」
「――――めちゃめちゃ疲れたにゃぁ……」
「本当にありがとう。ごめんね」
「レマさん、ナルキッソスさんはこちらへ――――――――!!??」
レマに声をかけてナルキッソスを受け取ろうとしたルーシーがいきなり頭を抱えた。
「う、い、痛………」
「大丈夫にゃ!? ルーシー様!?」
「いた、痛……」
しばしうつむき、頭を押さえていたルーシーだったが、すぐに微笑み、「ナルキッソスさんこちらへ」と黒猫を受け取ろうとした。
「うん、ありがとうですにゃ!!」
ルーシーの腕に抱かれたナルキッソスは、犬のように、ぶんぶんと尻尾をふった。
◇ ◇ ◇
――――いけたわ。
あとは、もう少し様子を見て、国王を。
ルーシーに憑依した“占有憑依者”は微笑んだ。
しかし、気がついたら国王が視界にいない。
いつの間にか後ろに回っていた男が、後ろから伸ばした手で自分の額に触れた。
「――――〈悪魔祓い〉」
ばしゅっ、と音がして、ルーシーにとりついた“占有憑依者”は祓われた。
◇ ◇ ◇
「……祓われてしまった?」
イクシオンは明らかな動揺を顔にのせた。
憑依した魂のコピーが一瞬で消された“占有憑依者”が、頭をかきむしる。
「あの、黒猫だわ!!
しっぽを変な振り方してた!!
私が憑依したのをあいつ、見抜いて、国王に合図したのよ!!」
「団長閣下。
も、もう、この期におよんでは、無理とわかっても国王に一矢を……」
「一矢も当たらないのが落ちですよ!!
国王め、いったい――――――――」
イクシオンがうめいたその時。
彼らの視界が変わった。
隠し部屋にいたはずの3人は、大聖堂の中に〈転移〉させられていた。
国王たちの、目の前に。
「!!!」
「さっきから、どうもおまえたちのいる辺りが怪しかったんでな。
〈遠隔透視〉で探ってここまで転移させた」
血の海であることは変わりない。
しかし、さきほど一斉に落とした聖職者たちの首は、いま、皆つながっている。
どんな連係プレーをしたのか想像もつかないが、そんなことはイクシオンにとってはどうでもいい。
問題は、死体がないということだ。
聖堂のなかで国王を襲った聖騎士たちは、かろうじて命を奪われていない。
死体がなければ、“死者操作術”はつかえない。
そもそも術をかけていた者たちも、カバルス兵たちに引きずり出され始めていた。
考えられる限り最高の手を使ったはずだ。
どうして、国王は、こんなにも殺せないんだ……。
「黒幕はおまえたちか?」
「どうでしょうか」
「まぁいい。聴取はあとだ。
いまからは全員、蘇生を優せ……」
銃声がした。
異世界人転生者のイクシオンだからわかった。銃の音だ。
放たれたその弾丸を、身を翻した国王は剣で切り裂いていた。
(……本当にどんな化け物なのか)
銃声よりも国王の剣に衝撃を受けて、イクシオンは、つばを飲んだ。
しかし、この銃声はなにか?
よくわからないが、可能性があるとするとあの客人。マントを頭からつねにかぶっている、大陸中央神聖教会のつかいの人物か??
「――――――――驚いた。
当代のバシレウスは、弾丸も切れるのか」
イクシオンはいぶかしく思った。
祭壇の上に立ったマントの人物の口調にまるで緊迫感がない。
その手に持った長い筒は、この世界の銃、らしい。
何の指示も待たず、カバルス軍の者たちが国王を囲む。
弾丸を知っているかはわからないが、攻撃を王のもとに届かせてしまうなど、部下たちにとっては不名誉だ。悔しいだろう。
「――――火薬武器はネフェルが使うからな。適当に触れている」
「さすがだ、会えて嬉しいよ。
レイナート・バシレウス」
その人物は、ぱさり、と、マントのフードを払い、顔を出した。
金の髪と、サファイアのような青の瞳。
その顔の中性的な美しさに、イクシオンは目を見張る。
「大陸中央神聖教会、教王。
ウルティオ一世だ」
◇ ◇ ◇




